101 水操作スキル 2
レントちゃんはその後、何度も水をレーザーのように放出して遊んでいた。
樹には小さな穴が、蜂の巣のように空きまくっている。
「レントちゃん、応用技でこんな事も出来るよ」
私は水の量を多めにして、今度は小さくせずに棒状に圧縮した。
そして、その側面から線状に圧力を解放すると、カッターの刃のように水が飛び出して樹を切断した。
「ふわっ!?す、凄い……」
「線状に圧力を解放すると切断系の攻撃もできるよ。ただ、解放面積が大きくなるから圧縮率を上げないとだし、水の量も多めにしないと飛び出して行かないからね」
「なるほど。かなり魔力消費が多そうだけど、今の私の魔力量なら出来そうです」
まぁ、これも所詮は応用でしかない。
実はレントちゃんのスキルの真骨頂は、『水』を相手にぶつけるところには無いのよね。
でも、これを教えたらレントちゃんを止めれるのは私ぐらいしかいなくなる。
かなり危険なので、出来れば契約魔術で縛っておきたいところだ。
「ぼっちさん、契約魔術って出来る?」
「あぁ、何か聞いた事はあるけど見たことはねぇな」
「じゃあやってみせるから、魔力で再現してみて」
以前見た契約魔術はスタンプに血を垂らして刻印するというものだった。
私の毒で再現は出来るんだけど、それだと10分で契約が終了してしまう。
後遺症として残せば行けそうな気もするけど、ぼっちさんを使って再現した方が確実だと思う。
ぼっちさんは魔力を直接魔法に変換できるから、原理的に魔導具と同じ事が出来るはずだ。
まずはスタンプを毒で再現して、そこに血を垂らす。
そしてそれを九曜の手に押した。
「おいお嬢……、説明無しに何かするの止めてくんない?」
「あぁ、これはただの契約魔術だから。契約を破ったら全身を7日間激痛が襲うのよ」
「おぅ、説明してもらったら余計不安になったわ……」
「とりあえず、今のレントちゃんのスキルに関する事を喋らないように契約するね」
「まぁ、最初から他言する気はねぇし、いいけどよ」
「よし、契約完了。じゃあ、ちょっと契約不履行してみて?」
「嫌に決まってんだろっ!!」
「えー、ちゃんと契約出来てるか分かんないじゃん。大丈夫、これは10分で消えちゃうから」
「……じゃあ9分経ってからな」
9分後に九曜が喋ろうとしたけど、激痛が走ったようで、のたうちまわってた。
わずか1分の激痛でも、九曜は痙攣して白目を剥いてしまった。
予想以上に怖いね、契約魔術。
「どう?ぼっちさん、再現出来そう?」
「おう、これなら再現可能だな。ちゃんと生涯有効に出来ると思うぞ」
「良かった。じゃあ、レントちゃん」
「絶対嫌です」
私が何か言う前に九曜の醜態を見ていたレントちゃんは拒絶した。
そりゃそうよね、私でも嫌だもん。
「というか、アイナさんの近くから聞こえる男の人の声は、誰が喋ってるんですか?そちらのお2人とは違う声が聞こえるんですけど?」
「それについても契約魔術を行使しないと話せないんだ。あと、これから説明する事はレントちゃんが大魔法使いになる為に必要な事なんだけど、殺傷能力で言えばAランクを超えてSランクと言っても過言では無いものなの。だから、とても契約魔術無しには説明できない。でも私には強い味方が必要だから、出来れば契約魔術を受け入れてほしいんだよ」
「アイナさん、私のスキルを過信しすぎじゃないですか……?所詮Fランクのスキルですよ?」
「大丈夫、レントちゃんなら絶対魔王になれるから!」
「魔王にはなりなくないですってば!」
う〜む、どうすれば契約してくれるかなぁ?
商品券でも付ける?
「わ、私はもうこれぐらいの強さのスキルで充分ですから。これ以上は必要無いかと……」
「いやぁ、私の経験上、強いに越した事はないよ。人生何が起こるか分からないからね。いきなりダンジョンに飛ばされたり、いきなりヴァンパイアに襲われたり、理不尽に模擬戦を挑まれたりする事もあるから」
「いったいアイナさんはどんな人生を歩んで来たんですか……?」
「それに、レントちゃんが味方になってくれたら、私も嬉しいし!」
「う……そんな輝く瞳で言われたら断れないじゃないですか……」
「よし、じゃあ私と契約して大魔法使い少女になってよ!」
「おいアイナ、それダメな契約持ちかける謎生物のやつじゃねーか」
こら、ぼっちさんはチャチャ入れないで!
「分かりました契約します」
「おおっ!ありがとう!!」
よし、これで大規模殲滅兵器を手に入れたぞ!
王国と敵対しても勝てるっ!!
「アイナさん、なんかめっちゃ悪い顔になってますけど……?」
「気のせい気のせい」
ぼっちさんをスタンプ形状にして、私の血を一滴垂らす。
「契約内容は、『私の味方になってくれる事』『私利私欲の暴力に力を使わない事』『必要以上の殺生を行わない事』だよ」
「え?そんな事でいいんですか?私、アイナさんと敵対する事なんて無いと思うし、暴力や、まして無闇に殺生なんてする気も無いですよ?」
「もちろんそうだと思ってるよ。でも、強力過ぎる力に飲み込まれてしまわないように、誓約だけでは弱いから、契約が必要って感じかな?」
「うーん、何かよく分からないですけど、一応私の為って事のようなので契約に同意します」
レントちゃんの右手に刻印が刻まれ、それが吸い込まれるように見えなくなって契約が完了した。
これにより、レントちゃんは魔法少……じゃなくって、大魔法使い少女への道を歩み始める事となった。
この物語はファンタジーです。
実在する水及びスタンプとは一切関係ありません。




