148 宣戦布告
そろそろお昼になろうかという所で地下訓練場を後にして、みんなで談話室へと戻ると、ようやく聖女と勇者タケル君が起きて来た。
昨日の仮死状態にした後遺症か、中々朝は起きれなかったようだ。
まぁ必要な事だったし、しょうがないよね。
2人はカク爺とマル婆を見ても「誰だろこのジジイとババア?」程度の反応だった。
その人達一応勇者らしいよ。
早々に寝てしまっていた聖女とタケルくんにはまだ顛末を話していなかったので、帝国と教皇国が裏にいる事がほぼ確実になったと説明した。
「帝国が……そんな……」
「教皇国ならあり得るわ。そもそも一枚岩じゃないし、聖女同士でさえ相手を蹴落とそうとしてるもの」
タケル君はこの世界に召喚されてからずっと帝国の為に邁進してきたんだから、その帝国から狙われるというのは信じられないというより、信じたくない事なのだろう。
そもそもタケル君は一人で召喚されたんじゃなかったっけ?
誰にも頼れなかった時に拠り所としていた場所が無くなったとなると、かなり不安なんじゃないだろうか。
何とかしてあげたいけど、国相手じゃちょっと難しい。
暫くは匿う事になるから、家族として接してあげる事にしようかな。
聖女の方は……あんまりケアの必要は無さそうだし、ほっといても大丈夫か。
教皇国なんてそれこそ手出ししたら面倒な事になりそうだし、私に出来る事なんて無いよね。
「まったく帝国はろくなことせんのぅ」
「帝国は皇帝が代替わりしてから各所に攻撃を仕掛けているらしいからな。次は王国でも狙ってるんだろう」
ミミィと師匠は自分の国が帝国に攻め込まれてたから、そりゃ印象良くないよね。
そういえばミミィの国を攻め込んでた勇者って、タケル君じゃん。
今ミミィは黒髪になってるからタケル君には分からないかも知れないけど、一応正体はバレないようにしとかないと。
ミミィの方は気付いてるのか気付いてないのか。
歯牙にも掛けてないが正解かな?
「国同士の争いに儂らは口出し出来んのが歯痒いわい」
「そんな事して失うものの方が多いと気付かん馬鹿者には、鉄槌を食らわしてやりたいがの」
カク爺とマル婆は勇者という立場上、不干渉せざるを得ないんだっけ。
2人も帝国にはあまり良い印象は持ってないようだ。
さて、万が一に備えて聖女と勇者を匿ったわけだけど、果たしてそれで今回の問題を回避出来るのかな?
悪い奴ってのは仕留めきれなかった場合でも強攻出来る策を用意してたりするから、今までみたいに力技でなんとかとはいかないんだろうなぁ。
とりあえずタケル君と聖女は暫く身を隠すという事に同意してくれた。
結局話し合ったところでどうなるものでも無いので、帝国と教皇国が動くまで様子見という事になった。
学園からは連絡が来て、暫く休校になるとの事だった。
そして数日後、早くも帝国が動いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「帝国からの使者が来て、宣戦布告されました。内容は『賓客として扱うべき勇者を粗雑に扱った事は帝国に対する敵意である。よって、帝国の国としての尊厳を守る為にも宣戦を布告する』というものです」
王女がわざわざ我が家まで教えに来てくれた。
大体予想通りに動いてるけど、何かがおかしい気がするんだよなぁ。
「ねぇ、使者が言ってたのはそれだけ?何の条件も無しに宣戦布告っておかしいと思うんだけど」
「おっしゃる通りです。わざわざ自国の勇者の殺害まで目論んで、宣戦布告だけが目的であるはずが無かったのです。帝国の要求は、『現国王の首』と『王国に滞在する勇者の関係者の首』です」
「なんでやねん……」
現国王の首は何となく分かりますよ。
代替わりにかこつけて内政干渉するつもりだろうからね。
でも、王国に滞在する勇者の関係者の首って、今回の事と関連性無さ過ぎでしょ!
それに、どう考えても私の事だし!
私に恨みを持つ誰かが裏で糸を引いてるとしか思えないぐらいあからさまなんですけどぉ……。
「もちろんどちらも拒むに決まっています。現国王の首を差し出せば、遠からず王国は帝国の傀儡と成り果てるでしょう。更に王国に滞在する勇者の関係者の首を差し出せば、国としての信用は地に落ちます。しかし、一部の貴族は僅か数人の首で戦争が回避出来るならと、声を上げる者が出始めているのです」
その貴族達は確実に帝国と繋がっていて、夜行を学園に引き入れた事にも一枚噛んでると思うよ。
もう潮時かな?
ついにこの国を出る時が来たのかも知れない。
ただ、ちょっと前までの私は何時でも王国から出ていってもいいつもりだったんだけど、今の私は気軽に動けないんだよね。
我が家はけっこうな大所帯になってしまってるし、この国にいる友人レントちゃんやレオナさんの事も気がかりだし。
やっぱり、逃げるという選択肢は無いかなぁ……。
「しゃーない、帝国ぶっ潰してくるよ」
「はい?……今幻聴が聞こえたような気がするんですが」
ソフィア王女、絶対ちゃんと聞こえてたでしょ。
「だから帝国ぶっ潰してくるよって」
「……頭おかしくなったんですか?」
「なってないわ!私自身も狙われてるんだし、黙ってられないでしょ」
「いやいやいや、いくらアイナさんが強いと言っても、一人で一国を相手に戦うなんて無茶過ぎますよ」
「一国を相手に戦うつもりなんて無いよ。指揮官を潰せばいいだけだし」
「簡単に言いますね」
「ソフィア王女だってこのまま泣き寝入りするつもりは無いんでしょ?」
「それはそうですが……」
他の皆は私と王女の会話を静かに聞いていたのだが、俄に家の玄関の方が騒がしくなった。




