第7話 出場停止?
区切りの都合で少し短めです。次は長めなのでご容赦ください。
戦いに明け暮れながら日雇い労働の給金でその日を生きるザンは出場剣を死守し続け、大会はあと三日に迫っていた。既にザンの存在は剣士だけでなく街の住民にも知れ渡っていた。十五歳くらいの若い少年が出場剣を守りながら街で働いているのだ。目立たないはずがない。気になった住民があの少年は剣士なのかと聞けば、剣士連盟はそうでないと返答する。それがさらに住民の興味を掻き立て噂となり広まっていた。
しかし話題になれば当然、それを快く思わない人間も出て来るのである。
「集団暴行?」
剣士でもないのに毎日剣士連盟を出入りしているザンがいつものように食事をとっていると、連盟職員の女性と剣士の二人が声をかけてきた。ザンに街で起きた集団暴行の犯人の一人として容疑がかかっているというのだ。
「おいおい、少年がそんな事をするわけねーだろ~?」
同じテーブルに居たシラフがそう反論する。
「当たり前だ! そんなこと俺がするわけないだろ!」
「ですがザン様は出場剣を手にされておりますよね?」
確認するまでもない。職員の女性はザンが背負っている出場剣を見てそう言った。
「それが何の関係があるんだよ?」
「集団暴行の被害者は出場剣を犯人に強奪されているのです」
「ん~? それって被害者は剣士って事か。なら犯人も剣士じゃねーのか?」
シラフがそう疑問を口にする。
「いえ、被害者は犯人たちが剣士ではなかったと証言しています」
「それが少年だと? そもそも剣士以外のやつが出場剣を狙って何が悪いんだ? 大会のルール上問題はないはずだぜ?」
シラフがなおも食い下がる。ザンに大会にでるよう勧めたのはシラフ自身だ。ルールの穴をついてザンが出場剣を持っている事に問題が無いのは確認済みである。
「まあまあ、シラフさん。落ち着いてくださいよ」
そこに割り込んできたのは職員の付き添いの剣士だった。二十代中ごろで糸目が特徴的な男である。
「だれだあんた?」
「私はオーサンと申します。剣士ですが、この連盟の職員もさせていただいています」
「俺はザンだ。それで結局なにが駄目なんだ? 分かるように言ってくれ」
「つまりですね、私たちはあなたが集団で剣士を襲ったという点を問題視しているのですよ。なにしろ大会においてチームを組むのは違反行為ですからね」
「俺はそんなことしてないぞ!」
「そーだそーだ! 少年は友達がいないんだぜ? 俺がかまってやらねーと独りぼっちなんだ!」
否定するザンと、それを擁護する(?)シラフ。オーサンは糸目をさらに細め首を振った。
「では証拠はありますか?」
「証拠?」
「ええ、あなたが犯人で無いという証拠がないのでしたら、大会規定に基づきあなたの所持する出場剣を剥奪させていただきます」
「誤解だ! 俺はやってない! 何かの間違いだ!」
「証拠はないようですね。ではあなたの出場剣を剥奪します」
オーサンがザンの出場剣に手を伸ばした。とっさに拒もうとしたザンの腕をシラフが掴む。
「やめときな少年。連盟と事を構えるのは得策じゃねぇ。後々少年が所属する組織だぞ?」
「……くそっ!」
ザンはおとなしく出場剣をオーサンの前に突き出した。それを受け取ろうとオーサンが剣を掴むが、ザンは出場剣を離さない。
「何のつもりですか?」
「つまり、俺が犯人じゃないと証明できたら問題ないんだな?」
「……ええ。そうなりますね」
「じゃあ俺が大会までに真犯人を見つけ出す! そしたらその剣は返してもらう!」
「それはできません。この剣は新しく大会に申し込んだ方にお渡ししますので」
オーサンは無慈悲にそう告げた。だがザンはあきらめない。
「じゃあ身の潔白を証明した後で他の剣士を倒して手に入れる! これなら問題ないはずだ!」
オーサンが黙った。大会のルールを思い返すが、その条件でザンが大会のルールに抵触することはないと判断せざるを得なかった。
「いいでしょう。身の潔白が証明できた際はどうぞ、予選にご参加いただいて結構です」
オーサンの返事を聞いたザンはようやく出場剣を手放した。オーサンと女性職員は去っていき、ザンは即座に犯人探しを始めたのだった。
それから二日が経った。大会まであと一晩である。ザンはまだ、真犯人を見つけられていなかった。
次回、第8話:孤軍奮闘