155 帰宅
「アイナ……何で獣化しとるんじゃ?」
「カク爺が私の友人達の尻を触りまくってるからですが何か?」
「ま、待て!違うんじゃ!」
「ほう、何が違うのか教えてもらいましょうか」
「あまりにも立派な尻だったもので、つい。特にそこの娘は、あの閃紅姫レイアに匹敵する素晴らしい尻じゃし」
「ギルティ!!」
つい、じゃねーよっ!
そしてレオナさんはレイアさんに匹敵するって言われてちょっと満足げになるな!
どんだけレイアさんをライバル視してんのよ。
ちょろ過ぎて心配になるわ……。
「では女性の敵には性欲が無くなる毒を処方しまーす」
「ひぃっ!?や、やめるんじゃっ!!」
「何をしとるんじゃお前らは?」
私がジリジリとカク爺に迫っていると、どこからか突然マル婆が現れた。
今、急にクリティカルポイントが現れたんだけど、また何か魔導具でも使った?
「アホな事しとらんでさっさと行くぞ。魔物が出て来たら面倒だからな」
「なんで魔物が出るようなとこで待ってたの?」
「ここは決まった手順で進んで行く迷宮の森。この魔導具が無いと全く進めんのじゃ」
何やらマル婆が魔導具に表示される数値を見ながら方角を確認している。
それに沿って順に進むマル婆に、皆でついて行った。
連続的な森に見えるのにエリア事に別空間になっているらしい。
次の空間に移動した人は、気配もクリティカルポイントも全く視えなくなるという不可思議な森。
これはちゃんと付いて行かないと迷子になるやつだ。
けどこれ防衛には最適だけど、一人で外界に出れなくなっちゃうという問題もあるのでは……?
「迷って暫く進むと森の外に弾き出されるからの。出るのは簡単じゃ」
なるほど。
目的地にたどり着くのは難しいけど迷って出られなくなる訳ではないとは、アトラクションに最適だね。
魔物が出て来なければ……。
暫く進んで行くと、突然開けた森の一角に景色が切り替わり、その先には以前まで王国の貴族街にあった我が家が佇んでいた。
まるで最初からそこにあったかのように景色に溶け込んでるけど、地下室とかはどうやって設置したんだろう?
マル婆の魔導具恐るべし。
家に入ると九曜達が心配そうに出迎えてくれた。
カク爺からの連絡で私が倒れてしまった事が伝わってしまってたらしい。
ただの魔力切れだったんだけど、かなり心配かけちゃったなぁ。
次からは何があろうとついて行くと言われてしまった。
一先ず談話室に皆で集まって報告会をする事になった。
私は助けに入ってからしか状況が分からないので、ルールーに説明してもらう。
「アビス・アブグルント侯爵がクーデターを起こしました。王族の方々を逃がす事には成功したのですが、私は侯爵の側近奴隷であるバズと戦闘になり、途中からもう一人の側近奴隷のクレグが加わって劣勢になってしまいました。そこへ主様が助けに入ってくださったお陰で、何とか逃げれたという訳です」
「クーデター……」
ルールーの話を聞いたソフィア王女は呆然としてしまっている。
「それで、侯爵はお兄様を擁立しようとしているのですか?」
「いえ、おそらく王位に就くのは公爵でしょう。王太子殿下には何か理由をつけて城から出るように言い含めてましたので」
ああ、それで私の家に来てたのか。
いいように踊らされてるなぁ……やっぱ王子って無能なの?
でも王族を逃がせたって事は、帝国が求める王の首が引き渡せなくなっちゃってるよね?
そして勇者の関係者はみんなここにいるし。
更に教皇国が求めたソフィア王女もここにいるし、取引に使われた勇者タケル君と聖女もここにいる。
おおよそ帝国、教皇国、王国の三国が今回画策したものは失敗に終わってるように見えるけど……。
「これからどうするかよね。さしあたり私の目標はあの侯爵とバズのスキルを使えなくしてくる事かな。あいつら野放しにしとくと、ろくな事にならなそうだし」
私が言った言葉に、カク爺は少し渋い顔を見せた。
「アイナ、お前さんのそのスキルは危険だ」
えっ?な、何?これってもしかして勇者であるカク爺と敵対する流れ?
私、魔王になっちゃうの?
「分かっておるか?それだけ強大な力を奮えばお前さん自身も危険に晒されるのじゃぞ」
違った……これ、諭されてるんだ。
「でもカク爺も聞いてたでしょ。あいつらは獣人を襲っていた。これは獣王の腕輪との約束でもあるから、絶対に譲れないよ」
私の覚悟を聞いたカク爺は目を細めて呟くように語り始める。
「……儂はな、王国出身なんじゃ。元は平民の生まれで、スキルも王国の定めたランクではFじゃった。しかし、直接的な攻撃には向かないスキルでも、努力と創意工夫でランクなんぞ覆せる。そして儂は学園で上位ランクにも勝てるだけの力をつけた」
どっかで聞いたような話だなぁ……って、まぁ今年のクラス対抗戦で私達がやった事なんだけど。
「しかし中途半端な力では逆に恨みを買うだけで、その後、執拗に命を狙われた。勇者になるまで安息の日など無かったわい」
なるほど。
王子が突って来た時にカク爺が鋭い目つきで見てたのって、私じゃなくて理不尽な王国の対応に憤ってたのか。
「で、つまり勇者になれと?」
「いや、そうは言わんが。今のお前さんの力では自分自身も周りの人も守り切れないと言っておるのじゃ。スキルの強さとお前さんの強さが釣り合っておらん」
確かに、私のスキルはチートだけど師匠やミミィと闘ってもまだ勝てる気がしない。
スキルだけ突出してるから強力な力を使えばさっきのように倒れてしまうし。
でも気の解放はもうしたから、これ以上パワーアップするには魔力を解放するしかないんだけど……。
「じゃから、お前さんが次の戦いに赴く前に、儂らが鍛えてやる」




