132 決勝戦 対Aクラス 2
想定外に正々堂々と勝負して来てるけど、まだ魔導具らしき物は使ってないと思う。
一応それは警戒しておこう。
「私はセオを抑えるので、アイナ様はダニエロをお願いします!」
そう言って駆け出すレオナさん。
私、あいつらの名前よく覚えて無いんだけど……。
レオナさんは魔剣士の方へ走って行ったから、あれがたぶんセオかな?
とすると残る2人のうちのどちらかがダニエロだ。
えっと、ダニエロ……エロ……エロそうなのは水魔法使いよね。
私は跳躍して水魔法使いに向けて飛びかかった。
「くらえっ、ダニエロ!!」
「アイナ様、そっちじゃないですっ!!」
1/2で外した……。
前に一回聞いただけの名前なんて知らんがな。
私の蹴りを必死に避けた水魔法使いの後ろから、本物のダニエロが飛び出して来た。
カウンターで拳を打ち込むけど、空中であり得ない角度に身を翻して躱す軽技師ダニエロ。
私はそのまま軽技師に追撃しようとするが、水魔法使いが魔法で妨害してくるので距離を取った。
連携されるとかなり攻めづらいね。
軽技師のスキルは、私と違ってノータイムで出せるようで、何時いかなる時でも体を方向転換できるみたいだ。
足場を事前に生成しないといけない私では、同じやり方で攻撃を当てるのは難しいかも?
しかし、レオナさんが魔剣士を引き剥がしてくれている今なら、レントちゃんの水レーザーが使える。
「レントちゃん、今っ!」
「は、はいっ!!」
アイコンタクトなんて高度な事が出来ない私達は、直接声に出して指示を出すしかない。
でも、それによるタイムラグを覆せるぐらいレントちゃんの攻撃範囲は広いのだ。
いかに舞台を取り払って広くなったとはいえ、その攻撃から逃げ切れる程の広さは無い。
レントちゃんが水を圧縮し始めた時、水魔法使いが懐から何かを取り出した。
ここで仕掛けてくるか……。
転移魔導具かも知れないので、私は念のために封印布の準備をしておく。
しかしそれは丸い手鏡のようなものだった。
「こっちを見ろ!」
水魔法使いが叫ぶけど、明らかに魔導具みたいな物を持ってるのに、見るわけないじゃん。
「え?何?」
あ、レントちゃんが見ちゃった……。
戦闘経験が少ないレントちゃんはそういうのに引っかかり易いんだなぁ。
水魔法使いが持つ手鏡から、レントちゃんに向かって光の粒子のようなものが飛んだ。
その粒子がレントちゃんに吸い込まれるように消えると、準備していた水レーザーの玉が消失してしまった。
何故かレントちゃんは、虚ろな目になってぼーっと立ち尽くしている。
「ふ、ふはははっ!傀儡の鏡で操る事に成功したぞ!そちらの最強の使い手はもうこちらの手駒だっ!!」
相手を操る魔導具なんてあるのかぁ……あれは危険だね。
防ぐ手段は鏡を見ない事かも知れないけど、不意に視線の先に仕掛けてあったらうっかり見ちゃうかも。
3対3が、一人寝返ったから4対2になってしまった。
しかもよりによってレントちゃんが敵になって——あれ?何か忘れてるような?
ゆらりとレントちゃんがこちらを向いた。
「おい、レントとか言ったか。あいつを全力で攻撃しろ」
水魔法使いがレントちゃんに命令を出す。
それに従うように右手を私の方へ翳すと、水レーザーの玉が大量に生成される。
あれほどの水を大気から抽出したら、観戦席の人達まで干からびる可能性もある。
なんとか止めないとと思ったが、もう水レーザーは放射寸前の状態まで圧縮されてしまっていた。
やばいっ!……と思った瞬間、
「あばばばばばばばっ!!」
急にレントちゃんが電撃を受けたかのように痙攣して苦しみだした。
「な、何だっ!?」
水魔法使いも驚いている事から、彼が何かした訳ではないようだ。
そのまま激痛に苦しむように、レントちゃんは地面に突っ伏してしまった。
「何が起こっている?傀儡の鏡は短時間しか操れないが、その拘束力は絶対の筈だ。自らの意思で抵抗したと言うのか?」
レントちゃんと私の友情パワーが……と思ったところで、私は思い出してしまった。
強力なスキルの使い方を教える時に、レントちゃんとは契約魔術を交わしたんだった。
契約内容の一つに『私の味方になってくれる事』というのがあったんだけど、今回操られてしまった事で敵側に回ったので、契約不履行とみなされたのかも知れない。
契約を破ったら、確か全身を7日間激痛が襲うんだよね……。
ごめんね、レントちゃん。
試合が終わったら、何とか毒針で契約破棄できないかやってみるから。
とりあえず魔王レントちゃんが敵に回るという事態は避けられた。
でもピクピクと痙攣し続けていて、操られているのが解除されてもとても戦線復帰できそうにない。
一人脱落してしまい、私とレオナさんの2人で3人を相手にする事になってしまった。




