156 例の部屋
勇者に鍛えて貰えるのはありがたいけど、世界の情勢が悪い今はあんまり時間無いのよね。
「短時間で強くなれる?」
「そんな都合のいい修行があるか!……と言いたいとこだが、ある」
あるんかい!
短時間で強くなれると聞いて、うちの猛者共も色めき立っている。
いや、師匠やミミィはもう強くなる必要無いでしょ?
「時空を歪めて外界との時の進み方を変える魔導具を使うんじゃ。外の1日がそこでは数百日に相当する」
どこかで聞いたことあるような魔導具だなぁ……。
「但し、この魔導具には人数制限があっての」
あぁ、乗せて貰えなくてロボットに泣きつくやつね。
大丈夫、私はヒロインポジション。
乗せて貰えないのはいつもメガネポジと決まっているはずだ。
「ということで、儂と一緒に入るのはアイナと、そこのピンク髪の女子と、赤髪の嬢ちゃんと、狐獣人の娘じゃ」
「オイコラエロジジイ、ナニハーレムキズコウトシテンダ?」
「い、いや、ハーレムじゃないぞ。お前も入っとるじゃろうが」
「私ではハーレムに不足だと言いたいのか?バ◯スっ!!」
「目があああああああぁっ!!」
まったく、人格がゴミのようだ。
ルールーとレオナさんと吹雪が絶対零度の瞳でカク爺を見つめていた。
その後、カク爺の意見を無視して班決めが行われた。
魔導具は定員が5名という事だったので、最初にカク爺、私、元獣王師匠、元闇王ミミィ、元龍王ヴァイスさんという面子で入る事になった。
「儂の尻が……」
貴様のではない。貴様の尻はそのしわしわの方だ。
ご希望どおりカク爺以外は全員女性にしてやったんだからいいでしょ。
カク爺に迫られても自力で防衛出来るメンバーだけどね。
「ほんとは私が教えてやりたいとこじゃが、このジジイの方が気に関してはエキスパートでな」
私としてもカク爺よりマル婆の方がいいんだけどねぇ。
魔導具の事とかも色々聞けたら嬉しいし。
「じゃあ、さっさと行くぞぃ」
若干やる気を失っているカク爺の後に、私達は続いた。
時空を歪める魔導具というのはまたしても扉型だった。
まぁ、そうよね……別空間に行く定番だもの。
扉をくぐると、少しの息苦しさと体が重くなったような感じがした。
屋内で扉をくぐったはずなのに、出た先は空が見えているし、地面はどこまでも続く草原だった。
近くには宿泊用の施設らしき建物もある。
「ここは何もしていなくても体に負荷が掛かる修行に最適な場所じゃ。それなりに出来る奴でも、半年以上続けられた者は殆どおらんかったがな」
それって、カク爺のセクハラに耐えられなかっただけじゃないよね?
とりあえず食料等の生活に必要なものは宿泊用施設の方に常備してあるらしいので、私達はさっそく修行に繰り出す事にした。
「そもそもアイナよ、お前さん気や魔力はイカサマして増やしたじゃろ?最近出回ってるという変な薬は使っとらんじゃろうな?」
バレてたか……。
気は気の解放をする毒で上げたし、魔力はミミィに噛みつかれた時にヴァンパイア化して上がったものだ。
どちらも正規のやり方で上げたものじゃないんだよね。
最近出回ってる薬って、もしかしてあのミノタウロス3兄弟が使ってたやつかな?
私はそんな変な薬なんて使ってないよ。
使ったのは毒だし。
まぁ気が増えた状態を後遺症として残す毒だから、ミノタウロスが使ってた薬よりヤバいかもだけど……。
「肉体の強化と共に得た力じゃないから身体に馴染んでないんじゃ。それでせっかくの気も魔力もろくに使えておらん。せいぜい2割がいいとこじゃな」
「ええっ!?そんなに少ないの?」
「うむ。そもそも獣王の腕輪を付けとるんなら、気の量はそこの元獣王の数倍はあるはずじゃ」
カク爺の言葉に師匠がピクリと反応する。
「確かにそこのジジイの言うとおりだ。だから我もここで修行して獣王の腕輪をつけていた頃の強さを取り戻す」
「いや師匠、獣王の腕輪は1年経ったら返すからね。そしたら別に強くなってなくても元に戻るじゃん」
「このままだと弟子に負けそうだから嫌だ!」
子供か!
まぁ師匠はそんな事考えてるんじゃないかなとは思ってた。
「妾は新しい必殺技を生み出す!」
ここにも子供いたわ。
ミミィは外見も子供みたいだから許そう。
「私は龍王の支配から同族を解放する為に修行します」
ヴァイスさんが一番まともだ。
でも私がヴァイスさんを選んだのは、料理出来る人がいて欲しかったからなんだよね。
怪我されると食に響くから、無理な修行は控えて欲しいかも。
「それから、お前さんの気と魔力はチグハグで全然噛み合っとらん。気と魔力を掛け合わせた『魔闘気』を使えるようになれば純粋な戦闘力だけでなく、スキルの力も十全に使える筈じゃ」
「『魔闘気』……それって強いの?」
「儂が勇者と呼ばれる理由の一つじゃ。弱いわけ無かろう」
さっきまでの残念エロジジイが急に凄い人に見えて来た。
「キャサリンとリスイにそれなりに鍛えて貰ってたようじゃが、儂の修行はそんなもんじゃないぞ」
「覚悟の上だよ」
「ならば儂の持つ全てを教えよう」
そう言ったカク爺の視線がヴァイスさんのお尻に行ってなければ格好良かったのに……。
この物語はファンタジーです。
実在する薬や毒とは一切関係ありません。




