126 二回戦 対Dクラス
静寂から一転、騒然となる闘技場。
Fクラスが圧倒的勝利を収めてしまった事と、レントちゃんのAランク級の攻撃が信じられないといった感じかな?
そんなざわめきの中だが、すぐに次の試合が始まってしまうみたいだ。
連戦で次はDクラスとの試合だ。
このトーナメントは、ホントに悪意を込めて良く考えられている。
勝者は必ず連戦になり、疲労したまますぐに次を戦う事になる。
そのため、下のクラスは上のクラスに勝つのが難しくなってくる仕組みだ。
クラスの順位が逆転しないように仕組まれていると言った方がいいのかな……?
ほんと、スキル至上主義には辟易するねぇ。
ところが連戦でも、こちらに疲れている者は誰もいない。
3人共にピンピンしているので、相手のDクラス代表達の顔はかなり強ばっているように見える。
とそこへ、何故か試合はまだのはずなのに、Aクラスの例の水魔法使いがやってきた。
名前何だっけ?
「念のため、魔導具を使用していないか確認させてもらおう」
魔導具の使用は反則と言われているので、もちろん使用なんてしていない。
更に、私の針が武器とみなされる可能性があるので、必要最低限の仕込み針しか身に付けていない。
右手に2本と左手に2本、髪留めに1本と口の中に1本。
まぁ、直接相手に触れるような攻撃は今のところしてないし、使うなと言われたらこっそり口の中に仕込んだ針だけで戦うしかないか。
なんかスキル使わなくても勝てちゃいそうだけど……。
水魔法使いが何か合図を送ると、四角い箱からコードが出た変な機械が運び込まれる。
そのコードの先に付いた機械を私達の方へ向けると、明らかに嘲る雰囲気を見せてスイッチを押した。
すると私の腕と耳付近に向けられた時、大きな反応を示す音が鳴ってしまう。
「あ、やば……」
『獣王の腕輪』と『闇王の耳飾り』か……。
これ、外れないんだけど……どうしよっか?
「やはり魔導具を使用していたか」
その結果を見て、観戦者達からも避難の声が上がる。
「これだからFクラスは」
「魔導具を使うとは卑怯な」
いや、先の戦闘では全く使用してませんけど?
「この魔導具は外せない仕様なんだけど、やっぱり反則?」
「呪われた魔導具は強力な力を秘める代わりに、装備者が自分の意思で着脱出来なくなると聞く。そこまでして勝とうとした心意気だけは認めようじゃないか。しかし、反則は反則だ」
あ、やっぱこれ呪われてるのね。
強力な魔導具だし、勝手に装備されちゃうし、一年間外せないし。
「だがせっかくのクラス対抗戦で戦いもせずに反則負けというのは盛り上がらない。そこでこんなものを用意したよ」
水魔法使いがまた合図を送ると、変な魔法陣の描かれた布をいくつか持って来た。
「これは魔導具の起動を封じる布だ。これでその魔導具を包めばその魔導具は使えなくなる」
『獣王の腕輪』と『闇王の耳飾り』に変な布を巻かれた。
これでこの2つの魔導具は封印され……てる気配が無いですけど?
呪いが強すぎて封印出来ないのかな?
「先のEクラスとの戦いは結果として覆さない。代わりに次の試合は100kgの重りを両足に付けて戦ってもらおう」
そして私の両足に100kgの足枷が付けられた。
……めっちゃ軽いけど、この程度の重りでいいの?
普通に動けるんですけど?
「以上だ。健闘を祈る」
そう言って踵を返す水魔法使い。
格好つけて去っていく姿に、会場から拍手が注がれる。
何この茶番?
そもそも彼は何の権限があって色々勝手に決めてるんだろう?
貴族だから?Aクラスだから?
ルール改定されて絶対勝てない仕組みにされたらどうしようか……。
「それでは、先鋒戦はFクラスの棄権とする」
あれ?レオナさんが棄権を伝える前に勝手に棄権にされちゃった。
審判も当たり前のようにやってるけど、一応確認とかしないの?
これでFクラスはかなり不利になっ……てないのでどうでもいっか。
「中堅は舞台へ」
私は100kgの重りで足が重くなってる風に歩いて舞台へ上がった。
対戦相手のDクラスの中堅は、それを見て笑顔を浮かべている。
「ふふふ、その足枷では俺の『高速拳』は躱せまい」
そう言って拳を握り、構えをとる。
そして試合開始の合図と共に、高速——とはとても言えないゆっくりした動きで私の方へ迫ってきた。
あ、高速拳だから拳を突き出すスピードが速いのかな?
拳もゆっくりだった……。
私もゆっくり上体を反らして避ける。
そして次々に繰り出されるゆっくりの拳。
それに合わせて上体を揺すって躱す。
足も普通に動かせるけど、前の試合のペナルティだし、あえて動かさないでいこうと思う。
「な、何故当たらないんだっ!?こいつはその場から動いてないのにっ!?」
しばらくしたら飽きてきたので、右耳の下辺りを軽く拳で撫でてあげる。
「あれっ!?」
三半規管を揺らされたEクラスの中堅はバランスが取れなくなり、その場に崩れ落ちてしまった。
意識ははっきりしてても、もうまともに動くことすら出来ないでしょう。
「……勝者Fクラス!」
ふとAクラスの水魔法使いの方を見ると、顎が外れそうな程口を開けて驚いていた。
その後、レントちゃんはまたまた水レーザーを連射して、Dクラスの大将に圧勝した。
反則になった時は焦ったけど、何とか無事に3回戦に進む事ができて良かった。




