016 白銀の人
空に白い閃光が走る。
夕闇が一瞬両断されたように割れた。
次いで衝撃音が辺りに響く。
「ぐおおおっ!!」
ライオンが吹き飛ばされて、後方の木に叩きつけられた。
あの白銀の人が何かしたんだと思うけど、何をしたのか全く分からなかった。
白銀の人はそのまま空中の何かを蹴りながらぴょんぴょんと跳んでライオンの元へ向かう。
そして急降下する勢いのままに蹴りを放った。
「ぐぶあっ!?」
蹴りはライオンの腹部に深々と突き刺さり、再びライオンを吹き飛ばした。
強い!
「なんだお前はあっ!!」
怒ったライオンは咆哮と共に口から炎を吐き出した。
この世界のライオンってでかい上に炎まで吐けるんだ……百獣通り越して千獣の王ぐらい強いかも?
でもその炎は白銀の人がマントで払っただけで霧散した。
白銀の人の方が圧倒的に強い!
たぶん味方みたいだけど、何者なんだろう?
その後数分の間、一人と一匹はCGかと思う程の激しい攻防を続けた。
動きが目で追えないし、あんな中に割って入るとか絶対に無理だ。
たぶんAランクのスキルを持っていて、かつ研鑽を積んだ人にしか出来ない闘いなんだろうと思う。
その攻防が終幕を迎える。
白銀の人の右手周りにバチバチと電気のようなリングが纏われる。
瞬間その右手から閃光が飛び出した。
ライオンにその閃光が突き刺さると、次いで衝撃波が辺りを襲う。
「うわっ!」
ジっちゃんがドラゴンを倒した時ぐらいの衝撃波で、私も吹き飛ばされた。
すかさず体勢を取り直しライオンの方を確認すると、ライオンはキラキラと粒子に変換されるように消えていった。
ダンジョンの魔物でもそんな消え方しなかったのに、なんであのライオンはあんな消え方を?
よく見るとライオンがいた足下に、鬣のような黄金の髪をしたワイルドな女性が全裸で横たわっていた。
その女性の腕にライオンがしていたものと同じ意匠の腕輪がしてある。
どゆこと?
「大丈夫、生きているよ。気を失ってるだけだ」
白銀の人が女性に近づいて回復魔法らしき光を当てた。
やっぱり、その女性ってライオンだったの?
狼男みたいに人が動物に変身してたってこと?
女性がしていた腕輪がひとりでに外れ、空中に浮いてクルクルと回り出した。
ファンタジックな出来事が起こりすぎて、もうお腹いっぱいです。
白銀の人が戦利品として貰っていくのだろうかと眺めていると、白銀の人が私の方へ振り返った。
「力が欲しいか?」
それやっちゃいかん契約持ちかける時の台詞やん。
「……欲しいけど、魂はあげられませんよ?」
「ふふっ、そんなものは要らないよ。私は訳あってこの腕輪を継承できないんで、誰かにこの腕輪を継承してもらわなくちゃいけないんだ」
「そのライオンさんに返してあげる事は出来ないんですか?」
「一度誰かに渡さないとダメなんだ。それに悪意ある者に渡す訳にはいかないから、できれば君に貰ってほしい」
怪しさ満点ですけど?どないしよ……。
「ああ、時間切れだ……」
腕輪は急に飛んで来て、私の腕に装着された。
普通は時間切れなら契約不履行じゃないのっ!?
強制的に契約させられてしまったよ……。
「大丈夫。その腕輪をしていれば力が増すから、きっと君の助けになるよ。まぁちょっと副作用はあるけど……」
おいぃっ!そういう事は契約前に言っといてよっ!
何、副作用って!?めっちゃ不安!!
文句を言おうとしたが、白銀の人はいつの間にか消えていた。
そしてライオンだった全裸の女性も消えていた。
白銀の人が連れて行ったのかな?
「力が増えるのは望むとこだけど、副作用って何よ……?」
なんか尾てい骨の辺りがムズムズしたので、手探りで確認してみると——
「し、しっぽが生えてるぅ……!?」




