167 帰宅
「お嬢……何だそれは?」
「拾った」
「捨てて来なさい」
「飼っちゃダメ?」
「そのおっさん飼う気なのかよ……」
冗談はさておき。
「どうやら帝国の勇者タケル君の関係者らしいから連れてきたの」
「なんだそうなのか……ってなんねぇよ!帝国の人間を王女がいる場所に連れてったら危険だろうが」
「大丈夫だよ、たぶん。この人嘘は言ってなかったもん」
「なんでそんな事が分かるんだよ……」
「なんとなく」
九曜の心配も分からなくは無いけど、このおじさん一人なら何かあっても簡単に無力化出来るし。
「寧ろそっちの王子の方が連れて行きたくないんだけど」
私の気当てであっさりと気を失った残念王子。
こんな人別にどうなってもいいんだけど、王子が行方不明になって帝国が影武者とか立てたらもっと面倒な事になる。
帝国におかしな動きをさせない為にも不本意だけどこちらで保護しておかなければならない。
そのまま今回増えた同行者2人を連れて家まで戻った。
家に辿り着くまで2人ともずっと気を失っていたので、余計なトラブルも無く帰れて良かった。
家の前の庭で、ユユちゃんが吹雪と遊んでいた。
子狼の姿になったユユちゃんが狐の姿になった吹雪をもの凄いスピードで追いかけてる。
楽しそうな笑い声が聞こえなければ、その嵐のような追いかけっこが遊びであると気付けなかっただろう。
「ただいま〜」
「あ、お帰りなさい主殿」
「アイナお姉ちゃんおかえり〜」
九曜が抱えていた2人の男を地面に下ろす。
下ろした拍子に一人が目覚めてしまった。
よりによって王子の方……。
「む……何だここは?おい、貴様らここはどこだ!?」
高圧的な態度に少しむっとしてしまう。
「ここがどこかは言えないし、その他の情報を与えるつもりも無い。大人しくしておいて」
多少つっけんどんだけど、この王子に対してならいいよね。
「貴様は確かアイナだったか?俺は王太子だ。不敬な物言いをすれば罰するぞ!」
「あら、ごめんなさい。全然尊敬出来る部分が無かったもので」
「貴様ぁ……!!」
煽り耐性低すぎない?
王子は立ち上がり、何やら身体強化系の魔法を使って私に襲いかかって来た。
私がこの程度の攻撃ではかすり傷すらつかないと分かっている九曜達はピクリとも動かない。
しかしよく分かっていないユユちゃんは全身に気を纏って飛び上がった。
「アイナお姉ちゃんをいじめるなー!!」
子狼の後ろ足による鋭い蹴りが王子の顎にピンポイントでヒット。
王子は目玉をぐるんと反転させてそのまま倒れた。
ユユちゃん、さすが師匠に認められるだけあって見事な蹴りだったよ。
既に王子ごときより遙かに強い。
吹雪と超高速でじゃれ合ってるのが戦闘訓練になっちゃってるのかな?
今の騒ぎで、もう一人の方である帝国のおっさんも目を覚ました。
「む、むぅ……。私は何をしていたんだったか?」
辺りをキョロキョロと見回すおっさん。
まだ状況が飲み込めていないようだ……って、そういえば黒ずくめで気絶させたから私の事も分からないのか。
「ごめんね、私があなたを気絶させて連れて来たの」
「……ん?その声は、あの黒ずくめの者か?」
「そだよ」
「まさかあれ程の達人が、このような可憐な少女だったとは……」
うむ、可憐と言ってくれたからこの人はいい人だ!間違い無い!
「時々お嬢のちょろさが心配になる……」
「そうじゃの。騙されて奮うには力が強すぎて心配じゃ」
べ、別に騙されてないもんっ!
ってか心配の方向性おかしくない!?
「それでタケル様はどこに……!?」
「えっと、タケル君は今ちょっと修行中で別空間に行ってるから」
「別空間?何だそれは……。まさか、謀ったのか!?」
「ち、違うの!タケル君はちゃんと生きてるからっ!カク爺、勇者として真実だと証言してっ!!」
「まったくしょうがないのう。その娘の言ってる事は本当じゃ。帝国の勇者は生きておるが、修行の為に別空間に行ってるので会えるのは明日じゃ。この勇者カクゲンが保証しよう」
「勇者っ!?……そうでしたか、疑ってすまなかった」
「いや、私も説明不足だったからごめんなさい」
とりあえずおっさんも落ち着いてくれて良かった。
修行が終われば戻ってくるだろうし明日には会えるはず……会えるよね?
師匠が引き摺って行ったからちょっと不安だなぁ。




