135 決勝戦 対Aクラス 5
魔剣士が魔剣を一振りすると、刀身が鞭のように長くしなる物へと変化した。
それを横に薙ぐように振ると、巨大な刃のような形へと変化し、私を襲う。
私はそれを飛んで躱し、空中で足場を作ってそこに留まる。
「ダニエロのスキルを模倣したのか?」
「勘違いしてるみたいだけど、私のスキルは模倣じゃないよ」
「ほぅ、それは逆に興味深いな」
そう言うと、魔剣士は再び剣を大きく振った。
振るう前は鞭のようだが、振るうと同時に刃へと変わり広範囲を薙ぐ。
あれはあくまでも剣で、鞭のような状態は待機時の形態なのだろう。
一つのスキルで色々な事が出来るのは、私のスキルに似ているので親近感が湧くなぁ。
しかし、魔剣士は一度に複数の魔剣を生成出来ない、あるいは一つの武器には同時に一種類しか効果を付与できないのだと思う。
違う効果の魔剣に変える時は、前の魔剣の効果を消している事からもそれは明らかだ。
いや、それは引っ掛けで、そう思わせているだけかも知れない。
相手の懐に踏み込む時は用心しておいた方がいいかな?
鞭の刃は動きが大きくなるので読み易いが、それに伴って攻撃範囲も広い。
それを掻い潜って近づくのは面倒だ。
それならと私は毒ファン○ルを生成して、魔剣士へ毒レーザーを打ちだした。
それに対して魔剣士は新体操のリボンのように体の前で鞭を回転させると、螺旋を描いた形状の刃に変わり全てのレーザーを防いだ。
なるほど、広範囲の攻撃だけでなく、螺旋による防御も出来るのか。
思ったよりも考えられている魔剣だね。
更に魔剣士が剣をこちらに向かって突き出すと、グンと真っ直ぐに伸びた鞭が途中から伸びる刃に変わり、私との距離を一気に詰める刺突となった。
なんとか躱すも、わずかに私の腕を掠めて服が破けてしまう。
「先日買ったばかりの服が〜」
「おいおい、本気でやれよ。服なんざ後で買ってやる」
「え?それってデートのお誘い?」
「お前、真面目にやる気あるのか?」
これが私の平常運転ですが何か?
魔剣士は若干呆れたような顔をした。
じゃあ、ここから本格的に攻めて行きますか。
足に気を込めて加速し、一気に距離を詰める。
魔剣士が魔剣を横に薙ぐが、それを低い姿勢で躱しながら懐に潜り込んだ。
下からアッパー気味に拳を突き出すと、それはスウェーで躱される。
やっぱ普通に攻撃してもダメだね。
そこで私は、以前にレイアさんと戦った時と同じように、気の流路と魔力の流路の流れを少しずらして、更に一歩距離を詰めた。
そのまま肘を鳩尾に向かって突き出すと、魔剣士は驚いた表情で身を躱す。
「何だ今のはっ!?攻撃のタイミングがズレた!?」
獣人とヴァンパイアのハイブリッドだから出来る裏技。
気の流路では一瞬溜めるように見せて、実際の動きは魔力の流路で前へ距離を詰める。
人族は魔力だけで身体を動かすのは難しいけど、アンデッドであるヴァンパイアにはそれが出来ちゃうのだ。
さらに私は、東方の元公儀隠密 吹雪の遺伝子情報も取り入れているから、妖力も使えるんだよ。
私は隠密の妖術で、その場から気配を完全に消した。
「消えた……!?」
私を見失って周囲を探る魔剣士。
その魔剣士の後方から出現すると同時に蹴りを繰り出すが、瞬時に反応され躱されてしまう。
しかし、そもそもその蹴りは相手の動きを誘導する為のもので、私は魔力だけで身体を捻り、上段から魔剣士の頭部へ蹴りを打ち込んだ。
「ぐがっ!」
もろに食らった魔剣士は、後ろに下がりながら踏鞴を踏む。
追撃を——と思ったが、さすがにそこまでは許されず、魔剣を振られた事で距離を取らされてしまった。
攻撃は当たるようになったけど、決定打にはまだ遠いか。
いや、一気呵成に攻め上げるのは私の悪い癖だ。
以前もそれでガス欠になってしまい、キャサリン姉達に尻拭いしてもらったのだから……。
ここは確実に相手を削っていく戦い方で行く。
徐に距離を詰め始める私に不気味さを覚えたのか、魔剣士が後ずさりながら距離を詰めさせまいと魔剣を振るう。
横薙ぎの鞭が刃へと変化して私を襲うが、余計な動作はせずに軽く飛んで躱す。
次に繰り出された刺突の刃となって迫る魔剣は、上半身を揺らすだけで躱しながら前進して行く。
程良く距離が詰まったところで、魔剣士の腕のクリティカルポイントを拳で打ち抜いた。
打たれた腕を気にする事無く魔剣士は次の攻撃を振るう。
しかしその軌道上にいるのは、フェイクの気の流路で動くはずだった私。
なまじ流路で先読みするせいで、その流路にフェイントを混ぜると簡単に引っかかってくれるね。
間合いを掴めなくなった魔剣士は、闇雲に剣を振るうしかなくなっていった。
「くっ!攻撃が当たらないっ!?」
相手の攻撃は最小限の動きと、ずらした流路によるフェイントだけで避けていく。
そして徐々にクリティカルポイントを打ち抜いたダメージが蓄積されて、魔剣士の身体の自由は奪われて行った。
魔剣を振るう速度も精度も、もはや見る影も無い。
「な、何が起きてるんだ……?決定的なダメージは受けていない筈なのに、体が重い……」
「これがどういう状況なのか理解出来ないと、まだまだ勇者の弟子にはなれないと思うよ」
私は決定打となる一撃を、魔剣士の腹に打ち込んだ。
最後のクリティカルポイントへの打撃は、蓄積されたダメージと重なって魔剣士の意識を刈り取った。
「……勝者Fクラスっ!」
審判の宣言により、クラス対抗戦は幕を閉じた。
この物語はファンタジーです。
実在するファン○ルとは一切関係ありません。




