149 王子ェ
玄関へ行ってみると扉は破壊され、多くの兵士達が玄関のホールへと入り込んで来ていた。
我が家のそれなりに広い玄関ホールがやや手狭になりそうな程で、兵士の数は20人以上もいる。
装備を見る限り王国兵?にしてはかなり強硬なやり方で家の中に入って来たなぁ。
この家の防衛設備が機能しなかったという事は、かなりの手練れもいるか、あるいは強力な魔導具を用いたか。
それほどの流路を持つ人はいないみたいだから後者かな?
しかし、いくら不在とはいえ勇者の家に突入って、何を考えてるんだろう?
そこまで考えて今さっきの話の内容を思い出す。
——『王国に滞在する勇者の関係者の首』
マジっすか……?
ソフィア王女がそれの意味する事を分かっていたのに、この襲撃の首謀者は分かってないのかな?
国際的に影響力がある勇者の家の襲撃なんてしようものなら、国としての信用は地に落ちる。
先日の襲撃は賊によるものだったからまだ言い訳出来るけど、この国の兵がそれをやったらお終いよ。
おっと、今はそれどころじゃないかな?
とりあえず家の中まで踏み込もうとしている兵士達を威圧で押しとどめてみる。
私の威圧程度で怯んでるし大した事なさそうだけど、扉を破壊した魔導具には注意しとかないとね。
と、その竦んで立ち尽くす兵達をかき分けて一人の見覚えある男性が前に出て来た。
しかも一番ここで出て来ちゃダメな奴が……。
「お、お兄様ェ……」
私の後ろに付いて来たソフィア王女が、残念なものを見たかのように呟く。
この国の第一王子——エドワルド王太子。
「ソフィアお前もいたのか。まぁ、丁度いい。この家の者達の首を帝国が所望しているので、全員捕らえる事となった」
「お待ちくださいお兄様!そんな事をすれば……」
「アイナと言ったか。お前は我が側近となれば許してやらんことも無いぞ」
「絶対お断りでーす」
「……ちっ」
悔しそうに顔を顰める王子。
もっと怒りを顕わにするかな?と思ったが、王子は意外にも冷静な表情に戻り、次のとんでもない言葉を繰り出す。
「あぁ、それからソフィア。教皇国から、今回の聖女の件については、新たな聖女としてお前が教皇国にくるのであれば不問とすると通達があった。よってお前の身柄もここで拘束させてもらう」
「えっ……!?」
なるほど、教皇国はそう来たか。
同時多発した案件だから帝国と教皇国は裏で繋がってるとは思ってたけど、このバカ王子を傀儡として祭り上げる為に、王女は教皇国の方へ取り込む訳ね。
新たな聖女ってとこがいかにもいやらしい。
対外的に、争いはせずに解決したかのように見せるつもりなんだろう。
ちょっと教皇国の利が少ない気もするけど、帝国との取引で何かを得るのか、あるいは私の知らないソフィア王女の価値があるとか?
うーん、こっちも潰す必要あるかなぁ……。
それにしても国の為とはいえ妹を平然と他国に売り渡すとか、この王子ェ……。
とりあえずズカズカと人の家に押しかけて来た兵士達は眠ってもらおうかと毒を生成したんだけど……何故か発動しなかった。
これってまさか……?
「スキルを使おうとしても無駄だぞ。何の対策もせずに勇者の家に踏み込む訳が無かろう。この『抗魔』の魔導具で魔力の流れを無効化しているのだからな」
私は性剣ぼっちさんを『抗魔』の魔導具に向かって全力で投擲した。
「もっと剣術的なかっこいい使い方を求むううぅっ!!」
ぼっちさんの魂の叫びと共に、ぼっちさんと衝突した『抗魔』の魔導具は砕け散った。
「なああああああぁっ!?『抗魔』の魔導具がああああっ!!」
堂々と種明かししたら、そうなるに決まってるでしょうが。
王子が狂乱している中、次第に魔力の流れが戻ってくる。
無事スキルが使えるようになったので、一酸化炭素(猛毒)で兵士達を無力化し、コーヒー(混沌で蠢く何か形毒)を動けなくなった口に注いであげた。
って言うか、這いずるように口へと侵入していった。
「ぎゃああああああっ!!」
「いやだあああああっ!!」
「く、くるなああああっ!!」
玄関に響き渡る阿鼻叫喚。
それを見ていたマル婆が一言。
「お前さんのスキル、えげつないのぅ……」
そして、カク爺の視線は何故か更に鋭いものになっていった。
まぁ監視対象が一国の兵士相手にスキルぶちかましたらそうなるか……。
でも今回のは私悪くないよね?
「き、貴様……こんな事をして只で住むと思うなよっ!!」
「あぁ、そうだね。目撃者は全て消さないと……」
「ひっ……!?」
息巻いてた王子は、青ざめて盛大に顔を引き攣らせる。
コーヒー(毒)とミルク(毒)でDHA豊富そうな魚の目の形を大量に作って、それを野菜汁(毒)でコーティング。
出来上がった蠢く目の魔物っぽい奴を王子に向かって這いずらせてやった。
もちろん事前に王子が逃げられないように一酸化炭素(猛毒)で動きを封じてから。
「ひぎゃあああああああああっ!!」
口と鼻から侵入し始めたところで、王子は白目を剥いて気絶した。
この物語はファンタジーです。
実在する一酸化炭素及びコーヒー及びミルク及び野菜汁とは一切関係ありません。




