144 2人の来訪者
それらが私の警戒範囲内に入った瞬間、背筋がゾクリとした。
今のとこ悪い気は感じ無いけど、半端じゃなく強い。
夜行の事は王女に丸投げして、帰ってからはそのまま寝てたんだけど、急に街中に化物が出現した事で目が覚めた。
いや、この家にも化物が沢山いるけどね。
元龍王とか元闇王とか元獣王とか……あれ?なんで師匠がまだ家にいるんだろ?
王女に引き継ぎする為にヒャッキ商会に向かった筈なのに。
何て思ってたら、その化物達が何故かこの家の方角に向かって来ているのを感じた。
この流路は明らかにキャサリン姉とリスイ姉じゃない。
でもそれに匹敵するレベルの強さだと思う。
「お嬢、これ敵じゃないよな?俺は勝てる気がしないぜ」
昨日夜行に襲撃をかけたばかりだから、九曜達も警戒している。
「敵じゃないとは思うけど……味方かって言われるとどうかなぁ?まぁヴァイスさんやミミィがいるから、最悪戦闘になっても渡り合えるとは思うけど」
ただ、昨日の壁みたいのが出て来たらちょっとヤバいかも?
あそこまでの使い手がそうそういるとは思わないけど……。
っていうか今思ったんだけど、勇者であるキャサリン姉やリスイ姉に匹敵する強さって……もしかして魔王?
や、ヤバいじゃん!
王都のど真ん中で魔王が2人も出現するとか、マジあり得ないっしょ!
ここにキャサリン姉とリスイ姉がいると聞きつけて、魔王が直々に戦いを挑みに来たって事!?
今、2人とも居ないんですけど……事情を話したら帰って貰えるかな?
そもそも魔王って話通じるの?
とりあえず脳筋の師匠とミミィに対応させるのは絶対にヤバいと思う。
「くんくん。うん?何か強そうな奴の臭いがするような……」
「何か右目が疼くんじゃが……我の封印に影響を与える程の強者が近寄ってる気がする」
なんで師匠とミミィはそんなに勘がいいのよ!?
「あ、朝から何言ってるのかなぁ〜?そんな訳ないじゃない。そ、そうだ。私が作った特製ドリンク(毒)でも飲んでみない?」
コップに並々と注いだ特製ドリンク(毒)を2人に差し出した。
ドリンク内部で濃い模様が、怨霊が叫ぶように蠢いている。
「見た目は不気味じゃが、美味そうな臭いがするな。ちびっ。おぉ、なかなか美味いではないか」
「ぐびっ。うんまっ!これ、うんまっ!」
なんとか飲み物を与えて誤魔化した。
この隙に私は玄関へと移動する。
強い気配はもう玄関前まで迫っていた。
強者は強者に反応する傾向にあるので、相手を刺激しないように気と魔力を極限まで抑えて弱者を演じる事にした。
取るに足らない者であれば、いきなり戦闘とはならずに話を聞いて貰えるかも知れない。
私はそっと玄関のドアを開けた。
するとそこに立っていたのは、どう見ても人族のお爺さんとお婆さん。
いや、魔王ともなれば人化の術ぐらい心得ているだろう。
ヴァイスさんやヤスガイアさんもドラゴンから人化してこの家で普通に生活してるし。
「ん?なんじゃこの小娘は?」
「はて?家を間違えたかの?」
何か困惑しているらしい老人達。
まぁ、勇者を倒しに来たのに弱そうな小娘が出て来たら困惑するよね。
「あの、この家に何かご用でしょうか?」
「この家はキャサリンとリスイの物であると聞いていたのだが?」
「やっぱり……えぇと、今2人は遠くに出掛けてまして、御伝言等ありましたら伝えておきますが?」
「あぁ、2人が出掛けてる事は知っておるぞ」
キャサリン姉とリスイ姉の不在を知っていて、2人のいないうちにこの家を潰そうって事!?
最初から襲撃するつもりだったのなら、話し合いで帰ってもらう事は難しいかも知れない。
何とか穏便にお帰り願いたいんだけど。
「それではどういったご用件でしょうか?」
「キャサリンとリスイが居ないという事で、ここにいるアイナという娘の元へ来たのだが」
え?私が目的?
私を人質にして、勇者が戦えないようにしようという事?
私がアイナだと気付かれては拙い!
「あ、アイナなんて人は居ませんけどぉ?」
「目の挙動がおかしいが?そう言うお主は何者じゃ?」
「それは……」
私が言い淀んでいると、今一番来て欲しくない人達が嗅ぎつけて来てしまった。
「なんじゃアイナ、誰か来たのか?」
「アイナ、ドリンクおかわり……あん?お主達は……」
師匠とミミィが特製ドリンク(毒)を片手に玄関まで来てしまった。
しかも2人共うっかり私の名前を呼んじゃってるし。
もう言い逃れは出来ない。
私が人質になったらキャサリン姉とリスイ姉に迷惑かけちゃうから、何とか逃げ出さないと。
でも、魔王からは逃げられないよね……。
「獣王……」
「そっちは闇王かい……」
老人達の雰囲気が突然変わった。
師匠とミミィを知ってるのは何故なのか分からないけど、明らかに友好的な態度じゃない。
遂に魔王が本領を発揮してしまうのかと身構えた時、師匠がとんでもない言葉を発した。
「勇者のジジイとババアが何用だ?」
へ?勇者?
この物語はファンタジーです。
実在する特製ドリンクとは一切関係ありません。




