164 情報
そういえば一つ気になった事があった。
ここに集められていた貴族達の中に叔父である伯爵の姿が無かった。
侯爵家の奴隷であるルールーを借りてたぐらいだから、派閥の一員だと思ってたけど違うのかな?
もうかなり強くなったし、叔父に怯える必要も無いのでまぁどうでもいいんだけど。
「お、お前は何が目的なんだ!?そうだ、お前が望むモノを何でも用意しよう!それで儂だけは見逃してくれっ!!」
今更ながらに命乞いし始める侯爵。
元々命まで取るつもりは無いんだけど。
「私の望みはあなたのスキルを消す事だけだから。素直に受け入れてくれればいいよ」
「ぐっ!スキルを消されたら儂はお終いだ!それだけは勘弁してくれっ!」
「ダメだよ。獣人に非道い事をしたんだからその報いは受けてもらう」
複雑な表情で侯爵は私の方を睨んだ。
「こんな所で終わってたまるかあああっ!!」
侯爵は怒りの咆哮を上げながら、懐から赤く光る魔導具を取り出した。
たぶん逃げる為の転移系魔導具だろう。
それを起動しようとして魔力を込めたところで、侯爵は呆けた顔になる。
「な、何故起動しない……?」
「それは私がその辺の魔素をジャミングしたからだね。魔導具を起動して逃げるってのは定番だからやっといて良かったよ」
「うああぁっ……!」
何度も起動させようと魔導具を振ってるけど、魔導具は沈黙したままだった。
さて窮鼠をなで回し過ぎると危ないから、そろそろ決着をつけますか。
そう思ってたら、カク爺と九曜が戦闘音が止んだからか、ここへ戻って来た。
『派手にやったなぁ、お嬢。やらかさないように付いて来たけど、これ俺にはもう止めれねぇよ』
『九曜もあの空間で修行すれば強くなれるよ』
『いや、ここまで出来るようになるには才能が要るだろ。って、アレ?カク爺どこ行った?』
カク爺は気配が消えてるのをいいことにクレグの胸を揉んでいた。
このエロジジイは……味方である私や九曜に対してまでステルスしてやがる。
クリティカルポイントが視えてる私には筒抜けだかんねっ。
でも今はカク爺なんぞにかまってる暇は無い。
「さて年貢の納め時だよ」
「ネング……?な、何だそれはっ!?」
「えっと、税金?そんな事はどうでもいいよ。あなたのスキルを消します」
「スキルを消されてたまるかああああああぁっ!!」
侯爵は最後の抵抗とばかりにスキルの効果範囲を自分の体限定にしたようだ。
侯爵のスキルは範囲を狭めればそれだけ効果が上がるらしい。
自分の体だけに限定すればかなりの能力向上が見込めるのだろう。
でも妖魔闘気を纏った私から見たら、元々の能力が低い侯爵がいくらパワーアップしても薄氷みたいなもの。
ジリジリと距離を詰めていく。
しかし、数歩進んだ先でコツンと何か見えない壁に阻まれた。
「ごめんねぇ、そんな奴だけどまだ使い道有るから、やらせる訳にいかないの」
いつからそこにいたのか、怪しい笑みを浮かべた妙齢の女性——夜行の首領が侯爵の横に立っていた。
つまりこれは例のバリア。
このバリアって気配も遮断出来ちゃうの?
私のクリティカルポイントにすら反応が無かったんだけど……。
いや、それはあり得ないから、おそらく転移魔導具か何かで空間移動して来たんだと思う。
バリアで遮断されてしまって、侯爵の周りに展開させていた魔素ジャミングが霧散した。
このままだと転移魔導具で逃げられてしまう。
私は妖魔闘気を拳に込めて全力でバリアを殴った。
ガラスが砕けるような音が周囲に響き渡り、衝撃波も突き抜けて付近の瓦礫を吹き飛ばした。
「うそでしょ……僅か数日しか経ってないのにもうバリアを破壊できる程成長したって言うの?」
「さぁて、見えない壁壊せるようになったら相手してくれるんだよね?」
「うふふ、絶対ごめんだわぁ〜。いい事教えてあげるから見逃してくれない?」
「いい事?」
耳を貸す必要も無いんだけど、この手の人って意外に情報通だから色々ヤバい事知ってたりするし。
「王国に圧力を掛けてた片方の勢力——教皇国は、何者かの襲撃にあって聖域が破壊された為に今は混乱状態にあるの」
あ、それは知ってたって言うか、何か予想してた。
聖域でも減衰しきれなかったか『暗黒爆裂掌』。
「そっちはどうでもいいよ。どっちかって言うと帝国の情報が欲しい」
「あらぁ……。じゃあとっておき。王国の王子の身柄がもうすぐ帝国に引き渡されるわ」
王子もどうでもいいんだけど……いや、ちょっと待って?
王子の身柄が引き渡されちゃうと、王国が帝国に一度は屈した事になっちゃうよね。
つまりソフィア王女が戻って王位に即位したとしても、政治的に不利な状態になっちゃう可能性もあるのか。
それは拙いかも……?
私が思考に落ちてる間に、侯爵が魔導具を発動させてしまっていた。
「この借りは必ず返すからなっ!」
「じゃあね、特異点ちゃん。ババアの占いによれば私達が見えるのはもう少し先らしいから、その時を楽しみにしてるわ」
丁度妖魔闘気の効果時間が終わってしまい、追撃は適わなかった。
でも今はそれどころじゃ無くなってしまった。
王子とかどうでもいいけど、帝国に身柄を渡す訳には行かないんだよね。
私はいまだにクレグの胸を揉み続けるカク爺の尻に蹴りを入れた。
「いだあっ!!何で儂の居場所が分かるんじゃあ!?」
「うるさいよエロジジイ。急いで帝国に向かうよ」
「儂はもう暫くこの桃源郷を堪能していたいんじゃが……」
カク爺の戯言は無視して、私達は帝国に向かうべくぼっちさんで飛び立った。




