20.セリー
《 あら〜、朝からアンニュイな顔ね〜 》
頬っぺたをツンツン突かれて顔を上げると、穏やかな木漏れ日に精霊達がふわふわ遊んでいた。
「おはよう」
《 うふふ、おはよう可愛い子ちゃん 》
《 たくさん採ったわねぇ、どうするの? 》
「ジャムとか、あとは煮詰めてシロップにしたりソースにしようかなって」
さてと、帰りましょうかね。蔓籠には野生のベリーがこんもり詰まってて、きらきらのビー玉やビーズみたい。ブルベリーにラズベリー、ブラックベリー、クランベリー…摘み取りながら、ついつい摘み食いしちゃう。ん〜、小粒でギュッと甘酸っぱさが詰まってる。実はいつかの『魔女』さんが育てて、それが野生化した説もアリじゃないかなって思ってる。
あの嵐から早くも数日。『魔女の家』はビクともしてないし、何か生活が大きく変わったわけでもなくて恙無く日常が流れてる。ただ、目に見える大きな変化って言えば、もうひとつ大きな泉が出現したことかな。でももうそれも見慣れた。
蔓籠を抱えて、その泉の横をてくてく通り過ぎる。もうね、そこでユニコーンやらペガサスやらが水飲んでたり、ちっちゃい火の鳥とかグリフォンのチビちゃんが飛んでても驚きませんよ、えぇ。普通におはようだよね。黒猫が喋っててこのコ達見えるようになった時点で今更だよね。日本だって八百万のカミサマとか妖怪とかいらっしゃったみたいだし、ご対面したことはないけどそう考えると大袈裟に驚くことでもないというか。世界は多彩です。
「ファゴットさん、出掛けます」
「あぁ」
いつも通り二人と一匹で美味しい朝食を摂って、いそいそと身支度して裏の小屋を覗くと、持ち込んだ倒木を切ったり削ったりしている。特に振り返ることなくぶっきらぼうな返事もいつも通り。…うん、いつも通り、ではあるのだけど。暫くその背を見つめてから、いってきますと手を振った。
《 相変わらずねぇ 》
《 ほーんと、意地っ張り 》
「こら、しっ」
んもう。そりゃ私だってね、一緒に行きませんかーって言いたいんだよ。ちょっとさり気なく誘導出来ないかなー?とか思うよ?でも思うだけで、行動に移すつもりはない。あの無言の背中を見たら、ねぇ?そもそも、最初から私が口出しすることじゃないもの。下手に首は突っ込むまい。私は、私のことちゃんとしないと、ね。さてさて、今日はどんな一日になるかな?
〜木苺ジャムのバタークリームケーキ〜
「さぁ、これで完成ですよ」
修道院に響き渡った歓声は、女の子達…じゃなくて、ママさん達のもの。それぞれ繕った衣装を手にして、隣同士顔を見合わせて嬉しそうに笑い合う表情は可愛くて、私は見たことないのに娘さんだった頃を想像させる。つまり和む。
「あとは各々、お好きな刺繍を挿して下さいな」
「なんだか、年甲斐もなくワクワクするわね。みんなで着てお披露目会しましょうか」
「やだわぁ、私の体型にコレ似合うかしらねぇ」
「ダメねぇ、昔はこういうの直ぐに覚えられたのに。もう何回かやらないと忘れちゃいそうよ。ヴィオレット様、また教えてちょうだいな」
「えぇ、もちろん」
はいはい私も!私もお願いします!ホヤホヤの小学一年生みたいに便乗して手を挙げたら、ドッと笑われて私も笑った。いやぁ、だってついていくのに必死で覚えるとか二の次だったし。途中で進行止めてたの殆ど私だしね。でも楽しかったなぁ。
この数日間ママさん達と何をやってたのかと言うと、服作り。ほら覚えてる?最初の頃、ヴィオレット様に譲ってもらったワンピーススカート。今もローテーションで着てるんだけど、ママさん達が「それ良いわねぇ」「そういえば、曽祖母がこの刺繍をしてた気がするわ」「元は貴族の女性のものなんでしょうけど、セリーちゃんが普段使いしてると、なんだか親しみがあるわね」なんていつも褒めてくれてた。それでどうやら、ママさん達の中で「せっかくだから作っちゃいましょうか!」ってなったらしくて。
「なんだかんだ言って、お母さん達はやっぱり上手だよね。私、お花の手入れは得意だけど、繕い物って苦手で…」
「わかる。私のおばあちゃんなんかも、服は自分達で繕うのが普通の時代の人だったけど、私は違うし」
マリーちゃんと密かに苦笑し合う。あ、マリーちゃんね、だいぶ体調が良くてもうすっかり。散歩や軽い家事なら出来るようになって、こうやって一緒に出来るようになったよ!セロ君は揺り籠でスヤスヤお眠りです。
これは百年以上前のデザインの伝統衣装。繕い方まで覚えているのは、今やヴィオレット様だけ。教えてくれませんかってお願いしたら、驚きつつもとても喜んでくれた。やっぱり愛着のあるものが廃れてしまうってさびしかったんだと思う。「セリーさんのお陰ね」って、いやいや私は好きで着てただけですよ?でも役に立ったなら良かった。教えてる時のヴィオレット様、凄く良い表情だったし、今も嬉しそう。
「さぁさ、お茶にしようか!今日はウチの番だよ!」
「わぁ…!」
和気藹々としてると、リリィちゃんのお母さんが戻ってきてドンと豪快に大きなお盆を置いた。こうやって毎日、ママさんの誰かが何かしらお茶菓子を作ってきてくれるんだよね。マリーちゃんと二人、一緒に思わずパチパチ拍手したら「若くて可愛いってお得ねぇ」なんてまた笑われてしまった。
今日のは名付けて、大牧場のご夫人特製バタークリームケーキ。
「あ、これもしかして、小森で採ったベリーのジャム?」
「そうだよ!せっかく採ってきてくれたからね!このケーキにもバツグンに合うだろうと思ってさ!」
ドーンと大きなスクエアケーキ。周りに黄身色のバタークリームがたっぷり塗ってあって、切り分けて見ると三層のスポンジケーキの間に、綺麗な赤紫色の甘酸っぱいベリージャム。一昨日に朝摘みしてお裾分けしたやつだ。やっばい何これ凄く美味しい!
実はバタークリームケーキって苦手だった。ノスタルジーな味だって、喫茶店では一定年齢以上のお客様に好まれてたけど、私を含めた世代はちょっと顔を見合わせてたり。生クリームが流行る前の流行だったみたいなんだけどね、こう、バターのまったりした感じがちょっと慣れなかったというか。
「どうだい、美味しいだろう!チーズケーキもウチがこの村で一番さ!」
「こんなに美味しいバタークリーム初めてです!」
なんだろう、やっぱりバターの質が良くて新鮮だからかな?同じバタークリームなんだけど、風味が全然違う。よし習お。濃厚だけどフレッシュな感じで、紅茶やハーブティーと一緒に食べるとちょうどいい。ベリージャムのお陰かくどくないから飽きない。それと、これは塩だ。甘さの中に塩気が見え隠れしてる。そうそう、お菓子作りって実はほんの少しの塩も大事だったりするんだよね。侮って入れないとなんだか味がピシッと決まらない。
「さぁさ!ヴィオレット様もたんと食べな!」
「ウチの旦那ったらいつまでもだらしなくてねぇ。もうどうしてやろうかと」
「王都の息子がまた恋人と別れたらしいんですよ。まったく、いつになったら落ち着くのやら…ねぇ、どう思います?」
起きたセロ君をあやしつつ、ケーキを食べつつ飲みつつ。ふと見ると、ヴィオレット様がなんだか聖徳太子みたいになっててちょっと笑ってしまった。はいはいセロ君どうしたのー?よーしよし、お乳かな?おむつかな?一緒にケーキはもうちょっと待とうね!
「ーーヴィオレット様?」
はてさて。
お腹も心も満たされて、いつものように並んで洗い物。…を、してるんだけど、あれ、ヴィオレット様がぼぅっとしてる。お疲れ?もしかして体調不良?ふらついてる感じはないけど、どれどれ…目の下にクマはない。熱は…うん、大丈夫。咳も出てない。手の震えもない。脈もオーケー。お腹…は、私じゃわからないや。うーん、なんだろ?
「っふふ」
「?」
「あぁ、ごめんなさいね。こんな風におでこで熱を計られたり、手を握られたりってなかったから」
「あ、確かになんか便利な魔道具ありそう」
「いいえ、そうではなくて。貴族の娘だったから、母がいた頃はちょっと何かあっただけでもお医者様を呼んで、治癒魔法を施されて直ぐに終わったの。こんな風に人肌で心配されることってなくて。母が亡くなってからは…そうね、やっぱり、なかったわね」
おぉ、じゃあ私が初めてですか?やったね!
「ねぇ、セリーさん。ちょっと、おばあさんの昔話に、付き合ってくださらない?」
残り少なかった洗い物をパパッと片付けてしまうと、ヴィオレット様は裏の戸口から薬草園に出る。私を手招くと、ひどく穏やかな声音で話し始めた。
「私が、旧領主の娘だってことは、お話ししたでしょう?父は…母が亡くなってから、少しずつ荒れてしまってね。私がセリーさんの歳になる頃には、酷い悪政を敷くようになってしまったの。兄も、それに便乗するようになってしまったわ。母によく似た私を父は離したがらなくて、どこに嫁ぐこともなかった。そんな時に、彼が現れたの」
今の穏やかな風景からは想像出来ない話だった。領民である村の人達も、反抗したくとも恐怖を植え付けられていたから行動できなくて、ヴィオレット様はお父さんとお兄さんを止めようとしたけど、半ば以上監禁状態でどうすることも出来なかったらしい。そしてある日、なんとかお屋敷を抜け出したヴィオレット様は、お兄さんが野放しにした猟犬が村娘を襲うところに居合わせて、咄嗟に庇ったのだとか。
「暗雲を切り裂く雷のようだった。彼に、私達を助ける意図はなかったかもしれないけれど」
鋭い銃声。寸前のところで現れた次代の『魔女』によって、旧領主の時代は終止符が打たれた。
あの嵐が治った後、ファゴットさんはさっさと小森に引っ込んでしまったけど、パパさんママさん達にだいたいの事情は聞いた。
「あの圧倒的な存在感に、俺達も目が覚めるようだったよ。ただ、新しい領主の選定やら着任やら、領地経営の回復云々と色々目まぐるしいうちに、小森から出てこなくなってなぁ。感謝以上に、ただ人として、普通に向き合ってみたかった。だから『次』のセリちゃんがこうして俺達に関わろうとしてくれるのが素直に嬉しかったし、あの人にもようやく会えてやっとかって。また引っ込んじゃいるけど」
ライアーさんはそう言って苦笑していたっけ。
ファゴットさんにそのつもりはなくても、ミューゲにとって彼は『魔女』である前に風穴を開けた神風だった。突然現れて淀んだ空気祓うだけ祓って、ロクに言葉も交わすことなく黙然と背を向けた彼を、いつか振り返ってくれないかと皆んなが待っていたみたい。
「父や兄を断罪する様子は暴力的だったし、決して善良な人というわけではないのに、どうしてかしらね…そう、銃を構えた時の、あの目ね。戯れに銃を撃っていた兄とは違う、自分の命と銃を向けた他者の命、どちらにも責任を持っている…命の尊厳を知っている、あの目にどうしようもなく、囚われたの。…一目惚れだった」
領主と役人の癒着に気づいた巡検士も現れ、ヴィオレット様自身も厳罰を受け入れる覚悟だったけど、領民の嘆願で修道院での三年間の謹慎処分だけで済んだ。けれど、ヴィオレット様は残りの人生をこの修道院で過ごすことに最初から決めていた。
「これは確かに、父と兄を正道に導けなかった私の罪。彼が現れて、魔法騎士団の巡検士が訪れなければ、今の平和はあり得なかった…みんなを長く苦しめてしまった、その事実を私は生涯、忘れないわ」
「…ファゴットさんのことは……」
「えぇ…結ばれたいなんて思わなかった。私は咎人だから、人並みを幸福を望むつもりはなかったわ。それでも、たった一度だけ、ひと言伝えてしまったのは、若かったからね。嫌悪さえ露わにされても、あの瞬間、心の中に鮮やかに吹き込んだ音を忘れるなんて出来なくて…初めての恋心を胸に抱いて生きることだけ、許して欲しかった」
ここで、いつも待っていたの、と小森の奥を見つめるヴィオレット様は、少し困ったように微笑んだ。
「ここで生きることを選んだのは、そんな崇高な志ではないわ。罪を忘れないように…それと、少しでも、あの人の近くにいたくて。ふふ…おかしいわね、それなのにいざ、改めてあの人に会ってしまって、どんな顔をすれば良いかわからないのよ」
「セリーちゃん?」
はっと我に返ると、メリッサさんが目の前にしゃがんでいた。っく、傾げた首の角度といい、あざとい…!
そうだった、今日はメリッサさんは用事で来られなかったから「ほらこれ、セレナードさんちによろしく頼んだよ!」って、背中バシバシ叩かれてバタークリームケーキを持たされて、届けに来たんだった。そしたらその流れで夕食を一緒に…って、慣れてしまっているのがこそばゆい。
で、今はもう食後で、完成した一着に教わりながら刺繍をしてたんだけど。メリッサさんがハーブティーを淹れに言っている間に、いつの間にかぼんやりしちゃってたみたい。
「どうしたの?なにか悩み?それとも、気になることがある?」
こうやって、みんな当たり前に心配をしてくれる。おばあちゃんとおじいちゃんが亡くなってからは、自分の心配も面倒見も労いもほぼセルフサービスだったもんね。社会人になってからは尚更。都会は特に、他人への気遣いは逆に厭われることも多い空間だ。私もそうだった。一定以上踏み込まれないように予防線をたくさん張っていた。心配されるのって、なんだか何かに負けた気分になって嫌だった。不思議だね、もう今はそんな風に感じない。ーヴィオレット様は、どうだったんだろう。
「そう、ですね。気になることは、いろいろあります」
「ふふ、そうよね。はい、カモミールティー」
「わ、ありがとうございます!」
わーい、カモミール好きなんだよね。それに、そう…簪を失くして探しにきた時、彼が淹れてくれたミルクティーもカモミールだった。ん〜…あ、これはジンジャーが入ってるみたい。
「ヴィオちゃん、このケーキも美味しそうに食べてた?」
「え?あ、はい、リリィちゃんのお母さんにデーンと盛られて笑ってましたよ。ふふっ」
いやもう、お残しは許しません!って勢いだったもんね。…うん?あれ?なんか花祭りの時みたい?あ、そっか、それ私がリリィちゃんにやられてたわ。レモンパイ。いやぁあれは頑張った。でもちょっとしばらくレモンは良いかなぁ、って密かに思ってたのは内緒だよ。おぉ、親子ってやっぱり似るのね。ふふ。
「ヴィオちゃんはね、私のお姉ちゃんなのよ」
「ん、く…っ!?っごほごほ…!」
完全なる不意打ち。カモミールティーを零さないように必死で咳き込んでると、ひょいとカップを取り上げられて背中をさすられた。メリッサさんは目の前にいるしライアーさんも向こうに見える。ということは、正体は…はい、どうもありがとうございます。
「…その話は初めて聞くんだが。セリー、大丈夫か?」
「けほっ…な、なんとか…?」
ふぅ、鼻から変なもの出るところだった、危ない危ない…息をついていると、メリッサさんは向かい側のソファに座って、彼に私の隣に座るように促した。
「どうりで、メリッサさんだけいつもヴィオちゃんって…リュートも知らなかったんですか?」
「私はヴィオちゃんの乳母の娘でね。幼い頃から、お屋敷で姉妹みたいに育ったのよ」
「紛らわしい言い方をしないでくれ、ったく…」
「あら、私は今でも姉妹だって思ってるわよ?」
まさかの元貴族疑惑が浮上したかと思った…でも、少なくともメリッサさんとしては幼馴染じゃなくて姉妹っていう感覚らしい。よっぽど仲良く育ったんだろうなぁ。
「ヴィオちゃんの身体には、みんなを庇ったり、お父様やお兄様に訴えて折檻された傷痕がいっぱい残ってるの。治したくないのね。誰も責めてないのに。それが逆に、辛かったのかもしれないけど」
「どうしても罪悪感が抜けないみたいでなぁ、こりゃどうしたもんかと」
ライアーさんも話に加わって、当時のことを話す。交流を断固絶っていたわけではないらしいけど、罪の意識が深いヴィオレット様に、ママさん達だけでなくみんなが距離を測りかねていたようで。
やっぱり、木の枝に毎日結ばれていたハンカチーフはヴィオレット様のものだった。傷つけた村の人達や恋い慕うファゴットさんが、どうか平穏無事に暮らしているようにと願いを込めたもの。この数十年間、ずっと欠かすことなく。ファゴットさんは、どうやらヴィオレット様が今もあそこにいるとは思ってなかったみたいだけど。彼女は、あくまで事実を淡々と話していた。
「悔しかったわ。もう良いよって言ったとしても、ヴィオちゃんはそう思わないだろうし、どうしたら良いのかしらって。でね、そうしたらこの人が」
「おいおい、それ言うのか?」
「あら、良いじゃない。だから貴方に決めたんだもの。それでこんな可愛い息子が産まれて、こんな可愛い子を連れてきてくれたわ。そうそう、それで『とりあえずウマいモン食って笑ってれば良いんじゃないのか?』って言ったのよね」
「いや、別に深い意味はなかったぞ?だけどおまえ、ずっと泣きそうな顔してるから、笑ってる方が可愛いしヴィオレット様もその方が良いだろ。そしたら実家飛び出して来るなり、押し掛け女房やり始めて」
「ふふふ、お陰様で幸せよ、私の旦那さま」
「見事にオトされたよ、俺の奥さん」
ええと……そろりとぎこちなく横目で見ると、「なんでこんなに恥ずかしい人達なんだ…」と彼は片手で顔を抑えていた。心中お察しします。またもナチュラルに惚気られイチャつかれて、もはやどこを見れば良いのやら。「…逃げるか?」と隣から言われて思わず頷いた。あれ、なんの話だったっけ…?「あーすまんすまん、ほら二人とも座って」と止められて、もう一度座り直したのだけど。彼が渋々というように話の路線を戻す。
「…それで、結論は?」
「懐柔することにしたの!」
「懐柔…?」
「私達が笑って過ごして幸せいっぱいになって、こっちに巻き込んじゃえ!って。時間は必要でも、時間の解決なんて待ってられないもの。美味しいもの作って食べて歌って踊って笑って、あとは元気で可愛い子供達よね。ヴィオちゃん、子供大好きだもの。絶対に絆されてくれると思って」
おおぅ、きゃっぴきゃぴの笑顔に邪気が全くないのが末恐ろしいな…メリッサさん、やっぱり強かです。どうやらその当時、ママさん達はちょうど結婚適齢期だったらしい。彼と顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
だって現に、メリッサさんが願った通りになってる。リリィちゃん達に囲まれて、一緒に掃除したりお菓子を作ってる時は楽しそうだし、元気で可愛い少年少女のエネルギーが良い空気を作って、村の人達と言葉を交わす表情は決して無理をしているのではない。まだまだ線を引いている部分があるかもしれない。罪の意識はそう簡単に消えるものではないと思う。
でも、幸せオーラに巻き込んじゃえ!っていうメリッサさんの目論見は、ちゃくちゃくと叶っていってるんじゃないかな。そうだといいな。笑う門には福来る。
なんでもあのバタークリームケーキは、リリィちゃんのお母さんがずっとヴィオレット様に食べてもらいたかった十八番レシピなんだって。猟犬に襲われそうになったのを、ヴィオレット様が庇ったおかげで五体満足、無事でいられたからって。そんなことはあの場でひと言も言っていなかったけど、きっとそれで良いんだよね。
「おまえに笑って欲しいから、ばあちゃんもじいちゃんも笑ってるんだよ」ーそっか。そうだったんだね。
「本当にリュートは良い子ねぇ、セリーちゃん連れてきてくれて」
「だから、急に何を」
「ははは、照れるな照れるな。今この空気に俺たち全員を巻き込んでるのは、どっちかって言うと二人だからな?」
はっ、また意識がちょっと飛んでた。あれ、なんか私の名前出た?うん?
「ありがとうセリーちゃん」
「え?」
「あら、関係ないなんて言わないでね?セリーちゃんが来てくれて、私達もっと元気いっぱい幸せいっぱいなんだから。だからね、ヴィオちゃんだけじゃなくて、きっとファゴットさんも巻き込めるわ。ね?」
…うん、関係ない、何もしてないなんて言わないよ。みんなと一緒に笑ってきた確かな時間を、そんな風には思わない。
そうだ、巻き込んじゃえ。そして、きっと今よりもっと、みんなで一緒に笑える時が来る。
拝啓、いつまでも大好きなおばあちゃんとおじいちゃん。あなた達がいつも幸せだったから、孫娘も巻き込まれて幸せを覚えました。そんな風に誰かを幸せにするって素敵だね。ミューゲはあったかいところなので、お盆の習慣はないけど、もし良かったら来てみてください。




