176 搾り取る
魔王達は皆唖然としていた。
世界の頂点の一角であるつもりでいたのに、それを遙かに凌駕するような強さを見せつけられたのだから。
私も最後の攻撃が何だったのか理解出来なかったので、少々戸惑ってしまった。
暫くして、ジャネスを回復してやらないとと思って席を立つ。
幸いにして結界の中にいるので、どれだけ酷い状態であったとしても命は取り留めている。
生きてさえいれば私のスキルで何とでもなる。
「う……あ……」
体中の水分を失って干からびてしまっているが辛うじて生きてる。
レントちゃんも結界があるから使った技だろうけど、制限無しで使われたらと思うとぞっとするね。
とりあえず点滴して体の水分を戻してやらないとかな?
「アイナ、ちょっと待ちな。そのまま復活させると自動でまた攻撃してくるから、狂戦士化が解除されてからにしな」
すぐに復活させようとしていた私にマル婆が待ったをかける。
確かに自分の意思で動いてるように見えないし、先に解除しないと面倒そうだね。
私は狂戦士化を解除するファンタジー毒を生成してジャネスに打ち込んだ。
体格は既に萎んでいるので変化が分からないが、色は緑から肌色に変わったのでたぶん元に戻ったはず。
「ちょ、ちょっと待ちな。今何をしたんだい?」
「狂戦士化を解除したんだけど?」
「他人のスキルに干渉出来るとか、こんなとこで見せちゃいかんやつじゃないか」
マル婆に注意されて気付いたけど、キャサリン姉とリスイ姉もジト目でこっちを見ていた。
確かに魔王達が揃ってるとこで見せちゃダメだったかも?
これは後で説教コースかなぁ……。
もう、全部ジャネスのせいだ!
私は八つ当たりとして、ジャネスが狂戦士化した時に体がピンク色になるファンタジー毒を打ち込んでおいた。
回復薬を生成してジャネスに投与すると、程なくしてジャネスは目を覚ました。
「うん……?俺は何故倒れているんだ?」
「負けたからだね」
「アイナ!?お、俺が負けただとっ!?」
ガバッと起き上がって辺りを確認すると、無傷のレントちゃんに見下ろされてるのに気付いたようだ。
服がボロボロになってるジャネスとは雲泥の差で、それが勝負の行方を表していた。
実際は服どころか体までボロボロにされてたけどね。
「それで、何か言い分はあるか?」
カク爺が冷めた目でジャネスに問うと、ジャネスは唇を噛みしめ悔しそうに俯いた。
そりゃあ自分が主張した強さを圧倒的に見せつけられちゃ、何も言い返せないよね。
暫し沈黙が訪れたので、今のうちにレントちゃんにさっきの技について聞いてみる事にする。
「レントちゃん、さっきのは何をやったの?」
「あれは空気中の湿度をマイナスにしたんです」
「……はぁ?」
湿度ってのは何も水分が無い状態で0%になるものでしょ?
マイナスって物理的にあり得ないんだけど、何を言ってるのかなこの子は?
「あ、マル婆様が言うには実際にはマイナスにはなってないらしいんですけど。湿度0%にしてもシルヴァ様みたいな強い人は水分を失う前に効果範囲外へ逃げちゃうんですよ。だからもっと早く急速で相手の水分を搾り取って倒せないか考えた結果、魔力を思いっきり込めたら空間を歪ませる事が出来て、いっきに搾り取れるようになったんです」
何を言ってるのか分からないが、レントちゃんがヤバいという事だけは良く分かった。
湿度は一定になろうとして水分がある方から無い方へ流れる。
でもその速度は0と100が隣り合ってても一瞬で搾り取れる訳じゃない筈。
それをレントちゃんは空間を歪ませて搾り取る速度を上げたって事?
空間を操るスキルを持ってるマル婆と修行してたから、そんな能力まで身に付けちゃったのか……。
一瞬で体中の水分搾り取られて無力化されるとか、これもうレントちゃんに勝てる人って居なくね?
防御力もめっちゃ高いし。
「レントちゃん攻撃力もだけど、防御力もなんでそんなに高いのよ?」
「私は根が臆病だから、身を守ろうとして無意識に皮膚の水分に魔力を込めてたみたいなんです。そうすると体表を覆う水分が私の支配下に置かれるので、それを越える干渉力が無いと弾かれちゃうんです」
つまりそれを上回る気や魔力を込めないと、レントちゃんの支配下にある水を破壊出来ないし攻撃が通らないと……。
ちなみに今のレントちゃんの魔力量は4000万である。
そんなん倒せる奴おるかー!!
いや、ミミィの『暗黒爆裂掌』ならあるいは……。
「ア、アイナさん?何か不穏な事考えてません?」
「いや、どうやったらレントちゃんを倒せるだろうかと」
「何で私を倒す方法考えてるんですかぁっ!?」
まぁレントちゃんが敵になる事は無いと思うけど、一応ね。
さて、ジャネスの件はこれで片がついたのかな?と思っていたんだけど、何やらまだ不穏な空気が……。
カク爺はジャネスに向かって少々の怒気を込めた。
「ジャネス、勇者の弟子云々の前にお前には聞きたい事がある」
何故かその言葉にジャネスがピクリと反応したのを私は見逃さなかった。
「我が弟子『疾風』のアロスと、マルディアの弟子『迅雷』のリィナの事じゃ……」
……ん?
んんん?
カク爺が今、何かとても聞いた事ある名前を言ったような気がするんですが……?
この物語はファンタジーです。
実在するファンタジー毒とは一切関係ありません。




