魂の交流
「いま、水星に向かってる」
Sからの電波が届く。
「熱くないかい?」
僕の問いに、Sは笑った。
「熱さを感じる肉体はないからなあ」
「それはそうだ」
僕も笑った。
僕たちは思念となって移動している。時間も空間も超えて。
会いたいときは、座標軸を相談して決める。
そのときはもちろん形あるものとして会う。
形とはいわば肉体のようなものだが、それはさまざまなものの集積だ。
彗星のかけら、ガラスの破片、硝酸、貝殻、星の砂。
僕は、Sが生きていた頃の肉体をよく覚えていた。
それはSに似つかわしい肉体で、Sの精神の結晶化のようだと思ったものだった。
「君はどこにいるんだい?」
Sが訊く。
「太陽系をはなれたところだよ」
太陽を中心に、太陽系惑星がおもちゃのように並んでいるのが見える。
「ちがう銀河に行くのかい」
「そうだな。少しばかり遠くに行ってみよう」
銀河は、宇宙はいくらでもあった。
「ブラックホールにはくれぐれも気をつけて」
「そうだな。気をつけよう。ありがとう」
ブラックホールにつかまってしまったら、一巻の終わりだ。つかまってしまった者はその出口で永遠に引き延ばされつづけることになる。
よしんばうまく出口から脱出することができたとしても、一体どこへ放り出されるかわからない。
元の自分である保証すらない。
ブラックホールとは宇宙の人食いザメのようなものだった。
「でも、そんなに遠くにはなれたら……いくつもの銀河の向こうに行ってしまったら、交信はできるんだろうか?」
Sが少し不安そうに訊く。
「わからないけど。でも多分できるよ。僕たちは、あの世とこの世とでも交信できたじゃないか」
「ああ」
僕のことばに、Sは安堵したように笑った。