165 受け渡し
空を移動中ふと思った。
「身柄受け渡しの場所聞いて無かった……」
「お嬢……場所分からずに飛び出してたんかい」
「儂の桃源郷……」
「エロジジイは黙れ」
受け渡しというからには、双方の国の人が合流するはずだから、当然どちらかの領土に大きく踏み込むような事はしないと思う。
つまり国境付近を捜せばいいわけだ。
急ぎ帝国と王国の国境へ進路を取った。
どうせ受け渡す用済みの人物とはいえ、仮にも王族だ。
護衛としてそれなりの人数で行動しているはず。
更に言えば帝国側も確実に受け取る為に相応の兵で出迎えるのではないだろうか。
それらの理由から、私はスキルを最大限発揮して多数のクリティカルポイントが集う場所を探した。
修行により数キロ先まで拾えるようになっていたお陰で、程なくしてそれらしき集団を見つけた。
「少し離れた所に降りるよ」
「今回は闘わないのか?」
ただ王子を帝国に渡さなければいいだけだから、闘う必要は無い。
もっと言えば、王国兵とは闘ってもいいけど、帝国兵とは闘わない方がいいって感じ。
「帝国兵に手出ししたら、私が王国を攻める理由を作ってしまうかもしれないからね」
「ああ、捏造か」
「そゆこと」
私は王国側の者では無いけれど、帝国にはそんなの関係ないから。
王国の方が先に手を出したという解釈を勝手に付与されてしまう可能性がある。
もっとも、軍事国家ってそれを自作自演でやりかねないけどねぇ。
それでも私自身が原因になると、ちょっと後ろめたい……。
「いた……けど遅かった」
「どう見ても受け渡しの最中だな」
国境付近の小さな村の中央にある広場で、様相の異なる2つの集団が向かい合っていた。
片方は銀色の甲冑に身を包んだ明らかに兵士であろう格好をした者達。
たぶんあれが帝国兵。
もう一方は全員が全身を覆うほどのマントに、フードまで被った見るからに怪しい人達。
こっちが王国の兵だと思うけど、何か変な格好だなぁ……。
大々的に王子を護送してると民衆に知られたら騒ぎになるから、密かに行動してたってところかな?
「どうすんだ?」
「まぁ攫って逃げるしかないよね」
「無茶言うなぁ……それって絶対闘う事になるだろ」
「私が足止めするから、九曜が王子を連れてって。後でさっき着陸した場所で合流ね」
「雑!作戦雑!」
急ぎの時に作戦なんてあってないようなもんよ。
「こら、別々に行動されると守りきれんじゃろうが」
「私の事はいいから、カク爺は九曜を守ってあげてよ」
「お前さんがやらかさないかの方が心配なんじゃが……」
解せぬ!って言いたいとこだけど、さっき城全壊させたんだった……。
大丈夫、ここには壊れる城は無いから。
壊れる自然はあるけど、なるべく破壊しないように努力するもん!
念の為、作戦決行にあたって姿を晒す事になる私と九曜は、毒で黒いスーツを作って全身を覆い隠した。
つまりタイムリミットは10分だ。
「いくよ!」
私は練っていた気を一気に解放した。
気に当てられて耐えきれなかった者達は次々に気を失って倒れていく。
「て、敵襲だっ!!」
「どこの手の者だっ!?まさか我らを嵌めたのか!?」
「ち、違います!我々にはそのような意思はありません!!」
あー、王国の人達が疑われちゃってるなぁ。
まぁなるようになるでしょ。
私は次に聖属性の光(毒)をまだ立っている人達に向けて生成した。
「バ○スっ!!」
「「「目があああああああっ!!」」」
帝国兵と王国の人達が、目を押さえて悶える。
って、何でカク爺も一緒に悶えてんのよ?
邪だから聖属性の光が効いてしまったのか……勇者のくせに。
この隙に九曜が王子を抱え——ようとしたが、帝国兵の中で一際体の大きい人が九曜に襲いかかった。
「渡さんっ!!」
通常よりも刃渡りがやや大きめの剣が振り下ろされる。
私は魔闘気を纏いその剣の腹を殴って、九曜のいる位置から何とか逸らした。
「ぐむぅっ!手練れもいるのか!?」
「目を開けられない状態で良く剣を振れるね。味方に当たってもいいの?」
「私のスキルは『心眼』だ。視覚に頼らずとも敵味方の区別はつく!」
この人普通に自分のスキル教えちゃったけど、大丈夫なの?
敵だけどちょっと心配になるわ。
心眼って、私のクリティカルポイントやキャサリン姉の急所を視るのに近いスキルだとしたら結構厄介だ。
でも、さっき隠れていたのがバレなかったところを見ると範囲は狭そうだけど。
つまり早々に遠くへ退避しちゃうのが正解か。
九曜は既に王子を連れて離脱できたから、私も早めに逃げる事にする。
「くっ、王子を連れ去ったか……。王子を帝国に連れて行けねば我が命も潰えるだろう。どうせ潰える命であれば、タケル様が王国へ行くのを止める為に使えば良かった……」
んん?
この人ってタケル君の関係者?
そういえば帝国には優しくしてくれた人もいるとか言ってたっけ……。
この物語はファンタジーです。
実在する聖属性の光とは一切関係ありません。




