154 脱出
「き、消えた……!?」
「まだ近くにいる筈だっ!探せっ!!」
部屋の中からバズと侯爵の声が聞こえる。
というか、部屋の入口にいる私の事が見えてない?
「まったく無茶しおって」
すぐ頭上からカク爺の声がした。
さっきまで離れたところにいたカク爺がいつの間にかすぐ側まで近寄って来ている。
しかも私の方へ駆け出していたルールーも部屋の外へ移動していて、同じく私の側で立っていた。
「あ、あれ?主様?」
ルールーも状況を飲み込めてない事から、これらの事はカク爺が起こした何かだと推察する。
「魔力も尽きておるし、もうええじゃろ。帰るぞ」
カク爺は動けなくなった私と、ある程度は動けるようになったルールーの両方を肩に担いだ。
「ちょっとカク爺、デリカシー!」
「助けて貰っといて何て言い草じゃ。動けん奴は黙って担がれとけ」
「えっ?カク爺が助けてくれたの?……ありがとう。正直いざとなったら見捨てられると思ってた」
「はぁ?見捨てる訳ないじゃろ。あのキャサリンとリスイが大切な妹分と言っとったんじゃ。何があっても助けるわい」
私の方をかなり鋭い眼で見てたし、監視対象なんだから最悪敵対する事も覚悟してたのに。
それにキャサリン姉とリスイ姉にそこまで思われてたなんて……こういう時の気持ちって面映ゆいって言うんだっけ?
なんかむずがゆい。
カク爺も勇者としての立場が危うくなるかも知れないのに、会ったばかりの私をちゃんと助けてくれた。
なんとなくちょっと怖いって思ってたけど見直しちゃったよ。
これからは仲良くやっていけそうかな?
……と思いきや、ルールーが妙に焦った声を発する。
「あ、あのっ!お、お尻に手が……!」
「うむ、良い発育じゃ」
「おいこら、エロじじい!」
前言は撤回する。
後で鉄槌食らわせたるからなっ!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
カク爺が私とルールーごと気配を消す魔導具を使ってくれたおかげで、誰にも見つかる事無く城の外まで出る事が出来た。
その事には感謝するが、終始ルールーのお尻をなで回していたことは絶対に許さないからね。
城の中はあちこちで戦闘が起こっていた。
侯爵か、あるいはその他の貴族が発起してクーデターでも起こしたんだろう。
普通は他国と揉めている時に国の実権なんて握りたがらないものだけど、そんな時にクーデターを起こすって事は明らかにその他国と繋がってるって事よね。
暫くはこの国から離れるのが正解だわ。
城の外までたどり着いたはいいが、魔力が枯渇している私はもう気を失う寸前だった。
「おい、まだ気を失うな。儂は移動手段を持っとらんのだからさっきの空飛ぶ円柱を出してくれ」
「あぁ、私が気を失ってもそれは大丈夫だから。ぼっちさん後は頼んだ……」
「ったく、しょうがねぇなぁ。俺に内包されてる魔力だけだと家まで戻るぐらいしかできねーってのに」
「なんと、言葉のような音を発する武器だとは思ってたが、自立思考しとるのか?もしや伝説の武器『のけも……」
「その名で呼ぶな!だが新しい名も教えたくねぇっ!」
「じゃあ何と呼べばええんじゃ?」
「伝説の武器と呼べばいいだろう」
「わかったわい、ぼっちさん」
「しっかり名前聞いてんじゃねーかっ!!」
もう、2人ともうるさいなぁ。
あ、そうだ、
「ぼっちさん、レントちゃんとレオナさんも拾って行ってね。私の残りの魔力も使っていいから」
「お、おい!そんなことしたら……」
「頼んだよ」
そこで私の意識は完全に途絶えた。
それからどれくらい時間が経ったのだろう?
目が覚めると、かなり深く眠っていたようでちょっと体が痛い。
とりあえず周囲を確認してみるが、そこは見慣れぬ木々に囲まれた少し開けた場所だった。
カク爺とルールー、それにレントちゃんとレオナさんも居たのでひとまずほっと息を吐く。
それにしても、妙にレオナさんが離れたところにいるのが気になるなぁ。
勇者に弟子入りしたがってたレオナさんなら、嬉々としてカク爺に教えを乞うと思ってたのに。
「あ、アイナさん、目が覚めたんですねっ!」
レントちゃんがトコトコと駆け寄ってくる。
「レントちゃん、なんでレオナさんは少し離れたとこにいるの?」
「そ、それは……あのお爺さんがレオナさんのお尻を触って……」
こんのエロジジイィィィィィっ!!




