模倣犯への制裁
「あなたに、私を心配する資格があるとでも思ってるの?私、あの後熱を出して寝込んだのよ」
声を張るつもりはないので、淡々と事実を告げる。ローゼンはごめんなさい、と小さく繰り返した。その声が、表情が、ローゼンが反省して、ひたすらに申し訳ないと思っていることを表していた。しゅんと項垂れた男は肩を縮こまらせている。
だからといって、いったい誰のせいで熱を出して、1週間も仕事を休む羽目になったと思っているのだ、という怒りは消えそうもない。ふつふつと沸いてくる怒りを抑えるつもりもない私は、言いたかったことを全部言ってやることにした。
「私に護衛を付けてくれる、と聞いたのだけれど」
「そ、そうなんだ!このお店の近くで殺人事件が起きたって知って、俺、どうしてもシェリルちゃんのことが心配で…」
「まず、この店に何度も何度も押し掛けて、迷惑だと思わないの?私に言いたいことがあるなら直接言えばいいでしょう。私の家族を巻き込まないで」
「そ、それは…」
「なぁに?言い訳でもするつもり?私、怒ってるのだけれど?」
私は本心をぶちまけると、ローゼンの言葉など聞く気はないとばかりに、話を押し進める。
「で、私に護衛をつけてくれるという話だけれど、慎んでお受けします。強い護衛を付けてちょうだい」
私は言いたいことだけをローゼンに告げるとさっさと歩き出した。あまり遅くなると両親にまた心配をかけてしまう。歩き出した私にローゼンは慌てている。私のことを追いかけてもいいのか、それを迷っているようだ。
「私を守るんじゃなかったの」
私はほんの半身ほど振り向いて、ローゼンに問い掛ける。ローゼンは驚いたように目を見開いて、そして従順な犬のように私のもとへ走ってきた。
「えへへぇ」
「腹が立つから笑わないで」
「ご、ごめんね」
私とローゼンは2人並んでゆっくりと歩く。ローゼンは私よりもかなり背が高いから、歩幅が大きく違う。私の歩調になかなか慣れないのか、ローゼンは歩きにくそうにしていた。
「ローゼンは私を守れるくらい強いの?」
もし、そうならば、私の護衛はローゼンにしてもらおうと思う。こき使うならば、その方が手っ取り早い。
「俺、強いよぉ!シェリルちゃんの為なら、命なんて惜しくないもの。誰にも君を傷つけさせない」
「そう。なら、可能な限り私の護衛はローゼンがして」
「い、いいの?」
「私から言ってるのだからいいに決まってるでしょう」
まぁ、忙しいなら無理にとは言わない。ローゼンにだって仕事があることくらいわかってるし、きっと私なんかとは比べものにならないくらい重要な仕事を担う立場だから。
「ありがとう。何があろうとシェリルちゃんのこと絶対に守るからね」
ボソリと呟かれたローゼンの言葉がうまく聞き取れなくて、見上げた表情があまりに凛々しく見え、不覚にもドキリとしてしまった。
家からほんの少し離れたところで、私はお礼を言ってローゼンと別れた。次に護衛を頼んだのは、明後日の10時。お店までの道中、時間にすれば20分ほど。
実は毎日働くのはまだ許されていない。週休3〜4日、実働5.5時間という、前世の私なら羨みそうな働き方だが、今はそれがもどかしいと感じるのだからおかしなものだ。