010 冒険者カード
冒険者カード——確かお父さんが自慢げに見せてくれたっけ。
親って子供に尊敬されたくて、武勇伝を大げさに語っちゃうとこあるよね。
ギルドトップクラスの冒険者があんな片田舎に住んでる訳ないじゃん。
あの時に見せてもらったカードをスキルのファンタジー金属で再現するしかない!
なんか前世では見たことない銀色に輝く金属プレートだったけど、ちゃんと再現できるかな?
懐から出すように、針の先からイメージしたファンタジー金属プレート(毒)を生成した。
うん、ちゃんと私の名前で再現できてる。見た目だけは……。
なんか魔導具的な仕組みがあったらアウトだよ。
私は金属プレートの冒険者カードをギルド職員に手渡した。
あれ?なんかカードを見た後、私の顔を二度見した?
三度見……四度見……、何度もカードと私の顔を交互に見る。
やっぱり偽物だってバレちゃったかな?
伯爵に引き渡される可能性があるから、ここで下手うって捕まるわけにはいかない。
逃げだそうと一歩下がったところで、
「どうしたんじゃヒナ?」
後ろから来たジっちゃんが覗き込んだ。
「ジ、ジオ様!?」
あれ?ギルドの人がなんか恐縮してるみたいなんだけど?
ジっちゃん、自称偉い人じゃなくてホントに偉い人なの?
「この娘がどうかしたかの?」
「ジオ様のお連れの方でしたか!……いえっ、何も問題ありませんっ!」
敬礼しつつ冒険者カード(偽)を返してくれた。
よかった。色々聞かれると面倒だし、余計な時間を食って10分過ぎるとプレートが消えちゃうかも知れなかったから助かった。
ジっちゃんも冒険者カード見せてたけど、お父さんのカードとは違う色だった。
カードにも種類あるのかな?
色々言われる前にさっさと退散することにしよう。
ダンジョンの入り口から少し離れたところで、ジっちゃんが海賊みたいな意匠の兜を脱いだ。
その姿は神々しく輝いていた。主に頭頂部が……。
兜から出ていた白髪が長かったから、当然頭頂部もフサフサだと勝手に思い込んでたよ。
某宣教師様のイラストは実は帽子だったという話もあるが、目の前のジっちゃんの頭頂部はまごうことなき頭皮だった。
「ジっちゃんにはお世話になったから、お礼するよ。ちょっと頭下げて」
「んぅ?何じゃ急に」
ズブリと円形に広がった頭皮の中心に針を突き刺す。
「いだっ!?何しとるんじゃあ!?」
「動かないでっ!発毛剤(毒)!!」
生成した毒が頭皮を覆う。
周りの毛は白いけど、新たに復活した毛根から生えたのは黒い毛だった。
長さは丁度良く周りに溶け込んだけど、頭頂部からグラデーションがかった様な髪になっちゃったよ。
「何やったんじゃ?ん、んんっ……!?バイキングヘルムでムレたせいで失った毛根が、復活しておるじゃとぉ!?」
今の私に出来るお礼はこれぐらいしかないから。
ジっちゃんがいなければまだダンジョンを彷徨ってたかも知れないし、そうしたら追っ手に追いつかれてた可能性もある。
ホントはジっちゃんにお願いして保護してもらいたいけど、いくら偉くても一介の冒険者じゃ貴族を敵にまわせないもんね。
巻き込まない為にもここでお別れしよう。
「じゃあね、ジっちゃん!また縁があったら会いましょう」
「お、おぅ……」
頭部を確認しつつ呆然としているジっちゃんに手を振って、私はその場を後にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
冒険者ギルドの職員は、一緒にダンジョン前の受付で働く同僚に話しかけた。
「あんな幼い少女がAランクの冒険者とはねぇ」
「いやありゃ小人族だろ。普通の人族があの年でAランクになんてなれるもんかい」
「それもそうか」
「でも、Aランクの冒険者カードなんて久々に見たな。昔このダンジョンに来た『疾風』と『迅雷』の夫婦冒険者が来て以来じゃないか……?」
「あ、お前はさっき交代したばっかりだから知らないのか。今ダンジョンにAランクの『閃紅姫』が来てるんだぜ」
「えっ!?なんでこのダンジョンに入ってるんだよ?ドロップアイテムも閃紅姫にとっちゃ大したものなんて出ないだろうに」
「何でも師匠を探すとか何とかって言ってたなぁ」
「そうなのか……ちょっと待て。閃紅姫の師匠ってジオ様じゃなかったか?さっきダンジョンから出てきたぞ?」
「えっ?……ってことは」
「……」
「……」
「まぁ、それはおいといて」
「おいといていいのかよ?」
「あの少女はまだ噂すら聞かないけど、最近Aランクになったばかりなら直ぐに二つ名がつくんだろうな」
「そうか。どんな二つ名になると思う?」
「子供のような玉の肌に、煌びやかな金髪が特徴か。略して、たまき……」
「女の子にその二つ名はやめてやれ」
新星少女冒険者の噂が広がるのはもう少し先のお話。
この物語はファンタジーです。
何度も言いますが、実在するファンタジー金属及び発毛剤とは一切関係ありません。




