145 獣王と闇王
「ジジイじゃねーし!」
「ババアちゃうわ!」
よく分からないところを否定するジジイとババア。
もうかなり高齢だろうに、まだ歳気にしてるんかい。
こっちはもっと気になるとこがあるんですけどぉ?
「獣王と闇王、貴様らこそここで何をしておる?『盟約』を破って何を企んでいるのだ?」
「ふん、我はもう獣王ではないからな。どこに居ようと我の自由だ」
「同じく、妾ももう闇王ではなく漆黒の王だから、どこに居てもええじゃろ」
「しれっと重要な事を言いおってからに……それはつまり新たな獣王と闇王が誕生したという事か?」
ちょっとちょっと、それ絶対私に矛先が向くやつじゃん。
何とか話題を逸らして……。
「新たな獣王ならここにおるぞ」
「新たな闇王ならここにいるだろ」
やめろー!!
そもそも私は魔導具を預かってしまってるだけで、獣王でも闇王でもないんだからねっ!!
ジロリと私の方を睨むジジイ……怖い。
って言うか、獣王とか闇王って勇者と敵対してるの?
師匠もやたらとキャサリン姉と仲悪かったし。
そういえば獣人国も闇王国もどっちも帝国と敵対してたっけ。
帝国は完全なる人族主義で、王国以上に他種族に対する差別が徹底していると聞いた事がある。
このジジイとババアもそういう差別主義的な人なのかな?
勇者ってもっと博愛主義なもんじゃないの?
まぁ帝国の勇者であるタケル君はわりと博愛主義っぽい感じだけど。
そのせいで帝国から見限られたのかも……。
「おい小娘。お主が獣王と闇王を倒したのか?とてもそんなに強そうには見えんが……」
「いや、私が倒した訳じゃないんだけど、何故か獣王の腕輪と闇王の耳飾りは私が持ってます」
「……なんちゅうこっちゃ」
ジジイが頭をかかえる。
ババアは難しい顔をしている。
師匠は特性ドリンク(毒)を飲んでいる。
ミミィはおかわりを催促している。
私はおかわりを注いであげた。
何このカオス?
そこへヴァイスさんがやって来た。
「あら?懐かしい顔がいるじゃない。もう完全にジジイとババアね。人族は老けるのが早いこと」
ちょっと、煽るのやめて……。
どうやらジジイとババアはヴァイスさんとも知り合いらしい。
「ジジイじゃねーし!」
「ババアちゃうわ!」
お笑いの天丼かよと言いたくなる被せをするジジイとババア。
持ちネタなの?
このままほっとくと更にカオス化が進みそうだ。
「とりあえず中で話しませんか?」
「うむ、そうじゃの」
「では、お邪魔する」
「邪魔すんなら帰ってや」
ミミィ余計な事言わない!
なんでその定番フレーズ知ってんのよ?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
一先ず一触即発の事態は避けれたようで、今は談話室のソファーにジジイとババアを座らせて話を聞く状態になっている。
九曜達は、ジジイとババアが勇者であるという事を聞いて一応警戒は解いている。
と言っても、今度は師匠とミミィの方を警戒してるみたいだけど。
2人がけんか腰になって、話がややこしくなると困るからね。
とそこへ、ユユちゃんも起きてきて吹雪に抱っこをせがんだ。
「獣人の子までおるのか……」
「よくこの面子で争いにならんのぉ」
争いになるような人を呼び込んだらキャサリン姉に怒られるもの。
いや、争いにならない人を呼び込んでも怒られたんだった……。
自重しようとは思いつつも、更に勇者と聖女まで匿ってる状態だから、キャサリン姉が帰って来た時が怖い。
それまでに勇者と聖女の問題が解決するといいなぁ……。
「そういえば師匠は何でここにいるの?」
「お前と一緒に暮らす事にしたからだが?」
「……さいですか」
しれっととんでもない事言ってるけど、キャサリン姉と仲が悪い師匠がこの家に住むって、絶対怒られる案件じゃん。
……もう諦めました。
「師匠だと……?」
「アイナは我の弟子だが?それがどうかしたか?」
「我らが前でぬけぬけと」
ええ〜、何かまたバチバチ言い始めてるんですけど!?
何が気に障ったの?
「とりあえず、お二人の事は何も聞いて無いんですが、何の為にこちらへ?」
なるべく丁寧な言葉で話を逸らす。
「なんじゃ、あやつら当の本人に話しておらんかったのか」
「儂らはお前の面倒を見るようにキャサリンとリスイから言われてここへ来たんじゃ」
キャサリン姉とリスイ姉、たかが面倒みるだけで勇者を呼びつけないでよ。
家事全般はドラゴンのヴァイスさんとヤスガイアさんがやってくれてるし、護衛として九曜達に加えてミミィもいるんだから、面倒見る人なんて必要無いと思うんだけど……。
「じゃが、この状況を見て考えが変わったわい」
「そうじゃの……」
ん?面倒見る必要が無くなったから、帰ってくれるのかな?
「アイナとやら、今後お主を監視対象とする」
「ええっ!?何故にっ!?」
「当然じゃろうが。獣王の腕輪と闇王の耳飾りを持つ者を野放しになぞ出来んからの」
面倒見て貰うどころか面倒臭い事になってるんですけど?
この魔導具、毒針の力で破壊しちゃおうかな……。
この物語はファンタジーです。
実在する特製ドリンクとは一切関係ありません。




