トラック姫
初の恋愛短編で、初めてフィクションを書きました。
関西にあるとある街
俺は某運送会社に勤めるしがない現場作業員だ。
可知 弥独身の24歳。当然彼女もないない、安アパートで1人暮らしをしている。
職場が人員カットのためほぼ一人でフォークリフトという2本の爪のついた乗り物に乗ったり、大型トラックで配送したりと、大忙しの休みのない日々を送っている。ああ、女っけの無い。も付け加えておこうか。
職場は自分の親世代のおじさんばかり。弥ちゃんなんて呼ばれてる。
唯一の女性も母親より年上で、いつもお煎餅をくれる。
忙しいが、上司や親世代の同僚から頼りにされて助けあう。いいチーム感のある職場だ。
そんな俺にも唯一顔が緩むことがある。
トラック姫
職場内や、ほかの運送会社の人ともトラック姫と言うだけでおじさん達は目をキラキラさせる。
12メートルのロングウイング車を走らせる、とびきり美人の運転手だ。
朝早いどころか、夜中から走る運送業で、
整えられた美しく艶やかな栗色の髪。パッチリした目に長くカールのついたまつ毛。小さく色っぽさと可愛さを兼ね備えた唇をもつ女性。もはや姫だ。
こんな汗と男臭い業界にいるなんて信じられないため、誰が呼び出したかわからないが、トラック姫と呼ばれている。
顔を合わせたというだけで、どんな子だったか質問シャワーを浴びるほどだ。
私のいる会社に積み下ろしをしに来ないかといつもソワソワしてるけど、来ない。来ても緊張して話せないだろうけどね。
大型トラックで配送するときはいつもドキドキする。
運転怖いから?って、トラック姫とすれちがえるかもしれないって思うからさ。
すれちがった事は何度もあるけど、その度にフロントガラスを目線の圧でぶち破りそうなほど熱く見てしまう。気持ち悪いよな。俺って。
だが、そんな半分どころかストーカー案件に近い日々を送っていたある日。
トラック姫が俺のいる会社に荷物をおろしにきた。
トラックを誘導するため近づいた時、トラック姫だと分かった時は心臓がヘヴィメタル顔負けのブラストビートを刻んだ。
オーライ!オーライ!はーい!
私は出来るだけいつもどおりやった。そりゃダサいヘルメットなんて投げ捨てて、ヘアースタイルを整えたかったさ。
でもうわついた男ほどみっともないものはないからね。
トラック姫が降りてきた。
身長は150半ばくらいだろうか。ヘルメットをかぶった作業着姿でも可愛さが止まらない。
姫「こんにちはー!荷下ろしおねがいします」
声も可愛い。
弥「わかりました。送り状と品物確認しますので、ウイング開けてください」
姫「わかりました!こちら送り状になります!」
トラック姫は両手で賞状を渡すかのように深々と頭を下げながら渡してきた。
なんていい子なんだ。俺は涙を流しそうになるほど感動した。
トラック姫がウイングを開けて品物を確認。
弥「確認できたのでリフトでおろしていきます」
俺はフォークリフトの運転には自信がある。ここでカッコいいところを見せてアピールしよう!
俺はいい歳こいてかっこつけた。
トラック姫「わー、お兄さんリフト運転うっま!こんな綺麗におろす人初めて見ました!」
俺のカッコつけの効果は絶大な力を発揮したようだ。
弥「いえいえ、でも、ありがとうございます!」
褒め言葉は必ず受け取る。トラック姫からなら尚更だ。
つつがなく荷物をおろした後、トラック姫が次に向かう所でおろす荷物を積む。
トラック姫「私リフトの運転全然した事ないから下手くそなんですよー、、今度来た時でいいので教えてください!」
なんて魅力あるお願いだろう。
俺はもちろん、いつでも!喜んで!と笑顔爆弾を放つ。
トラック姫「やったー!!」
と言いながらバンザイして一回転した。どんなアイススケーターより美しい一回転だろう。
トラック姫「じゃあ楽しみにしてますね、ありがとうございました!」
1億点のスマイルでトラックに乗り込み、会社を後にした。
なんて素晴らしい時間だったのだろう、、俺は余韻に浸っていた。その日トラック姫に関する質問シャワーを浴びたのは言うまでも無い。
トラック姫との再会は次週だった。配送途中にサービスエリアで大好きなヘヴィメタルを聴きながらゆっくりしていると、ドアをコンコンとノックされた。
同僚がたまたま居合わせたのかなと思って窓を開けるとトラック姫がいた。
トラック姫「お兄さん久ぶり!、、でもないかな」笑
完全に油断していた。こんな所でトラック姫と出くわすなんて思いもしなかった。車内には万人受けしないヘヴィメタルが流れているままだ、、マズイ、ドン引きされる。。。
トラック姫「、、お兄さん、、メタラー?」
私は耳を疑った。メタラーとはヘヴィメタル好きのことを表す愛称だ。知っている人の方が少ない。
弥「え?ああ、、俺実はゴリゴリのメタラーなんですよ」
俺は白状した。ヘヴィメタルが毎日聴きたくて運送会社に入ったほどだ。メタル愛に嘘はつけない。。
トラック姫「嘘、、私、、実はメタラーなんです!」
とんでもないカミングアウトがでた。
トラック姫「私ヘヴィメタルを聴きながらできる仕事ってないのかな?って学生の頃から考えてて、、あのデスボイスを聴きながら仕事したい!ってずっと思ってた時気づいたんです。トラック運転手なら毎日ヘヴィメタルが聴けるって」
俺とトラック姫は同じ趣味同じ理由で運送業を選んだようだ。こんなことあるのか?奇跡だ、ありがとう神様。ありがとうヘヴィメタル。
弥「俺と全く同じ理由や、、高校生の頃からずっとメタラー仲間を探していたけど、、こんなところで出会うとは」
トラック姫「私もです、お兄さん!語ろう!」
目を輝かせていた。きっとトラック姫もメタラーを探す旅をしていたのだろう。
俺とトラック姫は休憩とはいえ長くは話せないということで、連絡先を交換して後日会うことに。
トラック姫の名前は 鳥羽 姫華
歳は俺のひとつ下の23歳だ。
トラック姫の本名に姫がついているとは、最高の偶然だ。
姫華
私はある街に住む23歳の女の子です。女or女性じゃないのかって?女の子はいくつになっても女の子なの。
仕事は大型トラックの運転手。最近では女の子ドライバーも増えたし、周りも優しい人ばかり。
私がこの仕事を選んだ理由はただ一つ。好きな音楽を何時間も聴くことができるから。
好きなジャンルはデスメタル。ヘヴィメタルとは違うけど、こう言わないと伝わらないんだから仕方ないよね。
女の子らしくないとか、女の子なんだからラブソング聞こうよってよく言われる。
私だって小中学生の頃は流行りのラブソングを聞いてきゅんきゅんしてた。正確にはきゅんきゅんしていたフリをしていたわ。じゃないと周りから変な目で見られるんだもの。
私は音楽に興味がないんだなって自分で思っていた。
そんなある日、TVを見ていたの。ワンちゃんが映ってるホームビデオを特集してたわ。
そのホームビデオの中にあった。私の人生を変えるものが。
ヘヴィメタルを聴いたら急に豹変するワンちゃん。
可愛いワンちゃんがヘヴィメタルを聴いたら牙をむき出しにするって内容。
でも、私は家族とはちがうものに反応しちゃったの。
流れていた曲。
聴いたことない激しいメロディーとおじさんのこの世のものとは思えないほど低く凶暴な声。
私は落雷を受けたような衝撃が走った。すぐにスマホでワンちゃんの動画に使われた曲を探したわ。
ジャンルはデスメタル? こんな音楽ジャンルがあるなんて知らなかった、、、
私はアーティストを調べて、その曲を最初から聞いたの。
1000人が聞いたら999人が受け付けないだろうなって思った。
私は1000人の中の1人だった。
私は音楽に興味がなかったわけじゃない、好きなジャンルを知らなかったんだ。
それからというものの私はデスメタルにのめり込んだ。
私はずっとおしとやかで清楚で真面目な女の子。そんなイメージがずっとついている。
たしかに勉強は嫌いじゃないし、整理整頓も大好き。
オシャレだって好き。ファッション雑誌をかってメイクだって勉強中。
いい高校にもはいったし、夏休みに髪を染めたりもしなかった。ネイルは楽しいし可愛いから妹と2人でやってたけどね。
でも恋愛は友達から彼氏になることはなかった。
告白だって何回もされたけど、デスメタルが好きって言うのは抵抗があったから。
友達にもパパ、ママ、妹にだって流行ってるポップアーティストが好きって言ってる。本当は曲なんてCMの挿入歌しか知らないんだけどね。
みんなと同じものが好きで、みんなと同じことをして共有する。
私だけ好きなものが違うって言うのはとても怖かった。
大学も国公立のいいところにはいった。パパとママには感謝してる。
大学一年の時に普通免許を取らせてもらった。運転は怖いけど、友達みんなでドライブしてお出かけするのはとても楽しい。ドライブ中にみんなが楽しそうにかけて歌ってる歌は好きにはなれなかったけどね。
大学四年生の時、もう就活なんてとっくに始まって慌ただしい生活の中考えてた。デスメタルを好きなだけ聴ける職場を。CDショップ、メタルバー、色々考えながら街を歩いて、信号待ちをしてる時。
1番前に大きなトラックが停車して、運転手は気持ちよさそうに歌っていた。
これだ!私は直感した。運転手になろう!
すぐにタクシーを捕まえて教習所に行き申込みをした。大型トラックの教習を。
バイトして貯めたお金約43万円を私は私に投資した。
大好きなデスメタルを人目を気にせず、たらふくお腹いっぱい毎日聞くために。
教習所は難しかったけど、予定を詰めて詰めて通って無事に合格した。
自分の免許証に大型の2文字が入っただけど、笑顔がとまらなかった。
パパとママには大型運転手になることを大反対された。
何社か大きなところから内定ももらっていたし、男性社会に私が入ることが心配なんだろうなって思う。
でも、私は折れなかった。全部話した。
本当に好きなものを。パパもママもそんなものを好きだなんてって絶句してた。わかってたけど、、ショックだったな。
パパが友達に頼んで信頼できる運送会社に入れるように手助けしてくれた。本当に嬉しかった。
私は国公立新卒で大型運転手になった。
約一年経った今もその会社にいる。
私は同僚の人に聞いたけど、周りからトラック姫ってあだ名をつけられてるみたい。笑
トラック姫じゃなくてメタル姫のほうがよかったけど、楽器弾けないし、私はリスナー専門のメタラーなんだ。
いや、メタラーのトラック姫だったか。笑
そんな私が今度デートする。
相手は同じ運送業界の可知 弥さん。
一回仕事で一緒になった人だ。とてもフォークリフトの運転がうまい。優しい雰囲気の人だ。ちょっとかっこつけなのかな?って思うとこもあったけど。
たまたま休憩するためによったサービスエリアで見覚えのある人がトラックで鼻歌を歌っていたから、ちょっと声をかけてみた。窓を開けた時に流れていた曲を聴いて私は鳥肌がたった。
彼が聴いていたのは私の人生を大きく変えた、あのワンちゃん動画の曲だったからだ。
姫華「、、お兄さん、、メタラー?」
私は聴いてしまった。メタラーなんてメタル好きにしか通じないはずなのに。
彼はメタラーだった。こんな偶然ってあるの?
でも、私は今までずっとメタラーと隠して生活してきたから、メタラーと話したことがない。語りたい。語り合いたい。そんな気持ちが溢れてきた。
そして連絡先を交換した。
可知 弥さん。私の一つ年上のようだ。一つなんて数ヶ月の違いでしかないじゃない。ほぼ同い年のメタラーと会えるなんてってテンションが上がったわ。嬉しい。
可知 弥
あああ、、、緊張する。
今日はトラック姫と食事デートだ。良さげな雰囲気のイタリアンを予約した。店の場所も下見してきた。ぬかりはない。
会話の妄想もたくさんした!自信持て俺。
自分を必死に鼓舞し、車でトラック姫を迎えにいく。
もちろん車内は俺の大好きなデスメタルバンドの曲だ。
デートの時にかける曲じゃないのはよくわかっている、誰とも一緒に聴いたことなんてないからな。
俺の人生を変えた、ポーランドのvaderという老舗バンドだ。CDを買い漁り、時には英語で打ち込んで海外から取り寄せたら偽物だったこともあった。
それでも集めに集めたコレクションCDをかけ、トラック姫の家の近所のコンビニにたどり着いた。
待ち合わせより40分も早い。待とう。落ち着こう。
鳥羽 姫華
あばばばば、、、緊張、、する。
デートなんてしたことない。どうするの?普通の女の子は何を着てどんな話をするものなの?わからない。
本当の自分を知られるのが怖くてデートしたことないツケがまわってきたのかな、、
とりあえず気合い入れすぎずに、、いっそ作業着でいっちゃう?弥さんもその方がすぐ分かるだろうし、、
いやいや、ないない、私は女の子。レディーなんだからしっかりしないと!
とりあえずパンツはスキニーにして女らしさをだして、上は柔らかい印象のやつにしようかな。
バッグはノーブランドでいこう。お金かかる女の子って思われたくないしね。
ソワソワするから早めに行って待っとこ!
私は爆速のブラストビートを奏でる心臓を落ち着かせようと待ち合わせ場所に向かった。
45分早くついてしまった。。。
どんだけ気合い入ってんの私、、、よし、お手洗いでメイクチェックして落ち着こう!
私はお手洗いにいってヘアースタイルとメイクをチェックして店内に戻ったら、駐車場に弥さんの車があった。
事前に車種とナンバーを聞いていたから間違いない。彼の車だ。
お互い運送業務めだから時間にゆとりを持ちすぎて出発してしまうらしい。私はフフッと笑うと、店内をでて運転席をノックした。あのサービスエリアの時みたいに。
その頃には私の心臓はグルーヴを奏でていた。
コンコン。ノックの音で弥は勢いよく右に振り向く。
トラック姫「こんにちは」
急いで窓を開ける、ボタンを押す指が震える。
弥「こんにちは、、めっちゃ早くついてもたけど、姫華さんも早くきたんやね」
トラック姫「うん、なんだかソワソワして、、遅刻するくらいなら、うんと早く前入りするのは運転手の基本でしょ?」
姫華はふふっと小悪魔っぽい笑顔をむける
弥「そりゃ間違いない。さぁ乗って、俺の大好きなデスメタルバンド聴いてほしいから。語ろう」
トラック姫「ふふ、楽しみ。じゃあ助手席にお邪魔しまーす」
車に乗り込み、コンビニの駐車場でデスメタルを聞いて語るという、人から見れば幼稚なデートだ。でも、この2人にとっては特別な時間。
お互い誰にも怖くて言えなかった、もっとも大好きなものを語り合うはじめての時間と相手なのだから。
弥「このバンドしってるかな?俺が高校生のころからずっと聴いてる。この曲をなんてマジで一万回は聴いてるで」
トラック姫「このバンド知らないわけないじゃない、だってこのバンドのこの曲をきいたから、今私大型運転手なんだもん」
弥「マジかよ、、このバンドどころかこの曲まで知ってるなんて、、嬉しくて涙が出る、、」
弥は涙を流したわけではないが、目は赤くうるんでいた。
トラック姫「ちょっと、まじ泣きしないでよ。この曲テレビで挿入歌やけど流れてたの知ってる?」
姫華は少し笑いながら問いかける。
弥「ああ、知ってる。この曲を聴いた犬が凶暴になるやつやろ?俺、あれ見た時犬より曲の方に意識全部持っていかれたわ」
トラック姫「やば!私とおんなじ!私はあれ見た後すぐに曲調べたよ!」
弥「ええ!俺もあれ見てこのバンド知ったねん!」
2人はお互いのルーツが同じであることに喜びを感じた。
本当に好きなものを本音で語り合える。そんな男女がここに誕生した。
これから長く楽しい夜が待っている。
一年後
2人はモジモジしつつもいい友人関係から、初々しいカップルに成長していた。
いつのまにか2人は同じ家に住み、ダサかっこいいアルバムジャケットを飾り、トラック姫と弥は今もお互いトラックでデスメタルを聴いている。
はじめての恋愛短編なんで自信ないです。
やっぱり実体験のホラーのほうが描きやすい