116 水魔法使い
翌朝起きたら、キャサリン姉は既に出掛けていた。
ヴァイスさんに重要な情報を聞いたので暫く戻らないと、吹雪に言付けして行ったらしい。
結局『勇者』に関する事は聞きそびれちゃったなぁ。
「さて、朝食を作りますか」
「おはようございます、アイナ様」
「あれ?ヴァイスさんが朝食作ってくれてたの?」
「はい。料理は得意なので」
おお!料理出来るのは助かる。
……いや、まだ油断は出来ない。
吹雪の料理も見た目だけは満点だったのだから。
一度だけ作った料理、私は食べなかったけど、九曜が悶絶してたし。
果たしてヴァイスさんの料理は……?
「う、美味い……」
「お口に合って良かったです」
「採用!」
「……私は何に採用されたんですか?」
「我が家の料理長になってください!」
「あはは、まぁ暫くご厄介になるので食事作るぐらいいいですよ」
「やたー!!」
これはとんだ拾いものだったよ。
最初見た時はヴァイスさん自身を料理するつもりだったけど、まさか料理を作る側だったとはね。
「な、なんかまた悪寒がするんですけどぉ?」
大丈夫、もう食べないから。
思わぬところで家の食事問題が解決して、穏やかな気分で学園に向かう事が出来た。
そして学園に着いたところで穏やかな気分が一変する。
「昨日のFクラスの子じゃないかぁ。ダンジョンでレベル上げ出来なくて残念だったねぇ」
何か軽薄そうな男が話しかけてきた。
えっと、誰だっけ?
確かAクラスの……思い出せん。
疑問符を浮かべる私を見て、チャラい感じだった顔に影が差し、苛立ちを浮かべ始める。
「あれ?僕の事知らないのぉ?Aクラスでも5本の指に入る実力者である僕の事を」
たぶん昨日会ったAクラスの3人のうちの誰かなんだよねぇ。
でも3人とも名前忘れちゃってるから、誰って言われても分からないけど。
「えっと、『魔剣士』の……」
「それはセオだ」
「じゃあ『軽技士』の……」
「それはダニエロだ。君はかなり無知なんだな」
じゃあ残った『水魔法(極大)』の人か。
なんでかこういう時って正解が一番最後に来ちゃうよね。あるある。
「それで何かご用でしょうか?」
「ずいぶん生意気な態度だねぇ。AクラスとFクラスの違いを分からせてあげようか?」
生意気だったかなぁ?ちゃんと敬語だったつもりだけど。
上から目線だから、へりくだって無い人はみんな生意気に見えちゃうの?
「痛い目みる前に地べたに這いつくばって謝罪しなよ」
突然、水魔法使いの人の周りに複数の魔法陣が展開される。
そういえばこの人無詠唱なんだっけ。
でもせっかく無詠唱なのに、そんなにチンタラ魔法陣描いてたらジャミングされちゃうよ?
魔法陣の種類は、リスイ姉に教えてもらった『ウォーターバレット』だと思う。
威力は小さめなので威嚇のつもりなのだろう。
それにしても稚拙な魔法陣だなぁ……。
直線的な軌道で水玉が出るだけの魔法陣。
まぁ威嚇が目的なら、戦闘用の高度な魔法陣を使う必要もないのか。
端から戦う気なんて無いか、あるいはFクラスだからこの程度でもビビると思われているか。
私がぼーっと魔法陣を見ていると、更に苛立ちを募らせたのか、水魔法使いの人は目つきを鋭くする。
「僕の魔法を受けて後悔するがいいっ!!」
怒声と共に、普通に魔法で攻撃してきた。
先日もリーゼント達に魔法で攻撃されたし、この学園の治安ってどうなってるんだろうね……?
あ、水魔法が来たけど、ジャミングとかするともっと面倒な事になりそうだし、とりあえず避けとこうっと。
私は、直線的な軌道の水玉を、すいすいと避けていく。
実戦では動きを先読みしてもっと複雑な動きをするんだろうなぁ。
「なっ!?僕の水魔法を避けたっ!?」
あれ?避けちゃダメだった?当たっても痛くはないと思うけど、朝から濡れたくないし。
そもそも手加減してただろう魔法を避けたぐらいで驚きすぎじゃない?
私は同じ水玉の魔法陣を魔素(毒)で再現して展開する。
「ばかなっ!?何故Fクラスが同じ魔法を使えるっ!?」
そして水魔法使いに向かって水玉を放ってあげた。
ほら、簡単に避けれるでしょ……って、全部当たったぁ!?
「ぐぼあっ!!」
しかも何か、めっちゃダメージ受けて気絶しちゃったよ……。
何がしたかったんだろ、この人?
面倒だけど、一応回復だけしてあげる事にした。
この物語はファンタジーです。
実在する魔素とは一切関係ありません。




