013 塀
ジっちゃんと別れた私はとりあえずこの街を出るべく、出入りを管理している門まで来た。
来たはいいけど、さっきみたいに冒険者カードを偽造では通れそうになかった。
よく見るとカードに魔導具のようなものを当てて何かを確認していたからだ……。
「どうしよう……?」
しかし数日観察して、ある法則に気付く。
複数人で通行する場合は代表者だけがカードを見せているみたい。
商人のような馬車を使って荷物を運んでる人はチェックが厳しいが、冒険者パーティのような一時的に街の外に出る人はその程度の緩いチェックでも通れている。
これを利用すれば……。
「よし、次」
「お願いします」
「ふむ、Fランク冒険者か。通っていいぞ」
しれっと私と同い年ぐらいの少年少女のグループの後ろに付いていった。
「ちょっと待て。一番後ろの君は違うだろ」
何故バレたし!?
ダッシュで逃げた。
「おいっ、こら待て!」
レベルが上がったおかげか、なんとか振り切れた。
大人相手でも逃げ切れるって、かなり脚力が上がってるのかも?ギリギリだったけど……。
それにしても、何でバレたんだろう?
普段出入りしてるグループで顔見知りだったのかも知れない。
今のやりとりで私は完全に目を付けられただろうから、もう近づく事すらできないよ。
追っ手の心配があるから少しでも見つかりにくい街の外に逃げたいのに……。
私みたいな金髪碧眼はどこにでもいるから、その特徴だけでこの街に追っ手が来るとは思えないけど、ここはファンタジーの世界だし、私の知らない不可思議な捜索方法がある可能性もある。
私も個人の区別はつかないけどクリティカルポイントを視る能力で近くに人がいるかどうか分かるし。
なんて思ってたら、何故か上空を2つの人型のクリティカルポイントが通過した。
「え!?上!?」
通過したと思ったら、何故かすぐに戻って来た。
2人はどうやら屋根の上を走ってるみたいだ。
そしてまた私の上空を通過した。
……なんか、ジっちゃんが紅い髪の女性に追いかけられていた?
「待て、ジジイっ!!変なヅラかぶりやがって!!」
「ヅラちゃうわっ!地毛が復活したんじゃいっ!」
「嘘つけ!んなもん毟ってやるっ!!」
「ぎゃああああっ!なんでそんなに怒ってるんじゃあっ!?」
「てめぇがダンジョンでチンタラしてっから私までダンジョン入る目になったんだよ!ドラゴン食ってる暇あったら連絡しろクソジジイっ!!」
「ダンジョンに入ってたのに連絡できるわけないじゃろっ!?それに腹減ってたんじゃからドラゴン食うのはしょうがいしっ!」
「連絡用の魔導具持ち歩けって言ってんだよっ!」
助けた方がいいのかな?……いや、ほっとこう。内輪もめっぽいし。
連絡用の魔導具ってのにちょっと興味があるけど、携帯できる電話みたいなものがあるのかな?
前世の父もスマホ充電したまま携帯せずに出掛けて母に怒られてたっけ。
年寄りこそ連絡手段が必要だろうに、いつも忘れちゃうんだよね。
しばらく屋根伝いに鬼ごっこを繰り広げている2人を見ていて、思いついた。
「そっか、上だ!」
この世界の街は全体を大きな塀で囲っている事が多く、この街も多分に漏れずそのようだ。
おそらく魔物対策なんだろうと思うけど、そうすると入出場が制限されるので私のような逃亡の身としてはちょっと困る。
その塀を乗り越えちゃえば外に出れるんだけど、5m以上ある塀を登るだけでもかなり大変。
そこで、前世の映画で見た蜘蛛に噛まれた男みたいに壁に貼り付けばいいと気付いた。
屋根伝いに飛び回ってる2人を見て、糸を出して飛び回ってた蜘蛛男を思い出したのだ。
さっそく塀の近くまで移動する。
針の先から蜘蛛の手が壁に張り付くのをイメージした毒を出す。
それを両手両足に纏わり付かせた。
「おおっ!ちゃんとくっつく……けど、体を支えるのが辛いかも?早めに登らないと体力尽きちゃう」
くっつくのはいいけど、一度出した毒を別の性質に変化させる事はできない。
離すためには一度毒を解除する必要があった。
右手を解除して、伸ばした先でまた毒を出してくっつける。
次に左手、右足、左足と順次消して出してくっつけるを繰り返す。
どうやら近くの人はジっちゃんと紅髪の女性の追いかけっこを見に行ってるようで、好都合にも周りには誰もいなかった。
そのまま壁のてっぺんまで上がる事が出来た。
一旦壁の上から外の様子を窺うと、遠くまで続く森が見え、その途中には大きな川が流れていた。
その景色を見ながら考える。
——私はどこまで逃げればいいんだろう?
とりあえずの目標は貴族の手が届かないところ?
とすると、国外かな……?
隣接する国は北の帝国と西の獣人国。他にも小国がいくつかあるけど、力関係的に帝国が妥当だろうか?
ならば北へ向かおう。
私は針から蜘蛛の糸っぽいものを出して、塀から街の外側へと降りると、そのまま北へ向けて歩き出した。
自分が方向音痴であるという自覚がないままに……。
この物語はファンタジーです。
実在する蜘蛛の男とは一切関係ありません。




