130 準決勝 対Bクラス 大将戦
こちらを睨む金髪リーゼントににっこりと微笑んであげたら、盛大に顔を引き攣らせた。
ちょっとぉ、美少女が微笑んだのに顔引き攣らせるってどういうことぉ!?
ふん、まぁいいわ。
今回の試合から魔導具を使ってもいいということなので、獣王の腕輪と闇王の耳飾りは封印の布を外してある。
元々封印はされてなかったけどね。
でも金髪リーゼントには前科があるので、転移魔導具を警戒して一応布は懐に入れておく事にした。
昨日はこれのおかげで転移を防げたから、万が一の時にはこれで相手の魔導具を封印する。
もっとも、相手の同意無しに転移魔導具を使うのは国際法上の重大犯罪らしいので、これだけ人目がある場で使うとは思えないけど。
Fクラスの大将である私が舞台に上がると、次いでBクラスの大将の金髪リーゼントが信じられない格好で上がって来た。
全身鎧……それは有りなの?
余すところなく、黒光りする鎧に包まれている。
兜がリーゼントに合わせて頭部前面が大きめに作ってあるのは笑えるけど。
彼は一体何と戦うつもりなのだろうか?
あ、私と戦うのか……。
「さぁ、どこからでも掛かってこい!」
全身鎧で言ってて恥ずかしくないのかな?
とりあえず毒レーザーを発射してみるが、鎧に弾かれてダメージを与えられない。
大体予想してたけど、やっぱりあの鎧は何らかの魔導具だね……。
次に水魔法を使ってみる。
魔素(毒)で魔法陣を描き、水の弾丸を連射する魔法を放った。
属性関係無しに弾丸が当たればそれなりに衝撃があるはずなのに、全く効いている気がしない。
「無駄だ。この鎧の効果で、魔法やスキルは全て無効化される」
なるほど、私のスキルとは相性悪そうだ。
それならばと物理攻撃で鎧を殴ってみるも、衝撃が吸収されたような奇妙な感覚で気持ち悪い。
ダメージを与えている爽快感が無いね。
「物理攻撃も半減する効果があり、その上防御力も高い。この魔導具を使っている限り俺の負けは無い!」
物理攻撃半減か……。
物理無効じゃないなら、ある程度はダメージが通るのかな?
それなら何とかなりそう。
しかし相手も、いつまでも防御にだけ回っている筈も無く、炎の魔法陣を展開する。
もちろんそれはジャミングするけどね。
「ちっ、やはり何かやって魔法を無効化してやがるな!?」
ジャミングに気付いた金髪リーゼントは、懐から新たな魔導具を取り出した。
15cm程の小さな杖で、先端には水色の水晶玉が付いている。
あれも魔導具かな?
その杖を振り下ろすと、私に向かって水魔法が無詠唱で放たれた。
私は横に飛んで、辛うじてそれを躱す。
魔導具だと流路は読めないし、魔法陣が生成されるまでのタイムラグも無いから躱しづらいなぁ。
「これなら無効化できまい!」
無理矢理やれば無効化できなくはないけど、そこに拘る意味が無いよね。
こちらのスキルや魔法は無効化されて物理攻撃も半減。
水魔法を無詠唱で使ってくる。
観戦客達はもう私は詰んでいると思ってるようで、Bクラスの応援に熱が入る。
じゃあ、反撃と行きますか。
杖から出される魔法は、金髪リーゼントの手の流路の傾きで大体方向が分かるので、それだけ注意してればいい。
攻撃を掻い潜って懐に入ると、魔導具の鎧を信頼してか、全く防御態勢も取らずに棒立ちしたままの金髪リーゼント。
周りからは見えにくい角度から、私は瞬間的に腕だけ獣化して全力で脇腹を殴った。
半減したとしても体が宙に浮く程の衝撃だ。
「げぼっ!」
体がくの字に折れて、その場に蹲るリーゼント。
純粋な力ではなく、衝撃が貫通するように撃つ攻撃。
キャサリン姉直伝の気当てだ。
一般人相手に使うなって言われてたけど、強力な魔導具を纏った人は一般人じゃないよね?
「ば、ばかな……攻撃は半減されるはず……」
「うん、たぶん半減されてるよ。腹部が吹き飛んでないからね」
「なっ……!?」
半減どころか、かなり減衰されてるんじゃないかな?
あれを食らって意識があるとか、ほとんど力が伝わってないって事だもの。
私は再度懐に潜り込んで追撃する。
本来魔法使いである金髪リーゼントは防御は素人らしく、面白いように攻撃が入る。
私を遠ざけようとなりふり構わず杖を振りかざすが、どんなに有用な魔導具を使っていても単調な攻撃であれば問題無く避けれる。
接近と離脱を繰り返しながら、何度も同じところに拳を打ち込むと、ついに黒い鎧の脇腹部分が砕け散った。
「ぐああああぁっ!!」
それと同時に大きなダメージを食らった金髪リーゼントは吹き飛んでいく。
これで終わっちゃったかと思ったけど、金髪リーゼントは意地を見せて起き上がり、回復薬のようなものを飲み込んだ。
よしよし、この程度じゃお仕置きにならないもんね。
「お、お前は何者なんだっ!?」
「悪徳貴族にお仕置きする、お仕置き請負人とでも言っておきましょうか」
私は素早く金髪リーゼントに接近して、鎧が壊れて剥き出しになった脇腹に毒針を打ち込んだ。
そしてすぐに後方へ飛んで離脱する。
「何をしたっ……!?」
「過去に公爵家が無碍に虐げた人達の恨みを顕現してあげたよ」
毒針で刺したところが急激に腫れ上がり、それが人の顔のような形へと変化する。
実際はシミュラクラ現象でそれっぽく見えるように痣ができてるだけなんだけどね。
私の言葉と痣だけじゃ弱いので、更に追加で悪戯する。
『おおおおぉん!何故我らにあのような仕打ちをぉっ!』
『うおおぉん!憎いぃ!公爵家が憎いいいいいぃ!』
っていう音声を風魔法で再現した。
色々練習したけど、私はぼっちさんみたいに綺麗な声を再現出来なかった。
しかし、代わりに不気味なおどろおどろしい声だけは出せるようになったのだ。
「うわあああああぁっ!!」
半狂乱になった金髪リーゼントはその場でのたうち回る。
一応それなりに痛みも発する毒にしてあるから、かなり呪いっぽく演出出来てると思う。
「これまでの行いを悔い改めるがよい」
もう私の言葉も聞こえていないのだろう。
ビクンビクンと痙攣して、そのまま動かなくなった。
お仕置き完了!
私達は決勝戦へと駒を進めた。
この物語はファンタジーです。
実在する魔素とは一切関係ありません。




