模倣犯の罪の代価
両親にローゼンと買い物に出かけると伝えた。苦々しい顔をして、けれど反対されることはなかった。それに少し安心した。
お出かけ用のほんの少し特別な白のワンピースと薄緑の羽織り、ローゼンに貰った白いバッグとアクセサリーを準備して、私は体調を崩さないようにいつもより早めに眠りについた。翌朝、良く晴れた空の下、いつもと同じ時刻にローゼンが家を訪ねて来た。
「すごい、似合ってる。シェリルちゃん、かわいい」
私の姿をその目に映した瞬間から、ローゼンは酷く嬉しそうにニコニコと笑っていた。いつもカチッとした服装が多いローゼンは、今日は珍しくとてもラフなシャツとパンツ姿だった。腰に下げている剣だけがいつも通りだ。やはり私の送り迎えはいつも仕事の合間に来ていたのだろう。
「俺が贈ったもの、使ってくれてありがとう」
「?お礼を言うのは私じゃない?」
「ううん。使ってもらえるの嬉しいから、ありがとう」
「どういたしまして?」
ローゼンが私の歩幅に合わせて長い足をゆったりと動かす。共に歩くのも慣れてきた気がする。いつもと服装が違うだけなのに、なんだかくすぐったいような、浮き足立つようなそんな気分になる。
「嬉しい。夢を見てるみたいだ」
ぽつりとこぼすようにローゼンが呟いた。その声の真摯な響きが耳に残る。
仕事終わりに寄り道なんて私の体力的に絶対に出来ないから、職場への行き帰り以外の道をローゼンと歩くのは初めてだ。人通りの多い道を歩いているが、ローゼンの周囲は人が避けて行くせいで歩きやすい。私としては無用な体力を消費せずに済むので非常にありがたい。けれど、ローゼンの表情は強ばっていた。
「ごめんなさい…俺と歩いてるせいで、シェリルちゃんまで避けられ」
「混んでると、人にぶつかって怪我をする可能性もあるし、そうでなくても人を避けるために変な動きをして、不要な体力を使うから苦手なの。だから、謝ったりしないで。私がローゼンといるのが嫌になるとしたらそんな理由じゃないわ」
「あ、う、うん。……ありがとう。シェリルちゃん」
謝罪されることなんて何もないのに。感謝されるようなことですら、ないのに。
ローゼンは嬉しそうに私を見つめている。そのアイスブルーの瞳に明らかな敬愛の念のようなものが見えて、なんとなく複雑な気持ちになった。それは、昨日感じた感情に似ている面もあるが、全く別のものでもあった。
ローゼンの周囲の人々がローゼンに向けている感情に、憤りに似たやり切れない気持ちを抱いたことが、ローゼンの見た目を美しいと思っていなければ、生じることさえなかったとしたら…。
私が人格者だとは思わない。人が嫌だと思う者を避けるのは当たり前だから、それは仕方がないと思う。私だってそうする。ローゼンにとっては辛い環境だろうが、それでも他者の感じ方を変えるのは困難だ。
けれど、それはそれとして、私には、ローゼンが醜く見えていないから、こんなやり切れない思いを抱いたのだろうか?他の人と同じように、私にもローゼンが醜く見えていたのなら、こんな複雑な思いを感じることすらなかったのだろうか。
恋愛感情なら、見た目の好みは重要だと思える。そんなもの人それぞれだし誰が誰を好きにならなくても咎められる事なんてあり得ない。けれど、そうじゃない人間関係で、美醜の差なんて問題になるのだろうか。
1人の人間としてローゼンと関わって、そして抱いたこの不快な感情が、もし、ローゼンが醜く見えていた場合には、感じることさえなかったとしたら、それは少し自分を物悲しく思う。
「事実として、美しく思っているのだから、気にすることではないのでしょうけど」
ローゼンの穏やかな表情が、私に向けられていた。私を伺うように、ほんの少し首を傾げる動きに合わせて淡い金髪が揺れる。
「どうしたの?何か気になるものがあった?」
「そうね。あのお店見てみたいわ」
「うん!行ってみようねぇ」
嬉しそうに笑うローゼンに、もはや私は怒りを抱くことはない。ローゼンが笑っていても、ただ笑っているな、と思うだけ。ほんの少し嬉しいなと、思うだけ。
もう、私はローゼンのことを許してしまっている。ローゼンが払った代価をもう既に十分だと感じているのかもしれない。




