104 水操作スキル 5
「痛い痛い痛いいいいいぃっ!!」
レントちゃんが急激に頭を抑えて蹲った。
何かあったのかと、ちょっとびっくりしたけど、そういえば私にも覚えがあったのを思い出した。
たぶん急激なレベルアップで脳に負荷がかかりすぎてるんだと思う。
レントちゃんのスキルだと魔物倒した事とか無いだろうし、あれだけでかい湖の主を討伐したらレベルも相当上がったんじゃないかな?
でもこの世界ってあんまりレベル関係無いのよね。
スキルでレベル差なんて簡単に覆るし、一応身体能力が向上するみたいだけど、気の練度を上げる方が早く強くなれると思う。
そもそも世界のシステムバランスが悪すぎるのよ。
まぁゲームじゃないんだし、リアルなんてどこの世界でもクソゲーなのかも知れないけどね。
間もなく、レベルアップが完了したのか、レントちゃんがぐったりとして座り込んだ。
「もう魔力も枯渇したし、レベルアップで疲れたし、何も出来ません……」
どうやら燃え尽きちゃったみたいだ。
しょうがないので、うなぎは私が引き上げてくる事にした。
「叢雲、レントちゃんの護衛をお願い」
「主……じゃなくてお嬢様、儂はあなたの護衛なんですがの?」
「うなぎを引き上げてくるだけだから、すぐ戻るよ」
私は針を一本口に咥えると、湖に飛び込んだ。
針から酸素(毒)を生成する事で、水の中でも普通に呼吸が出来る。
そもそもヴァンパイアに呼吸って要るのかな?
分からないけど、一応しないと不安なので酸素は吸う事にした。
そして、今度は白銀鉱(毒)で背中にスクリューを2基付ける。
1基だけだと体も回転しちゃうから、バランスをとるための補助としてもう1基用意した。
スクリューを回転させて水の中を進んでいくと、程なくして黒焦げになってるうなぎを発見した。
中まで黒焦げだと食べれないんだけど、大丈夫かな?
ぼっちさんを大型のフックに変形して、釣り針のようにうなぎの口に引っかけて、力ずくで引き摺っていった。
「とったでー!」
倒したのはレントちゃんなので、拾ったでー!が正解なんだけどね。
うなぎを陸に引き上げて解体してみると、焦げているのは表面だけで、肉の部分はプリップリの綺麗な白身のままだった。
「アイナさん、それ食べるつもりですか……?」
「もちろん!めっちゃ美味しいよ」
湖に潜ってる間にレントちゃんが復活したようだ。
ついでにもう一つレントちゃんにレクチャーしておこう。
「水操作のスキルで火を付けてくれる?」
「いやいや、何言ってるんですか。水で火を付けれるはずないですよね」
「付けれるよ」
「ええっ!?ら、落雷させるとか……?」
「違う違う。まずは枯れた枝を集めて、そこを囲うように中を空洞にした水のドームを作るの。そして中の湿度を0%にして、その水のドームを急激に小さく圧縮すると中の枯れ枝が燃えるはずだよ」
「……にわかには信じがたいんですけど?説明を聞いても火が付く気がしないですよ」
「まぁ、やってみて」
訝しげにしつつも、レントちゃんは言われたとおりにやってみる。
すると、水のドームの中の枝に着火した。
「火がついたら酸素を送らないと燃え上がらないから、すぐに水のドームは解除してね」
「は、はいっ。ほ、ほんとに水操作で火が付きました……。どうなってるんですか?」
「ファイヤーピストンって言ってね、空気を急激に圧縮すると加熱されるの。普通は空気が逃げないように個体でピストンを作ってやるんだけど、レントちゃんの場合は湿度が伝達しない水っていう物理的にありえない事ができるから、水操作でも火を付けれちゃうんだよ」
「属性的に真逆なのに、火まで付けれるとは思ってもみませんでした」
「攻撃に使えるほどの事は出来ないけど、応用すると色んな属性の事が出来ると思うよ」
その火を使ってうなぎを蒲焼きにしていく。
特製蒲焼き用タレ(毒)を生成してかけると、香ばしい臭いが辺りに立ちこめた。
「うんまーっ!うなぎうんまーっ!!」
「な、なんですかこれっ!めちゃくちゃ美味しいですっ!!」
「ほほう、美味だのう」
「うなぎと言ったらひつまぶしだよなぁ。でも俺はもう無機物だから食えないけど……」
ぼっちさん、食の楽しみが無くなって寂しそうだ。
せめてこのタレをかけてあげよう。
「やめろ、錆びるだろうがっ!!」
ワイワイ騒いでいたら、九曜も起き上がってきた。
「俺が気絶してる間にこっそり美味そうなものを……」
「食べる?」
「もちろんっ!!」
一番大きい塊にかぶりつきおった。
うなぎを食べて、今日のスキル講座を終えた私達は、また白い円柱になったぼっちさんに乗って帰路についた。
レベルが上がって少し逞しくなったレントちゃんは、帰りは気絶する事なく学園の寮まで戻れた。
そして家につくと、何故か家の前で仁王立ちしているキャサリン姉に出くわす。
「アイナちゃ〜ん?なんか学園の裏山の方で大きな音とか光とかあったらしいんだけど、何か知らない?」
「私じゃないよ?」
「ホント?九曜?叢雲?」
「俺は気絶してたから、よく分からないんだが……」
「確かに主殿ではなく、主殿のご学友のレント殿のスキルで放った技ですな。教えたのは主殿ですが」
あ、こら!叢雲、余計な事言わないでっ!!
「やっぱり原因はアイナちゃんねっ!?」
「ご、ごめんなさい〜」
その後、またたっぷりと説教を受けた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
龍王は眷属の気配が消えた事で、額に汗を浮かべる。
「な、何だ今のは?王国に潜伏させていた淡水龍が光に包まれた瞬間に息絶えた……。遠くに見えたのは人族の少女のようだったが、勇者の一人か?いや、今王国に居るのは拳聖だけのはず。あれはいったい誰なのだ?我ら魔王に匹敵する程の力……、王国の情報を集める必要があるかも知れん」
密かに、本当に誰にも知られる事なく、王国に滅龍の英雄が誕生していた。
この物語はファンタジーです。
実在する酸素及び白銀鉱及び特製蒲焼き用タレとは一切関係ありません。




