147 天才
「その姿……お主獣人じゃったのか?」
カク爺が獣化した私を見て驚いている。
私は普段しっぽを腰に巻いているし、獣耳は猿形だからか人族と変わらないので、獣人としての特徴がほぼ分からない。
だからぱっと見では人族だと思われてしまうのである。
「まぁ、半分だけね」
「半分?ハーフ獣人という事か」
「人族じゃなくてヴァンパイアとのハーフだけど」
「いや、そんなハーフおらんじゃろ」
ここにおりますが何か?
正確には3分の1吹雪の遺伝子情報も入ってるから、ハーフってのも正しくは無いのかも知れんけどね。
カク爺とそんな話をしている横で、吹雪とユユちゃんがウンウン唸っていた。
「うむむむむむぅうううん!……全然出来る気がしないです!」
「う〜ん、う〜ん……」
吹雪は顔が真っ赤になるほど力んでるけど全く変化は見られなかった。
流路を見る限りでも、大した変化が無いから道のりは険しそうだ。
しかし、ユユちゃんの方は突然変化が起き始める。
耳としっぽの毛がぞわっと逆立つと流路が膨れ上がった。
「うわぉおおおおん!!」
狼の獣人であるユユちゃんが遠吠えのような雄叫びを上げる。
一瞬だけ全身を白い毛が覆ったけど、それ以上の変化は起こせずに元に戻って、息を切らせた。
「はぁはぁ……もうちょっとでできたのにぃ」
「いやいや、その歳で一回でそこまで出来れば大したもんだぞ。ユユは存外才能があるのかもしれんな」
師匠が才能を認める程とは、ユユちゃん恐るべし。
私が毒の裏技を使ったりしてやっと出来るようになった獣化を、こんなにあっさりとできるとか天才か?
某漫画の、遊びの延長で弟が金色の戦士になった時の兄の気持ちが分かった気がするよ。
「ユユちゃんが出来ちゃいそう……」
驚愕の表情を浮かべる吹雪が自信喪失気味になっちゃってるよ……。
しょうがないなぁ。
「吹雪、ちょっと屈んでみて」
「はい?」
私は吹雪の腕にプスッと獣化する毒を打ち込んだ。
「えっ!?あああああああぁっ!!」
突如叫び出す吹雪に驚いたユユちゃんが心配そうにオロオロしている。
でもその変化が獣化のそれであると分かって、すぐに落ち着きを取り戻した。
吹雪の体から山吹色の体毛が生え始め、姿が四つ足の獣へと変わっていく。
服が妙に窮屈そうだけど、無事吹雪は狐の獣化に成功した。
「あ、あれ?私、獣化してるううううぅっ!?」
うん、私以外に打ってもちゃんと獣化するね。
そういえばこれ獣人以外に打ったらどうなるんだろう?
……ちょっと怖いから実験は止めとこうっと。
「お、おい……今何をしたんじゃ?」
カク爺が唖然としてこちらを凝視する。
「ちょっと裏技なんだけど、私のスキルで無理矢理獣化させたんだよ。一回やってみるとコツを掴みやすいかと思って。あっ、吹雪、心配しなくても10分で元に戻るからね」
「そうですか、ちょっと安心しました。これが獣化なのですね。少し感覚が掴めた気がします」
「アイナお姉ちゃん、私にもやって!」
「いいよ〜」
ユユちゃんはほとんど出来そうだったから、一回やったらもう自力で獣化出来ちゃうかもね。
ユユちゃんにも獣化する毒を打ち込んだら、白い小型犬のような可愛らしい狼になった。
「やった、狼になった〜!」
雪が降った時の犬のように喜び駆け回っている。
その様子を見ながらカク爺がブツブツ何かを呟いていた。
「なんちゅうスキルじゃ、無理矢理獣化出来るとは……。そんな事が出来たら獣人達は龍族以上の強力な勢力になってしまうぞ……」
なんか師匠の方をチラチラ見てるし。
どうしたんだろ?
「アイナは相変わらず便利な奴じゃなぁ」
「師匠、便利って言われると微妙な気持ちになるんですけどぉ……」
その後、ユユちゃんはすぐに自由自在に獣化出来るようになってしまった。
マジ天才なんですけど!
吹雪も何回か毒で獣化してるうちにコツを掴んだようで、なんとか出来るようになった。
師匠に言わせると、それでも吹雪もかなりの才能があるらしい。
つまりユユちゃんが、ずば抜けて天才という事なのだ。
師匠が張り切って「我が育てる!」とか叫んでた。
そして、カク爺の私を見る目が少し厳しくなったような気がした……。
私何かしたかな?
この物語はファンタジーです。
実在する獣化する毒とは一切関係ありません。




