169 大元
「……という訳で侯爵はお城から居なくなりました。めでたし、めでたし」
「めでたし?お城全壊したのに?」
「すいませんっした!!」
あれだけパワーアップしても正座はきついっす!
王女様、もう許してください!
「まぁいいですわ。公爵派閥の武闘派最強格である侯爵が失脚したのであれば、政権奪還も容易でしょうし」
丁寧に全容を説明してようやくソフィア王女の怒りが沈静化したようだ。
願わくばあのバカ王子が再び火を注がぬ事を。
異空間に行ってた人が全員戻ったところで、また談話室で作戦会議を行うことになった。
今回の議題はタケル君から単刀直入に投げかけられた。
「結局、僕と聖女様はいつまでここに居ればいいんでしょう?」
しかし、それに答えられる者などいない。
「はっきり言えば、今のままなら永遠に戻れないね」
嘘で安心させても意味はない。
残酷かも知れないけど、早くここを出たいというのであれば、現実と向き合って解決策を見出してもらわなければならない。
「やるとしたら、国のトップの首をすげ替えるしかないけど」
「アイナ様、考え方が物騒ですよ」
「でもレオナさん、2人は命を狙われたんだから、それぐらいやらないとまた同じ結末が待ってるだけだよ。しかも次は私が側にいるとは限らない。解決するには大元を断つしか無いと思う」
室内が重い沈黙に支配される。
今まら元魔王だけでなく現魔王候補のレントちゃんもいるから不可能ではないよね。
かなり力技になっちゃうけど、私力技の解決方法しか知らんし。
そこへ、場違いな明るい声で帰宅する能天気が。
「『暗黒爆裂掌』が最っ高に気持ち良く撃てたのじゃ〜!聖域吹っ飛んだから、次の聖域どこかにないかのぅ?」
ミミィが上機嫌で報告するが、それを聞いた聖女は顔を引き攣らせる。
「せ、聖域を破壊した?絶対に壊せない『絶璧』の結界が施してあるのに……」
「お?お前その『絶璧』使えるか?使えるんなら、ここの庭に聖域作って欲しいんじゃが。そうすれば遠くに行かなくても撃ち放題じゃ!」
「出来るわけないでしょっ!あれは長年修行した聖女のみが使える高度な魔法なのよ!」
「あ、私が修行で使えるようになったので、聖域作りましょうか?1日1回が限度ですけど」
異空間で修行したソフィア王女は、どうやら聖女を遥かに凌ぐ実力を身につけたようだった。
なるほど、教皇国が欲しがる人材なわけよね。
聖女はポカンと口を開けたまま「う、うそ……」と絶望に染まっている。
それにしても『絶壁』ってちょっとくるものがあるから改名しない?
私半分ヴァンパイアなせいか体の成長止まってて凄く気にしてんのよ。
そんなミミィの楽天的な行動を他所に、帝国の騎士団長は難しい顔をして考え込んでいた。
「大元を断つか……。帝国や教皇国はおそらく元凶では無いと思う」
「え?何で?帝国と教皇国が勇者と聖女を狙ってたんじゃないの?」
「暗殺の指示をしたのはそうなのだろうが……。実は帝国の皇帝が何度か龍王と会談していたらしいのだ。たぶん裏には龍王がいる」
騎士団長の言葉にヴァイスさんが同意したように頷く。
「龍王ならやりそうですね。帝国がアイナ様の首を要求したのもそれなら納得がいきます。直接部下をアイナ様の下へ向かわせれば龍王の支配から解放されてしまう。それで帝国を利用して間接的にアイナ様を消そうとしたのかも」
「ええっ!?じゃあ、もしかして私が元凶っ!?」
「いえそうではありません。勇者と聖女は元々帝国と教皇国から狙われていたと思います。利害が一致した事で動いたのでしょう。そうでなければ帝国と教皇国にだけリスクが大きすぎます。仮にも勇者を敵に回しかねないのですから」
龍王か……。
「龍王には因縁があるからね。ドラゴン狩りしてたらキャサリン姉にめっちゃ怒られたし」
「それは自業自得では……?」
「よし、大元の龍王を最初に叩いちゃおう!今度はドラゴン狩りしても大丈夫なはず!」
普通のドラゴンなら魔闘気だけでいけるし、龍王の支配から解放しながら行けばこちらの戦力も増えていく。
私一人でも楽勝だね。
しかし何故かカク爺が待ったをかける。
「こら、待たんか。さすがに龍王の下へ攻め込むというのは看過できんぞ」
「え?何で?」
「魔王を倒すという事は世界の均衡を崩しかねん。勇者としてはそれを黙って見過ごせぬ」
「魔王なんだから倒しちゃってもいいんじゃないの?」
「そういう訳にもいかんのじゃ。それぞれの領土を治めておるからの。ある意味その国の無法者の抑止力にもなってるんじゃ」
「じゃあ帝国が獣人国と闇王国に攻め入ってるのはいいの?」
「あんなもんでそこの元魔王共を倒せる訳なかろう。実際返り討ちに合ってるようだしの。しかしお主は違う。今の実力であれば龍王を倒せてしまうじゃろう」
まぁたぶん倒せちゃうと思うけど。
「でも一回懲らしめないとずっと悪さし続けそうだし……」
龍王を倒さないと帝国と教皇国を止めたところで、結局手を替え品を替え何かやらかしてくるんじゃない?
私はいつまでも粘着されるの嫌いなのよ。
なんとか元を断っておきたい。
でも勇者が敵に回るのは困るなぁ……。
カク爺とマル婆を相手にするのは大変そうだし、キャサリン姉やリスイ姉とはそもそも敵になりたくない。
ジっちゃんも以前助けてもらったから出来れば闘いたくないし。
どうしたらいいんだろう?
「しょうがないのぅ」
「おい、お前まさか」
ん?マル婆が何か言い出したらカク爺が突然焦り始めた。
「他にも色々きな臭い事が多くなってきたし、頃合いじゃろう?」
「うーむ、それはそうじゃが……」
何だろう、めっちゃ気になるから早く結論言って欲しいんだけど。
「何の話をしてるの?」
「アイナ、お前さんを直接龍王に会わせてやろうという話じゃ」
「龍王国に攻め込んでいいの?」
「ダメじゃ」
「えー、じゃあどうやって会うのよ?」
「『円卓』の召集をするんじゃ」
円卓?ってどっかで聞いたような……何だっけ?




