模倣犯と恐怖
「シェリルちゃんっ」
私が石を投げようとした瞬間、私の手首が掴まれ手から石の重さが消えた。驚いて後ろを振り返れば、ローゼンが息を荒げながら石を地面に捨てているところだった。滴り落ちる汗の量が尋常ではない。真っ赤な顔をして、荒い呼吸を繰り返す。ローゼンの必死な表情に、私は涙腺が緩むのを感じた。
「え?」
ローゼンが来てくれた。もう、1人じゃない。なんとかなる。私に何かあったとしても、ローゼンならきっとノネットを助けてくれるだろう。
「ひっ、うぅっ」
泣いてる場合なんかじゃないのに。それでもローゼンが来てくれたという安堵に、怯えていた体が過剰な反応を示しているようだった。
それでも、早く、早く、ノネットを救わなければと、ローゼンの湯気が立っている熱い身体に手を伸ばす。ガタガタと震える手でローゼンの腰元に差された剣に手を伸ばした。
咄嗟にというような反射的な動作で、私の手はローゼンに阻まれた。ローゼンは驚いたような顔をしていた。
「シェリルちゃん?どうして…」
体を震わせ涙を流す私にローゼンは困惑しきった表情を向ける。そして、私に許可を求めてから、けれどその答えは聞かずに謝って、私を抱えた。それは普段ならば決して有るはずのない行動。私はローゼンの手によってほんの少しだけノネットの家から離された。
「ごめんっ。シェリルちゃん。ちょっと状況に追いつけてない。説明してほしい。どうしたらいいか、一緒に考えさせて」
ローゼンの言葉はいつも真摯な響きで私の胸を打つ。僅かに冷静さを取り戻した私は、ローゼンのアイスブルーの瞳を見上げた。今、私がすべきこと、ローゼンにしてほしいと願うこと。それは、たぶん、今のままの私たちの関係じゃ、言ってはいけない。
「ローゼン、もう、やめにしましょう」
「何を、言って?」
「私はあなたのしたことを許すわ。あなたは十分に代償を支払った。だから、あなたは私の言うことにもう従う必要はない」
私は早口でローゼンに告げる。先程、あの広場で言おうとしたことを改めて。ローゼンは何故か今にも泣き出しそうな顔をしていた。その意味が私にはわからないけれど、それでも今はそれを理解するために時間を割く余裕はない。
「その上で、あなたにお願いがあるの」
「っ!そんなこと、言わないで。シェリルちゃんの言葉は絶対だよ。お願いなんて、いらない。君はそんな言葉を言わなくていいんだ。ただ、俺に命じればいい!」
「ローゼン!」
私はきつい声でローゼンの名を呼んだ。ハッとしたように私を伺い見る表情はまるで怯えているようだった。
「ローゼン、お願い。私はこんなことあなたに命令したくない。ノネットは大切だけれど、あなたも、もう私にとっては大切な人なの」
ローゼンの透き通るようなアイスブルーの瞳からまるで宝石のような雫が零れ落ちた。
「私に協力してほしい。ノネットを助けるために、私に命をかけてくれるつもりがあるなら、頷いて」
薄く開いた薔薇色の唇は荒い吐息に震えていた。
ローゼンは、ただ、頷いた。




