139 公爵邸
草木も眠る、月も成を潜める、そんな闇夜の中を疾駆する影が5つ。
隠密行動するには多すぎる人数なんですが……?
隠密の妖術で気配を消しているのは、私と九曜と叢雲。
妖術だけで言えば吹雪が一番特性が高いんだけど、今回は直接的な戦闘になる可能性があるので、吹雪はお留守番。
残りの2人は……現在私の頭を悩ませる人達である。
一人は我が師匠、元獣王のシルヴァ。
思いっきり武闘派なイメージだったんだけど、気の扱いが上手い師匠は意外にも気を0にして気配を消す術にも長けていた。
そしてもう一人は、元闇王改め漆黒の王ミミィ・ヴァンプ・モッサリ。
これまた闇属性の魔法によって、完璧に気配を消して闇に溶け込んでいる。
実力的には問題無い2人だが、何故か互いにやたらと張り合おうとするのである。
せっかく気配を消しているのに、どちらがより早く現着できるか競争し始めて、突風を巻き起こしたり。
一般人にはただの風に感じられると思うけど、それなりに腕の立つ人には明らかに何かが駆け抜けた後だとバレバレだ。
この魔王かと思うほど強い2人を止める事など勇者でもなければ不可能なのだが、我が家の勇者は今不在だし、タケル君に止めろというのは酷過ぎる。
つまり現在手綱の付いてない猛獣状態となっているのである。
私達は今、『夜行』の本部へと向かっている。
と言っても、本部がどこにあるのかは分からないので、まずはそれを知ってそうな人のところに向かっている。
普通じゃ手に入らない魔導具を持っていた奴。
「ここが公爵邸だね……」
あの金髪リーゼントが持っていた魔導具は、かなり強力である以上に危険な代物だ。
そんな物をどこから手に入れたのか?
この国の貴族はろくなのがいないから、恐らく夜行とズブズブだろうという事で、怪しい貴族から当たりをつけようという事になったのだ。
でも、いきなりセキュリティが強固な公爵邸はダメだったかな?
我が家のセキュリティもそれなりに強固だけど、公爵邸は門番や見回りの私兵もいて簡単には突破できそうに無い。
「どうやって侵入したらいいかな?」
「なんだ、そんな事を考えていたのか?簡単だぞ」
私の独り言のような疑問に答えたのは師匠。
不安しか無いですけど?
「まずは外壁を破壊する」
まずはから間違ってまーす。
「次に、兵が集まってきたら逆側から侵入する」
あ、一応侵入するつもりだったのね。
てっきり殲滅するつもりなのかと。
「そして背後から殲滅する」
「却下」
「なんでじゃあ!!」
やっぱり殲滅するつもりだったよ。
まだ夜行にたどり着いてないのに騒ぎ起こしちゃダメでしょうが。
と、妙に大人しいミミィの方を見ると、何やら考え込んでいた。
「ずっと考えていたんじゃが……」
そういえば最近のミミィは様子がおかしかったけど、何を考えてたんだろ?
「ようやく必殺技の名前が決まった」
考えてる事がくだらな過ぎて、あやうく隠密の妖術が解けるとこだったわ。
「そんな事考えてたんだ……」
「うむ。まさかアイナの家が勇者の所有物とは思わなんだ。それで勇者が帰って来た時に食らわせる必殺技を考案していたのだ」
「絶対止めときなさいよ。討伐対象になっちゃうから」
「その必殺技で吹き飛ばせばセキュリティなんぞ……」
「却下っ!」
「なんでじゃあっ!!」
だめだこいつら。
付いて来ようとした時の台詞が「面白そう」だったからヤバいとは思ってたけど。
「って言うか、ミミィ魅了使えたでしょ。それで門番を魅了してよ」
「あぁ、そんな方法もあったか」
それを一番に思いついてよね。
公爵邸の大きな門の前に、深夜だというのに二人の門番が立っていた。
その二人に同時にミミィが魅了を掛けると、瞬時に眼が虚ろになって魅了状態になってしまう。
冒険者ギルドに居たモヒカンには効かなかったようだけど、ここでは問題無く発動出来たようで良かった。
魅了状態の門番に、金髪リーゼントを呼んで来てもらう事にする。
「学園でお漏らしした事をバラされたく無かったら、直ぐに門まで来るように」
一人の門番が公爵邸に入って行き、程なくして金髪リーゼントがダッシュでやってきた。
「漏らしてねええええええぇっ!!」
深夜なんだから静かにしなさいよ。




