140 商会
もう深夜なのに金髪リーゼントはリーゼントのままだった。
その髪型のまま寝てるの?寝癖凄い事になりそうだけど。
いや、割とすぐに来たから夜更かししてたのかな?
「な、なんだお前っ!こんな夜更けに何用だっ!?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど」
私を見るなり引き攣った顔で喚く金髪リーゼント。
「『夜行』について知ってたら教えてくれない?」
「たとえ知ってても教える訳が無いだろう、貴族街の中心部のヒャッキ商会が夜行の本部になってるなんて。はっ!?俺は何を……」
自白剤気体バージョン(毒)を既に吸い込んでしまってるので、金髪リーゼントが面白いように吐いてくれる。
「ひょっとしてあの転移魔導具も夜行から手に入れたの?」
「それだけじゃなく、公爵家が気に入らない奴を陥れる為に他にも色々魔導具を購入しているがな。はっ!?何故俺の口は勝手に喋るんだ!?」
こいつだけじゃなくて公爵家自体も繋がりがあったか。
まぁ予想通りだけど。
「それで何歳までおねしょしてた?」
「12歳だ。はっ!?」
「人に言えない恥ずかしい秘密は?」
「夜はクマのぬいぐるみを抱いてないと眠れない。はっ!?」
師匠とミミィが面白がって余計な質問までしよる。
だが今の情報は今後活用させてもらおう。
「て、てめえ……何かスキルを使いやがったな!?」
「まあね。もう用は済んだから帰って寝ていいよ」
ミミィに魅了してもらうと、虚ろな眼になって金髪リーゼントはそのまま帰っていった。
魅了便利だなぁ。
私もミミィの遺伝子情報を持ってるんだから、使えても良さそうなんだけど。
そして私達はヒャッキ商会に向かって再び隠密行動へと移る。
しかし、元気が有り余ってる師匠とミミィは、
「よし、ミミィ!また競争だ!」
「今度は負けんわ!」
隠密……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
貴族街の中心部に位置するその商会は、まさしく大店と呼ぶに相応しい偉容で佇んでいた。
3階建ての建物は周囲の貴族邸よりも大きく、あの建物を貴族達が容認しているのであれば、おそらく百貨店的な立ち位置で周囲の顧客を抱え、多くの商品を取り扱っているのだろう。
その商品の中に犯罪に使われるような危険な魔導具も含まれているのは残念な事であるが。
深夜の店舗内に人の気配は無いが、地下で忙しなく動くクリティカルポイントが多数視えた。
こんな深夜まで仕事している働き者達は、どこから出入りしているのだろう?
店舗には全て鍵が掛かっているみたいだけど。
誰かが出入りするのを待った方がいいかな?
「あれをぶっとばせばいいのだな?」
「今度こそ妾の必殺技を」
待ってる時間無さそうなんですけどぉ!!
「九曜、叢雲、なんとか2人を止めて」
「お嬢……無理に決まってんだろ」
「このお二方のような化物を止める手段などありませぬ」
くっ、ヴァイスさんが「明日の食事の仕込みを」とか言って早々に逃げたのは、これを解っててか……。
元龍の女王でも止めれないものを誰が止められると?
この2人が野に解き放たれてるって、王国滅びちゃわない?
以前は別に滅んでもいいと思ってたけど、最近は王国にも知り合いが増えちゃったからなぁ。
しょうがない、とりあえず鎮静剤(毒)で落ち着かせるか……。
2人に近づいて行くと、商会の建物から少し離れた倉庫のような場所で、複数の人が出入りするのが視えた。
「入口見つけたっ!」
なんとか師匠とミミィを宥めて、倉庫の入口があるところまで移動。
商会の建物の裏手なので、灯りも少なくとても静かだ。
さて、何かセキュリティとかあると面倒だけど、どうしたもんか?
「よし、突入!」
師匠が無造作に扉を開けたせいで、けたたましくアラームが鳴り響いた。
もう、好きにして……。
この物語はファンタジーです。
実在する自白剤及び鎮静剤とは一切関係ありません。




