107 冒険者登録
レオナさんの案内でダンジョンに行く途中、タケル君に出くわしてしまった。
私がした約束じゃないから、すっかり忘れてたよ。
「……えっと、今からダンジョンに行くんだけど、タケル君も一緒に行く?」
「ダンジョンって……昨日のとこじゃないよね?」
「たぶん違うダンジョン」
「じゃあ、行きます!」
昨日のとこはトラウマになってるのかな?
物理も魔法も聞きにくい魔物とか、そりゃ普通は戦いたくないよね。
私にとっては相性良すぎてただの雑魚だけど……。
ダンジョンは何故か王都の中にあるらしい。
都市の中にダンジョンの入り口がある場合は、スタンピード等に備えて冒険者ギルドが厳重に管理しているとのこと。
そういえば、最初に飛ばされたダンジョンも入り口で冒険者カードを確認されたっけ。
おかげで偽装に手を染める結果になってしまったけど、ちゃんと管理しないと危険だからしょうがないか。
私達はいくつかあるダンジョンの中で、王都内では最高難易度のダンジョンを選択した。
「ここはBランクのダンジョンで、学園生でも一部の者しか挑戦できないところですよ?」
レオナさんが心配そうに聞いてくるけど、学園生が挑戦できる程度なら大丈夫じゃないかな?
入り口の受付のところに行くと、冒険者カードの提示を求められる。
「このダンジョンは最低でもCランク以上の人がパーティに居ないと入れません」
「私がCランクだから大丈夫だね」
「ではカードを拝見します。……スキルがFランクなのにCランク?」
受付の人の視線が胡乱げになってしまった。
私の後ろの護衛である九曜と叢雲を見て、「お前ら保護者じゃねーの?」って視線を投げかけている。
残念ながら、九曜と叢雲は奴隷から解放した後で冒険者登録したばかりだから、現在Fランクなのである。
大人がいるのに私が冒険者カードを提示したから、尚のこと不信に思ってるのかもね。
まぁいつもの事なんだけど、このままだと入れて貰えないから、ちょっと困るなぁ。
と、そこでタケル君が私のカードと同じ緑色の冒険者カードを出した。
「僕もCランクです。これじゃダメですか?」
「スキルAランク!?は、はい。問題ありません」
ここでもスキルのランクで差別されちゃうのか……。
たぶん私の方は貴族がお金の力でパワーレベリングしたと思われたんだろうなぁ。
貴族の道楽で危険なAランクダンジョンに入られて何かあったら責任問題になるし、ギルドとしてもあんまり入れたく無かったのだろう。
「一応そちらの方々も冒険者カードも確認させてください」
「おう」
「承知」
「はい」
「えっ?わ、私は冒険者登録してないんですけど……」
九曜と叢雲はFランクのカードを出し、レオナさんはDランクのカードを出したのだが、どうやらレントちゃんは冒険者登録がまだだったみたいだ。
まぁ先日までは冒険者になろうとすら思って無かっただろうし。
「パーティにCランクの人がいても、冒険者登録していない方は入れません。入退場の管理が出来ませんので、冒険者登録してきてください」
「は、はい……」
誰が入ったか分からないと救助も出せないから、その為に冒険者登録は必須らしい。
そりゃそうよね。
仕方が無いので、先にレントちゃんの冒険者登録を済ませる事にした。
冒険者ギルドは多くの冒険者でかなり混雑していた。
この冒険者ギルドには、以前にキャサリン姉とリスイ姉と共に来た事がある。
あの時も絡まれたけど、今日ももちろん絡まれた。
「なんだぁ?ここはガキの遊び場じゃねーんだぞ!」
前回絡まれた人とは違う、赤いモヒカンでいかにも「ヒャッハー!」とか言ってそうな人に絡まれる。
今回はレントちゃんが妙にビクビクしてるから、余計に絡まれ易かったのかも知れない。
王都は人が多いから、前回の騒動を知らない人もいるんだろうね。
それにしても、スキルがある世界なんだから、見た目で絡んじゃダメだと思わないのかな?
「ガキは家に帰れ!」
赤いモヒカンがレントちゃんに蹴りを入れた。
それを、レベルが上がって頑強になったレントちゃんの体がはじき返す。
ボキリという嫌な音がして、モヒカンの足が脛付近で真っ二つに折れた。
「ぎゃあああああっ!?あ、足があああああぁっ!!」
以前の金髪リーゼントに蹴られた時とは違い、レントちゃんにはかすり傷すら付かなかった。
もう私が反撃してあげる必要すらないとは、ちょっと寂しいかも……。
「えっ?わ、私何もしてないですよ?」
「無自覚魔王……」
「ちょっ、アイナさん!魔王とか言うの止めてくださいぃっ!」
一連のやり取りを見ていた周囲の冒険者達もちょっと引いていた。
気持ちは分かる。
そして前回同様、赤いモヒカンの仲間みたいなのが現れた。
黄色いモヒカンと青いモヒカン——って、信号か?
「てめぇっ!うちの兄貴に何しやがった!?」
「ただで帰れると思うなよぉっ!!」
うーん、定番中の定番みたいな台詞だね……。
もっと捻ろうよ。
そして黄色いモヒカンと青いモヒカンは腰の鞘から剣を抜いた。
突然ギルド内は騒然となり、ギルド職員も喧噪の中で慌ただしく動きだす。
さすがに武器を抜いたら見過ごせないよ。
しょうがない、ここは私が一酸化炭素(猛毒)で動きを封じようか——と思ったところで、一人の少年が私達の前に躍り出た。
正義感に溢れる目をしたタケル君だ。
「やめろっ!僕が相手になるっ!!」
か、かっこいい……。
現実でこんなに格好良く助けに入る人なんているんだねぇ。
あ、レントちゃんの目がハートになってるんだけど……。
この物語はファンタジーです。
実在する一酸化炭素とは一切関係ありません。




