模倣犯と出勤
1日休んで翌日、10時少し前に両親と共に家の外に出ると、やはりというべきか、ローゼンが1人そこに立っていた。私しか目に入っていないのか嬉しそうに笑う。彼の年齢には見合わないとも思えるような少年じみた笑顔だった。私の両隣に立つ両親は、そんなローゼンを真っ青な顔できつく睨み付けている。けれど、私が気負う様子もなくローゼンの方へ一歩踏み出すと、ローゼンに対して娘のことをくれぐれも頼みます、と険しい顔で告げた。ローゼンもそれに神妙に頷いた。
「おはよう、ローゼン」
「おはよう。シェリルちゃん…」
私は早速ローゼンをこき使うことにする。家から私たちの姿がちょうど見えなくなったであろうあたりで、私は立ち止まった。
「ローゼン。私のことを抱えてお店の近くまで連れて行って」
「え、ええっ!?」
「なぁに、拒否するつもり?」
いつも私は仕事が終わるとヘトヘトになっている。そんな私を見ている叔父と叔母は、私を心配して毎日は働かさせてはくれない。だから、この仕事前の通勤という、私にしてみれば地獄の長距離走を、スキップすることで、仕事終わりがだいぶ楽になるのではないかと考えたのだ。そうすれば、仕事終わりにぐったりした姿を2人に見せずに済み、毎日働かせてもらえるようになるかもしれない。更に、ローゼンをこき使うこともできるとあっては、一石二鳥どころではない。
「そうじゃ、ないよぉ。でも、人の目もあるし…」
「私は気にしないけれど、あなたが嫌だと言うなら諦めるわ」
こき使うとは決めたが、流石にどうしても嫌だということを強要することはできない。仕方なく私は自らの足で歩き出すことにした。そんな私のお腹にローゼンの長い腕が巻き付いた。
「嫌なわけない」
そんな声と共に、私の体は軽々とローゼンの腕の中に収まり、宙に浮いた。横抱きにされながらローゼンが歩く振動に合わせて体が揺れる。しっかりと抱きかかえられており、不安定な様子はない。なんだが、嬉しげな様子のローゼンに若干の気持ち悪さを感じながらも私は満足して体の力を抜いた。叔父のお店のそばに近付いたのでローゼンの腕から降りる。
「ここからは歩くことにするわ。ありがとう」
「どういたしまして。シェリルちゃん」
お店の目の前に着いた。体の疲れはいつもよりずっと少ない。叔父夫婦が店の前で私とローゼンを待ち構えていた。口ではお礼を言いながらも叔父の目は鋭くローゼンを睨みつけているし、叔母は私を心配そうに見つめている。私が無事だと確かめ終わった叔母が私をカフェの中に入れ、そのままローゼンと別れた。
カフェの開店は11時から。それまでは開店の準備をしながら過ごす。お店は、叔父と叔母でやっており、それなりに繁盛している。文字通り忙しさに目を回して倒れ込みそうになることもあるくらいだ。けれど、働くのは楽しい。
叔父の料理は美味しいと評判だし、叔母のセンスに溢れた店内は穏やかで落ち着く空間になっている。私がするのはお客さんの注文を聞いたり、お料理を運んだりという給仕の仕事。叔父も叔母も優しいし、私が手伝うことを喜んでくれる。料理や接客でお客さんが喜んでくれると嬉しい。時々あまり態度の良くないお客さんはいるものの、お店に迷惑をかけたらメイ叔父さんが腕にものを合わせて排除するし、私としては、生命が脅かされない限り大きな問題ではない。