殺人犯の愛執
「ノネット、ノネット、俺は君を愛してる。今までだって、君を完璧に愛してあげるためにたっくさん練習してきたんだよ?君みたいに可愛くて優しい女の子が俺のことを好きだと言ってくれたから、だから、俺はその思いに応えるために、完璧にその体を縛って、吊るして、愛して、バラバラにして殺してあげられるようになるために、たくさんたっくさん練習したんだよ?他の奴を愛する気にはなれなかったから、そこはまぁ練習不足かもしれないけれど、そこは愛があればなんとかなるだろう?俺は君のことが大好きだから」
怨嗟のように呪詛のように繰り返されるその気色の悪い言葉。痛みに呻く合間を縫うように途切れ途切れに紡がれるそれを、決してノネットには聞かせないように。ノネットの耳を必死で塞ぎながら、いつもは決して張り上げない声を精一杯張り上げて繰り返す。愛おしいノネットの塞いだ耳に、それでもまだ、もしも届く事の葉があるのならば、それは私の言葉であればいい。
「ノネット、あなたを愛してる。好きよ。大好きよ。あなたの優しい心が大好き。その明るい性格が大好き。私を抱きしめてくれるあなたの柔らかな体が大好き。いつも私のことを心配してくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう。自由で可愛らしいあなたの全てを愛してる。私も、フレア叔母さんも、メイ叔父さんも、お母さんも、お父さんも、みんな、みんな、あなたのことが大好きよ。あなたが私たちを大切にしてくれるように、私たちもあなたを大切にする。大丈夫、大丈夫よ。あなたの幸せは私たちが保証する。ノネットのことは絶対に私が守るわ」
いつの間にか、あたりはシーンと静まり返っていた。私はノネットの耳から手を離さずに男に視線を向けた。男は口から泡を吹いて気を失っているようだった。
「ごめん。シェリルちゃん。黙らせるのに手間取った」
すまなそうに頭を下げるローゼンに私は首を振った。そして、ノネットの耳から手を離し、再び彼女を抱きしめて、今度はその耳に祝福の言葉を優しく届け続ける。
その後すぐにメイ叔父さんと騎士団が現れ、連続殺人事件の犯人は捕まることとなった。既に意識のない男は、騎士団に拘束されて拘置所に連れて行かれる。騎士団への説明は全てローゼンがしてくれているようだった。
駆け付けたフレア叔母さんに抱きしめられるまでずっとノネットは私の胸の中で泣いていた。それを慰めながら私はただノネットの幸せだけを祈った。
連続殺人犯は、逮捕されると、すぐに処刑された。メイ叔父さんもフレア叔母さんも私とローゼンに何度も何度もお礼を言って頭を下げてくれた。けれど、私は、ノネットを守れた安堵と同じくらい、私ならば、もっと早くにノネットを守れたのでは、という後悔を感じていた。
私は8人目の犠牲者が出たあの日、あの男が連続殺人事件の犯人だとわかっていたのに、何もしなかった。それは、私だけでは何もできないとわかっていたから。そして、他の誰にそんなことを言っても信じてもらえないと思っていたから。
けれど、あの時点で私が動いていれば、ノネットはここまで傷付かずに済んだし。命の危険に晒されることも無かった。
今更、そんなことを考えたって仕方がないことなのだけれど。考えずにはいられなかった。
あの事件の事後処理で私やノネットが何かをすることは何も無かった。全て、ローゼンが請け負ってくれたのだと後から知った。私は、やはりというべきかなんというべきか、あの場ですぐに高熱を出して三日間寝込むことになった。そのせいで、まともにローゼンにお礼を言うことすら出来てはいなかった。
叔父夫婦は今は店を閉めてノネットと過ごす時間に全てを費やしている。私も熱が引いてからはほとんど毎日のように顔を見に行っている。当然のことながら、婚約者が連続殺人犯で、自らを殺そうとしたというショックでノネットは酷く憔悴していた。けれど、最近は、ほんの少しずつではあるけれど、いつものノネットの表情を取り戻しつつある。それに私たち家族は安堵していた。




