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模倣犯の告解



「わかってた!この薬がたとえどんなに素晴らしいものでも、こんなに醜い俺が、シェリルちゃんに惚れてもらえるなんて思ってなかったよ。でも、話をしてもらえるくらいには、仲良くなれるかなって…」



結局、惚れ薬の効能は信じてたのか。けれど、その効能を信じていても、私が彼に惚れるとまでは思えなかったらしい。

でも、そうか、そういえば、うっかり忘れていたが、このローゼン・アルハイム、私から見れば絶世の美男子だが、この世界基準では空前絶後の不細工なのだ。


何を言っているかわからないと思うがとりあえず聞いてほしい。


私の前世は地球の日本という国の平凡な女性だった。それに気付いたのは、幼い頃何度かさ迷った生死の際。生死の間際を往き来する度に思い出していった前世の記憶は、幼い私の価値観を決定付けるには十分だった。

そして、その価値観は今も変わることなく、私はこのローゼンを美しいと思うが、この世界の人々の中では彼は醜いと判断される。

まぁ、この美醜の価値観の違いに、今までは特に大きな問題を感じることは無かった。今世の私は本当に体が弱くて恋愛に現を抜かしている暇はなかったし、死なないために必死だったのだ。恋愛を抜きにすれば美醜の価値観の違いなど大したことじゃない。そんなことより、前世よりも明らかに遅れている医療の方が私にとっては大問題だった。

幸いなことに最近は、生死をさ迷うことはほとんどなくなり、多少なら働くことも出来るようにはなった。まぁ、働くといっても身内の店で数時間だけだが…。それだけでも、家族は喜んでくれるし、体の弱い私を懸命に育ててくれた両親に恩返しがしたいと思う。

話がそれたが、今の今まで美醜の価値観の違いは、私の中で大した問題ではなかったのだが、まさかここに来てそれが突き付けられるとは…。



「シェリルちゃんだけだったんだよ。俺のことを真っ直ぐ見つめてくれたの。俺に媚びを売ってくる金目当ての女でさえ嫌悪感を隠しきれないのに。シェリルちゃんだけは、嫌悪感を見せずに、他の奴等に対するのと同じように俺に接してくれた」



ローゼンからそんな気持ちを抱かれてるなんて全く気付いていなかった。働いている間は倒れないようにって気を張っていたから。それに、ローゼンは常連客、というほどではないのだ。何度か顔を合わせたことはあるが、来店頻度も高くはなかった。そして、この男から何かしら言われたような記憶もない。

ローゼンはもう私に何かをしようとは思っていないらしい。私を縛って天井に繋いでいたロープを剣で断ち切り、腕に残ったロープを取り払うと、私を慎重に床の上に下ろした。私は足に力が入らず埃の溜まった床にへなへなと座り込む。ようやく解放されたことに私は安堵した。途中から殺されることはないだろうとは思っていたけれど、それでもやはり恐ろしくはあった。ローゼンは慌てたように私のそばに跪いた。



「ごめんなさい。シェリルちゃん。俺、本当に馬鹿だった」



袖をまくりあげて腕を見れば赤く擦れた後がついている。ローゼンは私の赤くなった腕を真っ白な顔をして痛々しげに見ている。

今まで何度かこのローゼンという男には会ったことがあったが、話をしたことはほとんどなかった。知ってることと言えば、成金貴族のアルハイム家の長男で、醜悪なる怪人と呼ばれているということだけ。そのあだ名の理由も本当はよく知らない。



「謝って済むことじゃないってわかってる。なんでもする。君の望む罰を受けるよ」



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