112 暴走
「レオナさん、あれ倒して!超レベルアップできるから!あと、絶対美味しいからっ!」
「無理でずぅ……ずびばぜん……」
乗り物酔いでグロッキーなレオナさんは、四つん這いでノロノロと私達の後方へ退いた。
あれだけ盛大に吐いた後じゃ無理だったか……。
じゃあレントちゃん……と思ったら、割れていた湖が大きな飛沫を上げて元に戻っていく。
「ま、魔力切れしちゃいましたぁ……」
レントちゃん、お前もか!
タケル君の前で張り切りすぎて、湖を割るのに余計な演出までしちゃうから……。
湖の水は大きな波を描いて、完全に白いドラゴンを飲み込んでしまった。
それにしても水の中に居たって事は、あの白いドラゴンは水棲生物なのかな?
そういえばタツノオトシゴはエラ呼吸だっけ。
そこから進化した種類なら水中で棲息できるのかも知れない。
かと思いきや、突如ドラゴンが水中から羽ばたいて空へと飛び上がった。
水陸両用?いや、空飛んでるから水空両用?
次いでドラゴンから炎の魔法が放たれた。
ブレスじゃないただの魔法だったので、魔法ジャミングで簡単に迎撃する。
それに苛立ったのか、白いドラゴンはこちらを睨みながら大きく咆哮した。
「ギャオオオオオオアアァッ!!」
私がジャミングできるからいいけど、魔法も結構強力なものを使っている。
何にしろ飛べるのは厄介だから、まずはあの翼をもぐところからやらないとだね。
レオナさんとレントちゃんは戦線離脱なので、しょうがないから私がやるか。
でも、ドラゴン相手だと大猿化しないとたぶん勝てないと思う。
ホントはあまり見せたくは無かったんだけど、この際しょうがない。
美味しいお肉に逃げられてたまるか!
しかしそこで、何やらタケル君が急にうん○我慢してるような真剣な顔付きになった。
「僕がおとりになるっ!!」
突然私達の前に躍り出たタケル君は、キッと上空にいるドラゴンを睨んだ。
え?タケル君が戦うの?
そんなにレベル上げたかったのか。
じゃあタケル君が戦いやすいように補助してあげようかな。
「僕は今から暴走状態に入って周囲を破壊してしまうと思う!巻き込まれる前に、皆は早く逃げるんだっ!」
暴走状態って、まさかタケル君中二病を発症しておられるのか?
右目がうずいたりしてるの?
いや、それにしては妙に焦燥感に駆られてるみたいだけど……どうしたんだろ?
「彼女達は襲わせないぞっ!『龍化』っ!!」
タケル君の魔力を大きく越えたオーラが迸った。
そして急激に皮膚が鱗のようになり、体がどんどん巨大化していく。
赤く染まったその体は、上空の白いドラゴンに酷似していた。
「ギャオオオオオオオ——オオッ!?あれ……?暴走しないっ!?」
巨大な赤いドラゴンに変身したタケル君は、何故か困惑しているようだった。
あれは勇者独自のスキルか何かかな?
ドラゴンになれるスキルか——ちょっと格好いいかも。
なるほど、勇者にしてはちょっと迫力に欠けるなとは思ってたけど、こんな隠し玉を持ってたんだね。
っていうか、なんかこのドラゴン見たことある気がするんだけど……?
闇王国にいたドラゴンに似てるような……そういえばミミィが勇者がどうとか言ってたっけ。
つまり、闇王国に来ていた勇者はタケル君で、そのタケル君が変身したドラゴンを私がぶっ飛ばして、元に戻ったタケル君を私が治したって事か。
うわぁ、今大猿化しないで良かった。
タケル君をぶっ飛ばした大猿が私だってバレちゃうとこだったよ。
今後もタケル君がいる前で大猿化は避ける事にしようっと。




