134 決勝戦 対Aクラス 4
普通は相手が一人であっても囲むような事は、フレンドリーファイアを避けるためにもやらない。
でも彼らは連携に自信があるのか、私を中心にして三方から囲んでいる。
一見逃げ場が無くて不利なようだけど、逆に読みやすいよね。
水魔法使いの魔法は攻撃の射線が広く、味方にとっても読みづらいので初撃では来ない。
軽技師は攻撃の線が解りにくい訳ではないけど、相手を怯ませる程のインパクトが無い。
当然連携を取りやすくする為に、相手の動きを限定させるだけのインパクトのある攻撃として、魔剣士が最初に突っ込んでくるでしょ。
「どこを見ている!」
案の定、魔剣士が最初に攻撃を仕掛けて来たけど、私は次に動くであろう軽技師を目で牽制していた。
私はクリティカルポイントを直接脳内で視てるから、背後から攻撃されようが関係無いんだよ。
そちらを向く事無くサイドステップで魔剣士の攻撃を躱すと、軽技師が動きづらそうに宙に舞う。
私は今までの戦闘の中で、軽技師の動きはトリッキーだが注視していればそれほど脅威じゃない事に気付いた。
常に誰かの攻撃を隠れ蓑にして、死角から攻撃するのを得意としていると。
だからそれをさせない為に、魔剣士の動きはクリティカルポイントで追いつつ、視線はずっと軽技師に向けていた。
何とか攻撃に繋げようと複雑な動きを繰り返す軽技師だが、全部丸見えだし、それは格好の的だよ。
いくつか宙に設置しておいた透明な尖った塊に、軽技師は見事に激突した。
「ぐあっ!?」
顔面から突っ込んだ為に鼻血をまき散らして仰け反る軽技師に、追撃の蹴りを食らわせる。
くの字に折れ曲がった体は壁に激突すると大きく跳ねて、そのまま地面に突っ伏すように倒れた。
「まずは一人」
蹴りを放った事で体勢を崩した私に向けて、今度は後ろから水魔法使いが魔法を放とうとしているのが分かった。
私は即座にそれをジャミングで相殺する。
魔法が発動しなかった水魔法使いは悔しそうに顔を顰める。
だが、直ぐに私のジャミングも掻き消された。
「スキルは使わせないぞ!」
魔剣士が魔剣から黒いオーラを周囲に撒き散らす。
武器の刀身が無くなっているから、魔素を喰らう魔剣に戻したみたいだ。
でも、その剣じゃ剣技はほとんど使えないでしょう?
私は跳躍して魔剣士との距離を詰める。
一度フェイントを入れてから、視界の外からフック気味に拳を放つ。
しかしそれは身をかがめた魔剣士に躱されてしまった。
うん、やっぱりこの人だけ流路が視えてるっぽいね……。
他の2人は私を目で追ってたけど、魔剣士だけは視線を向けていない方向からの攻撃も捌いている。
この人を相手取るには、一段階上の戦い方が必要だ。
とりあえず、私は足に気を込めて速度を上げた。
「ちっ!動きが速くなった!?」
連続で繰り出された私の攻撃に押され始めると、魔剣士は魔素を喰らうオーラを消してレオナさんを吹き飛ばした時の刀身を復活させる。
それを私に向かって振り抜こうとしたので、一旦距離をとって離れる。
「これで終わりだっ!!」
魔剣士から離れたところへ、水魔法使いが今までで最大の水魔法を使おうと魔力を込めていた。
私はこの時を待っていた。
魔剣士が魔素を喰らうオーラを消した事で、今は毒が生成できる。
「くらえ——ぐぎゃあああぁっ!!」
特大の水魔法を放った瞬間に大爆発が巻き起こり、水魔法使いは壁際まで吹き飛んでしまった。
私は、とある物質を水魔法使いの魔法の前に生成しておいた。
生成したのはファンタジーアルカリ金属(毒)。
水との反応性が異常な程高く、取り扱いに注意が必要な金属だ。
本物のアルカリ金属だと空気中でも反応してしまうので、ファンタジーアルカリ金属にして完全に水とだけ反応する毒金属を生成してある。
それが魔法で生成された水と反応して、大爆発を引き起こしたのだ。
水魔法使いは吹き飛んだ先で白目を剥いてしまい、完全に戦線から離脱した。
「2人倒して、1対1になったね。降参する?」
「ふっ、やるな。元々お前とは1対1で戦ってみたかったんだ。ここで降りる訳が無い」
残ったこの人が一番の強者だけど、さてどうしようか?
この物語はファンタジーです。
実在するアルカリ金属とは一切関係ありません。




