魂の旅
僕は驚いて、昏くなってゆく辺りを見つめていた。
光は、ほほ笑みを残すように消えていった。
やがて辺りは薄明となった。
……いってらっしゃい。
そんな声が、かすかに聴こえた気がした。
僕は一瞬とまどったが、理解した。
そうか、僕の旅はまだつづくということか。
すべての存在が還る場所はここだ。
それを僕は垣間見せてもらえた。
僕の旅が終わったとき、ここは僕を迎え入れてくれるのだろう。
蛍の光のような一点が、ずっと先方に現れた。淡い淡い、やわらかな灯。
僕は、感謝の思いを胸に、その灯を目指して進み出した。
進むほど、淡い灯はゆっくりとゆっくりと大きくなっていった。
そのやさしい灯に、包み込むようなぬくもりを感じた。
空間が揺らぎはじめた。
ああ、もうじき次の世界がはじまる……
僕は、揺らぎのなかで、Sへと交信した。
「S……聴こえるかい? 僕は、天国らしき場所を発見したよ。僕たちすべての存在は、そこへと還るような場所だ。そんな場所が本当にあるんだね。とても安らかな気持ちになったよ。そこは、少し前に教えた宇宙の、白銀の砂時計のような銀河をくぐり抜けた向こうだ。僕の旅はまだつづくらしく、そこは僕をそっと次の場所へと送り出してくれたよ。もう少し旅をしておいでということらしい。でも僕が本当の最後を迎えるときは……きっとそこへと還れるんだろうと思う……」
僕は、灯に向かって進みながら、Sの返信を待った。
しばらくして、Sからの返信があった。
「聴こえるよ、H。天国を体験したんだな。そんな場所が本当にあるんだな……Hがそう言うんなら、本当にそこは天国というべき場所なんだろうな。その場所の位置も、了解した。僕もそのうちに行ってみることにしよう。楽しみにしているよ。どんな風なのか。君はまた別の場所に向かっているんだな。宇宙は行けども行けども無限なんだろうな。きっと訪れ切れないほど。僕たちの魂の命が果てるまで、宇宙はその景色を僕たちに見せてくれようとしているんだな……できる限り、見てみたいな」
「そうだな」
空間の揺らぎが大きくなった。と思うとそれは小刻みになり、やがてゆっくりと鎮まり出した。
灯は、いまや目の前いっぱいの明るさだ。
「S、もうじき次の宇宙がはじまるらしい」
「そうか」
「ああ。目の前が光でいっぱいだ」
「きっと素晴らしい宇宙にちがいないよ」
「だといいな。でもあまり期待しすぎないほうがいい気がするな」
Sが笑った気がする。
「慎重な君らしいな。でもいいところだということを願ってる」
「ありがとう。あとから君も来いよ」
「ああ、きっと行く。楽しみだよ。お先に、くれぐれも気をつけて」
「ありがとう。君も、旅の安全を」
「ありがとう、H」
光が僕を包み込んだ。
この光の向こうには、どんな景色が広がっているのだろう。
それは、想像もできない光景であることだろう。
行けるところまで行こう、命の限り。
宇宙がその姿を見せてくれる限り。
光をつき抜けた僕を、新しい世界が歓迎してくれる気がした。
(了)