模倣犯との再会
私が叔父の店で倒れてから5日後、叔父と叔母が、酷く困ったような顔で我が家にやって来た。曰く、ローゼン・アルハイムの使いのものという男が4日前から毎日私の安否を訪ねに来るというのだ。なぜそのようなことを聞かれるのかわからず穏便に追い返していたが、本日になってその使いの男から無理矢理手紙を押し付けられたらしい。中を読んでみれば、アルハイム家から私に無償で護衛をつけたいという内容が書かれていたという。流石に叔父と叔母も困って、我が家に相談に来たという。
なんてことをしてくれたんだ。私は心の中で悪態をつく。両親や叔父夫婦に要らぬ心配をかけさせるローゼンに腹が立った。
「ローゼン・アルハイムといえば醜悪なる怪人と呼ばれる男でしょう?なんでそんな人からシェリルに」
「ローゼンは時々私たちの店に来ていたのよ。恐らく、シェリル目当てだったんだわ…」
「なん、だって!?」
「シェリルは、ローゼンに対しても分け隔てなく接していたから、目をつけられてしまったんだろう」
私のことを目に入れても痛くないほどに可愛がってくれている4人は恐ろしい形相で手紙を睨み付けている。提案としては歓迎されるべき内容だ。けれど、それが私を差し出せという交換条件のように思えるから嫌悪を抱いているのだろう。しかし、相手はこの国一の豪商にして貴族でもある。好意を無碍にするような返事をすることは出来ないだろう。だからこそ、こんなにも悩んでいるのだ。
「メイ叔父さん、フレア叔母さん、手紙を書くから、そのローゼン・アルハイムの使いという人に渡してちょうだい」
「シェリル、無理はしなくていいんだ」
「そうよ。断りようなんていくらでもあるわ」
「お父さん、お母さん、いいえ、無理はしてないの。私なら大丈夫。守ってくれるというのだから甘えさせてもらいましょう」
そう言う私を心配そうに見やる4人に私はにっこり笑って見せた。やり方は非常に不服だが、ローゼンという男をこき使ってやろうと思っていた私としては、彼から接触してきてくれたのは好都合だった。それに何よりも、あんな殺人犯がうろついている街では安心して仕事にも行けない。守ってくれるというのだから、それに乗らない手はないだろう。
私はすぐに手紙を書いた。内容は、明日、私の勤め先のカフェの前で16時30分に待ち合わせをしたいというもの。もちろん、宛先はローゼン・アルハイムだ。こうすれば、ローゼン本人が必ず来ると、私は確信していた。
翌日、仕事が終わって少し休憩してから、16時25分に私はカフェを出た。両親も叔父夫婦も私の代わりにローゼンと話をすると言ってくれたが何とか断った。ローゼンが、私を誘拐したことを家族に話さない保証がない。それに、もしローゼンの提案を断ったら、両親のことだから今後私が出掛けるとなれば何を置いても送っていくと言うだろう。私はこれ以上家族に心配も負担もかけたくはなかった。
お店からほんの少し離れた場所で待つ見目麗しい男を見つける。夕暮れ時のオレンジの光に照らされたローゼンは、本当に綺麗だと思った。
「シェリル、ちゃん…」
かすれたような声で名を呼ばれる。ローゼンは私の姿を見て安心したような泣き笑いの顔を浮かべていた。
「無事で、良かったぁ」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中でプツンと何かが切れる音がした。