129 準決勝 対Bクラス 中堅戦
二日目も闘技場は満席で、沸きに沸いていた。
客席に貴族のような身なりの人が多いのは、AクラスとBクラスには貴族が多いからだろう。
貴族は攻撃的なスキルを授かりやすいので、直接的な攻撃力でランクを決めている王国のシステムでは、大半がBランク以上のスキル持ちになってしまう。
それがイコール強さではないんだけど、貴族はそれを笠に着て権威を振るうのだからたちが悪い。
ノブレス・オブリージュという言葉はこの国には存在しないみたいだ。
レオナさんの家も聞く限りでは強さに固執してるようなので、この国には仲良く出来そうな貴族なんてほとんどいないと思う。
さて、そのろくでもない貴族の代表格である公爵家の金髪リーゼントが現れる。
一応威張ってるだけあって、きっちり代表に選ばれていたみたいだ。
他の2人は見た事無い人なので、金髪リーゼントの取り巻きは代表にはなれなかったみたいね。
さて、さすがにBクラス相手だし、そろそろレオナさんの出番かな?と思ったけど、審判はまたもやレオナさんの棄権を宣言した。
棄権って自分で宣言するものじゃないの?
「両クラスの中堅は舞台へ」
そしてBクラスの中堅が舞台に上がる。
同時に舞台に上がるは、我がクラスの中堅レントちゃん。
「なっ、何っ!?」
Bクラスの人全員が驚いているね。
金髪リーゼントはBクラスの大将なんだけど、それを読んでいた私はレントちゃんと、中堅と大将を替わってもらってたのだ。
奴には色々お仕置きしておこうと思って。
私が出てくると思っていたBクラスの中堅は青ざめている。
はっきり言ってスキルに頼り切りの人達に今のレントちゃんを止める術は無いもんね。
水レーザーはあらゆる角度から放たれるし、魔力の流れが見えてないとほぼ躱す事は不可能。
先制攻撃しか勝てる可能性は無いけど、レントちゃんの防御力が強すぎてほとんどの攻撃が弾き返されてしまう。
そんなのどうやって倒せばいいんだろうね?
勇者でも連れてくる?
あ、タケル君を連れてきたら張り切って稲妻連発しそうだから、もっとダメか。
「試合開始!」
合図と同時に水レーザーが相手を打ち抜く。
しかし、何やら服が水レーザーを弾いているみたいで効いていないようだ。
あれれ〜?あの服、どう見ても魔導具じゃないの?
とそこへ、試合中にも拘わらずAクラスの水魔法使いが現れた。
「君が魔導具を使っているので、今日は魔導具を解禁する事にしたんだよ。だから、Fクラスの魔導具も使用を許可してあげるよ。もっとも平民が用意するような陳腐な魔導具で、貴族の持つ高価な魔導具の相手が務まるかは分からないけどねぇ」
こいつ……試合が始まる前に言っときなさいよ。
レントちゃんは魔導具無しで、魔導具を身に付けたBクラスの代表を相手する事になってしまった。
いや、本来は私への対策として魔導具を解禁するつもりだったんだろうけどね。
それが中堅と大将が入れ替わった事で、レントちゃんが超絶不利に……別に不利にはなってないか?
寧ろ魔導具ぐらいのハンデじゃ足りないんじゃない?
「さすがにダメかと思ったが、光線のような攻撃も防げたしこれならいけるっ!今度はこちらが……ぐ……な、何だ?息苦しい……」
レントちゃんが相手の周りの水分を全部取り去ったようだ。
湿度0%の空間では人間はどんどん干からびていく。
体中の水分が大気に奪われていくのだが、初めは口などの粘膜質な部分と呼吸による肺からだ。
周囲の水分を奪っているのはスキルだが、その後の体の乾きはただの物理現象なので、たぶん魔導具にはそれに対抗する機能が備わってないのだろう。
徐々に立っていられなくなるBクラスの中堅。
「くっ、何をしたのか知らないが、この程度でっ……」
何か攻撃をしようと腕を伸ばしたところで、レントちゃんが Bクラスの中堅を囲うように巨大な半球状の水の膜を生成した。
まぁそれを維持するだけでも酸欠で倒せるだろうけど、レントちゃんは更にその半球状の水の膜を急激に収縮させた。
水の膜の中で急激に圧縮された空気が高熱を発し、燃え上がるBクラスの中堅。
以前教えたファイヤーピストンの原理を使って攻撃に転用したのね。
水の膜の内側なのに湿度が0%という、物理的にありえない空間を作れるレントちゃんならではの技。
ファイヤーピストンによる発火は物理現象なので、魔導具は機能しなかったようだ。
相手が黒焦げになってそのまま倒れると、審判がレントちゃんの勝利を宣言した。
「し、勝者Fクラスっ!!」
そりゃあ、魔導具があるだけで魔王に勝てたら勇者なんていらないもんね。
先程まで応援の声が上がっていた観戦席が、また静まり返ってしまった。
Bクラスの中堅は黒焦げに見えたけど、結界のお陰か気絶しているだけで命に別状は無いようだ。
それにしてもレントちゃんが試合の度に強くなってる気がするよ。
最初の頃のあわあわしていた感じは無く、今は鼻息荒く興奮している。
そして観戦席のミミィは相変わらず鼻くそほじってた。
ミミィが妙に大人しいのが怖い……。
昨日も淡々と敵を屠っていたけど、何か企んでないでしょうね?
この物語はファンタジーです。
実在する物理現象とは一切関係ありません。




