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短編小説  作者: 大福伯爵
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ゴールドポンド

 俺は今、怯えている。この状況に陥ったのは、僅か数秒前のことだ。

 会社でクタクタになるまで働き、会社を飛び出た俺だが、帰宅するまでにある試練が残されている。


 満員電車での席の争奪戦である。

  

 あるものは人を押し退けて座り、あるものは座る余地のないような隙間に人を掻き分けて座り、様々な思惑と策略が交差するいわば現代の戦場である。

そんな戦場の中で、俺は1人は座れるであろう理想郷を発見した。

 俺は迷わず席に座った。だがしかし、そこでとんでもないミスを犯したことに気付く、そこは理想郷ではなく、桃源郷だったのだ。


 ゴリゴリに厳つい顔の男が目の前に立っていたのだ。


 少し考えれば分かることだった、この熾烈極まる戦場の中でたった一つ残る理想郷なんてあるばずがなかったのだ。そして場面は冒頭に戻る。

 男の顔が滅茶苦茶厳つい、それはもうゴリゴリにだ。人を何人も殺めていて、人を殺すことをなんとも思っていない様な顔をしている。

 まぁ偏見は良くないんだけど。

 それにしても怖い。おしっこ漏らしそう。

 俺はあと3駅で降りる、あと3駅…まだ3駅ある。

 この席から離れたい!でも男との距離が近過ぎて、席を立つとき当たってしまいそうだ。

 心なしか男の顔が険しくなっている。そう思うと恐怖が更に増した。すると、俺の限界がきてしまったらしい。降車は3駅後だがもうここを離れければいけない。

 電車が1つ目の駅に着いた。俺は席を立ち、その際、男に鞄が当たってしまったが、構わず慌てて電車から降りて、一息つく。やってしまったな…。

 俺はホームから座っていた席を見た。そこには誰も座らず空いた儘だった。何故なら…。

 そこは理想郷でも桃源郷でもなく。

 

 ゴールドポンド(黄金の池)になってしまったからだ。

 

 

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