160 殲滅
私がスキルを消せると知っているバズだけは警戒して距離を置いているけど、他の立っている人達は私の事が伝えられていないようで徐々に距離を詰めてくる。
それでも即座に飛びかかって来ない辺りはさすがと言うべきか、彼我の実力差がちゃんと分かってるようだ。
その実力差を埋めるスキルがあったらかなり厄介かも。
「行け」
「はっ!」
おっと、命令には逆らえないようで危険と分かっていても従わざるを得ないようだ。
両手に短剣を持った小さな男が駆け出す。
身長は子供並の小柄な体躯だが、肉体は隆起する程の筋肉に覆われている。
小刻みに振った短剣から奇妙な音が聞こえた。
それによって感覚が狂わされるのが分かった。
視覚と聴覚で捉えている相手の位置がそれぞれズレてるけど、クリティカルポイントが見える私にはどちらも正しい位置でないと理解出来る。
クリティカルポイントを信じてそこに拳を置くと、
「ぐはっ!!」
自分から当たりに来たかのように小男の頬に拳がめり込んだ。
これはスキルが私との相性悪すぎたね。
それを皮切りに次々と敵が襲いかかって来る。
突然目の前を黒い靄が覆う。
たぶん闇属性の魔法で視界を塞ぐものだろう。
今の見て無かったのかな?
私は直接クリティカルポイントを視てるから、視界を塞ぐとか意味無いのに。
「げほっ!」
一番近くにいた人の腹に拳を打ち込むと、直ぐに闇が消えて視界良好になった。
支援系の魔法使う人が最前線にいたらダメでしょ。
続けざまに護衛達が攻撃を仕掛けてくるけど、連携も何も無く全部バラバラ。
元魔王3人が連携して来た時の絶望感を味わってる私にとっては、ごっこ遊びに見えるよ。
ほんとあの人達、修行だからって容赦なかった……。
スイスイと避けて順に撃破していく。
残るは侯爵とバズ、他に知らない貴族が2人とその護衛2人。
「今だっ!!」
貴族の一人が叫んだ瞬間、私の足下に魔法陣が浮かび上がった。
転移系……ではなく、ただの拘束系魔法のようで、光る蔦のようなものが魔法陣から飛び出して私の両手両足に絡みついた。
「気を使う武闘系の戦士を拘束する拘束魔法だ!いかに気を練ったところで全て無効化されるぞ!!」
へぇ、魔法で気を抑え込む方法もあるんだ。
魔法陣は覚えたから、今度使ってみよっと。
確かに私の気は抑えられてしまって、半分ぐらいしか練れない。
まぁ頑張れば引きちぎれそうだけど。
「更にこの魔導具でお前の魔力を吸収していく。気が使えない今、このまま魔力も枯渇してお前は終わりだ」
得意満面の笑顔を見せてくる貴族。
それとは対照的に侯爵はまだ警戒を解いていない。
私の周りで赤い粒子と化した魔力が貴族の手元にある魔導具へ吸い込まれていく。
そんなに吸収したいならと、私は体内の魔力をこちらの意思でちょっと多めに魔導具へと送ってあげた。
パンっと水風船が割れるような音と共に砕け散る魔導具。
「ほげええええぇっ!?魔導具が破裂したああああっ!?」
たぶん魔力量で言うと50万ぐらいで破裂したみたいだ。
ちなみに異空間でミミィと魔力合戦やってた私の魔力量は、今2000万ぐらいある。
「魔力こそパワー!!」とか言ってたミミィは5000万以上あったけど。
インフレし過ぎて一日中魔力使っても枯渇しないから、もう数値化する意味無くね?って思った。
「な、何なのだお前は……!?」
一応魔王らしいけど、今それを言っちゃうとややこしくなるよね。
「ひとまずは貴方達の敵かな?」
「くっ、敵だと言うなら叩き潰すまで……。拘束されているうちにお前達、かかれっ!!」
貴族の護衛達は渋々ながらも私の方へ駆けてくる。
巨大な槌を持った大男が私に向かって槌を振り下ろす。
それを私は片手で受け止めた。
「馬鹿なっ!気は抑え込んでいるし、魔力もかなり吸い込んだはずだっ!!」
「ふぐぐぐっ!う、動かない……」
大男が槌を動かそうとするも、私が掴んでいるのでビクともしない。
そのまま槌を握りつぶして粉砕する。
「うあああっ!?」
急にバランスを崩された事で、大男は後ろへ倒れ込んでしまった。
それと入れ替わるように今度はレイピアを持つ女性が私に向かって刺突を繰り出してくる。
そのレイピアの先が複数に分かれて私の四肢を貫こうとする。
何らかのスキルで四箇所同時攻撃したのだと思われるが、全てのレイピアの先は私に突き刺さる事無く折れてしまった。
「う、嘘……」
唖然とする女性の三半規管を掌底で揺らしてやると、その場に崩れ落ちた。
「さて、そちらの貴族らしき2人に聞きます」
「な、何だっ!?」
「何を聞くというのだっ!?」
私の言葉に錯乱しそうになりながら応える貴族達。
「あなた達は獣人を殺したり売ったりした事がありますか?」
「は、はぁっ!?」
「何を言って……」
「ありますか?」
「いや、な、無い……」
「獣人に手出しなどしたら獣王が黙っていない。そんな危険を冒す訳ないだろうっ!」
最近流路を見ると、嘘をついてるかどうかの流れが分かるようになって来た。
ただし、私を前に堂々と嘘をつける胆力がある者もいるので完璧ではないけど。
カク爺なんて平然と嘘をついて覗きを敢行しやがったし。
しかし目の前の2人は完全に萎縮していて、分かりやすい程正直だった。
獣人に手を出してないなら、この場は見逃してもいいか。
まずは確実にスキルを消しておかないといけない2人からだ。
私が視線を向けると、侯爵の眉間の皺がより深く刻まれた。




