014 実験
塀の上から見た時は森が広がっていたのに、何故か私は今山を登っている。
近くに山なんて無かったはずなのに……何故?
上から見ただけじゃ分からない起伏があったのかな?
街からは確実に遠ざかっていると思うし、とりあえず良しとしておきますか。
それにしても、そろそろちゃんとベッドに入って寝たい。
ダンジョンではジっちゃんに対しても警戒してたから浅い眠りしかできなかった。
街で数日過ごした時も宿に泊まるお金は無いから、路地裏の人目のつかない場所で寝てた。
この辺は魔物が出る可能性もあるし、木の上で寝ないとだめかな?
木の上も安全とは言いがたいから、できれば小屋みたいなのがあるといいんだけど。
最悪カフェイン(毒)を生成して眠気を吹き飛ばすか、ファンタジーカフェインを作って眠気の元になってる物質を除去するか。
あんまり強力な毒を自分の体に使うのは怖いから、事前に誰かで実験したいんだけど。
実験しても心が痛まない相手はいないかな〜?
「ぐへへへ、こんなところを女が一人で彷徨いてたら攫われるんだぜ?」
丁度いいところに被検体……もとい、盗賊が現れた。
「ひひひ、おじさん達がかわいがってやるよ〜」
「おいおい、大事な金づるなんだから傷つけるんじゃねーぞ」
被検体2号と3号も現れた。
「ぐへへ、おとなしくしな……ぎゃっ!?」
素早く一人の後ろに回り込み、クリティカルポイントに麻痺毒を流し込む。
「て、てめぇっ!ぎゃあっ!」
「な、何が!?ぶえっ!」
三人とも麻痺毒で体が動かないようになった。
何故かこの盗賊達のクリティカルポイントが尻に集中していたんだけど、変な性癖でもあるんだろうか?
針がばっちくなってそうだから、消毒液(毒)を生成して洗っとこ。毒なのに消毒液とはこれいかに?
「さてと……どんな毒が望みだい?」
「「「ひ、ひいっ!」」」
それから暫く色々な実験をした。
おならが止まらなくなる薬(毒)、くしゃみが止まらなくなる薬(毒)、高低差があるかのように耳キーンってなる薬(毒)等々……。
「屁、屁がとまらねえええええぇっ!」
「へっくしょい、へっくしょい、へーっくしょいっべらんめぇ!」
「高低差があるかのように耳キーンってなってるうううううぅっ!」
色々試した結果、以下の事が分かった。
毒によって変化した状態はほぼ永続的に残る。
但し、私のさじ加減で後遺症が残らないようにもできる。
その場合、毒が効いている間だけ効果があり、毒が消えた瞬間に元に戻る。
私が出した毒同士で化合したものは10分経つと消える。
栄養素は体に取り込まれれば残るが、胃腸に残ったままのものは10分経つと消える。
つまり口から含ませて体に吸収させれば10分経った後も毒素は体に残る。
クリティカルポイントに毒を打ち込むと通常よりも毒の効果が高い。
とりあえず調べた結果はこんなとこかな。
最後に私が生成したポーション(毒)がどの程度効果があるかも調べて終了。
おぉ、ちゃんと元通りになってるじゃん。
「はっ!?俺はいったい何を!?」
「あれ?なんか以前より体調が良くなったような……?」
「……長年悩まされていた痔が治ってるだと!?」
盗賊達は自分の体を弄りながら確認している。
そして三人そろって私の方を見ると、一斉に土下座した。
「「「申し訳ありませんでしたぁー!!もう悪い事はしませんっ!!あなた様に忠誠を誓います!!」」」
……良きにはからえ。
とりあえず寝床でも提供してもらおうかな——と思った瞬間、私の能力の範囲内に大型の獣らしいクリティカルポイントが引っかかった。
それは急激な速さで迫ってきて、500m程あった距離が一気に縮む。
「何か来るっ!?」
私は臨戦態勢をとったが、その獣が姿を現した瞬間に足が竦んだ。
ビッグターキー相手なら難なく戦えるぐらいにはレベルが上がったけど、これは無理だ……。
私達の目の前に現れたのは、身の丈2mを越える程のライオンだった。
猫科の柔軟な体から繰り出されるスピードは他の獣の比ではない。
狩りに特化したその能力に普通の人間が対抗するには、相当な鍛錬が必要だろう。
パワーレベリングした私じゃきっと歯が立たない。
それでもなんとかスキルで抵抗出来ないかと思考を巡らすが、ライオンは牙を剥き出しその大きな口を私達に向けた。
「てめぇら、うるせぇんだよっ!!こっちゃ二日酔いなんだから頭に響くだろうがぁっ!!」
シャベッタアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?
そして盗賊達はライオンを見た途端に素早く逃げ出した。
おい、忠誠はどうした!?
この物語はファンタジーです。
実在するカフェイン及び麻痺毒及び消毒液及びおならが止まらなくなる薬及びくしゃみが止まらなくなる薬及び高低差があるかのように耳キーンってなる薬及びポーションとは一切関係ありません。




