138 黒幕
かなり混沌とした状態の闘技場で、ミミィだけは何事も無かったかのようにブツブツ独り言を言って観戦席に座っていた。
あんたその様子だと試合も見てないでしょ。
何しに来てたのよ?
生徒達も事情徴収とかされるでもなく、寧ろ避難するために帰らされてるから、私も帰っていいよね?
「待ちたまえ。私はまだ君の事を諦めてないぞ」
何故か王太子が話しかけて来たけど、今そんな状況じゃないでしょう?
アホなのかな?
「私の側近になるのであれば、君の望みは出来る限り叶えよう」
「絶対嫌です」
王太子のこめかみがピクピクしてたが、面倒そうなのでそのまま放っておいた。
まだ気絶しているレントちゃんを担いで、ミミィを引き摺って帰路についた。
家に帰ると、中から聖女が暴れているような音が聞こえる。
ちゃんと蘇生できてたみたいで一安心だね。
「何で私がこんな所に居なきゃいけないのよ!私は教会に帰るんだから、そこどきなさいよ!!」
九曜が玄関で仁王立ちしている事で、聖女は家から出れないという状況らしい。
私も家に入れないんだけど……。
「お嬢、おかえり。この我が儘女がうるさいんだが、どうしたらいい?」
「あぁ、聖女様。あなた状況分かってないでしょ?」
「何がよ!?」
「教会に帰ったら今度こそ完全に殺されるよ」
「えっ……」
一応心当たりはあるみたいね。
聖女を狙う人で一番可能性があるのは、教会内の聖女を疎ましく思っている誰かだろうし。
まぁ、勇者も同時に狙われている事から、他にも一枚噛んでる奴がいると思うけど、あくまでも私の予想でしかないから正確な事は分からない。
分からないからこそ、勇者と聖女を一時的に仮死状態にして、襲撃者には2人を仕留めたと思わせたのだ。
これで暫く時間が稼げるのに、今聖女に出て行かれたら、せっかく私が仕掛けたものが無駄になってしまうじゃない。
聖女が俯いてしまうと、その後ろから帝国の勇者であるタケル君が顔を出した。
「あの……アイナさんが助けてくれたんだよね?ありがとう」
「まだ助けられたかは分からないよ。黒幕を突き止めないとまた命を狙われると思うし」
「黒幕って……誰が狙ってるって言うの?」
「タケル君の場合は——例えば帝国とかかな?」
「そ、そんな馬鹿なっ!」
「例えばって言ったでしょ。王国内の政治がらみで強硬手段に出た奴の仕業かも知れないし、まだ何とも言えないよ。とりあえず2人はまだここから出ない方がいいと思う。誰が敵か分からないからね」
聖女と勇者が沈痛な面持ちになってしまったところで、早々に王女がやってきた。
「えっ!?聖女様と勇者様!?」
学園の方ではたぶん、勇者と聖女は殺されたか誰かに攫われた事になってるだろうから、王女が驚くのも無理は無い。
王女の護衛はエンデさんではなく、代わりとしてルールーと師匠が付いて来ていた。
今はキャサリン姉がいないから師匠とぶつかる事も無いので、平和的に話し合いが出来そうだね。
「なんだぁ?お前ミミィか……相変わらずちんまいのぉ!」
「げっ!獣王!?相変わらずもっさい髪型じゃのぉ!」
バチバチと視線を交わす師匠とミミィ。
平和……。
とりあえず全員で座れる広めの談話室へ移動してから話し合いをする事に。
毒は私のスキルで中和した事、一時的に仮死状態にして聖女と勇者を連れて来た事を話す。
そして黒幕が誰か分からない状態では、聖女と勇者は表に出れない旨も伝える。
それを聞いてから、王女は溜息をついた。
「ただ少し困った事になりそうです。聖女様と勇者様の生存を確認出来ないと、帝国と教皇国との関係に軋轢が生まれる事になります」
「たぶん黒幕の狙いはそれだろうけどね……」
「黒幕に繋がる手掛かりが無い事には、聖女様と勇者様が表に出れない。でも逆に、聖女様と勇者様が出て来なければ黒幕の思うままになってしまう。どうしたらいいんでしょう……?」
「それは、知ってそうな連中に聞きに行くしかないよね」
「えっ!?アイナさん、黒幕の目星がついているのですか!?」
どうせ潰しに行こうと思ってたし、丁度良い機会だからやっちゃいますか。




