第56話 昇格
「こんな所で、死ぬことに、なるとは。しくじりましたねえ……」
胸を貫かれたジーファン。マインはレイピアを引き抜いた。
傷口が開きドバっと血が流れ出る。支えを失ったジーファンはそのまま後ろに倒れた。
「最後に教えて。たたら場の拠点は今どこにあるの? 何人囚われているの?」
マインがジーファンを見下ろす。浅い呼吸を繰り返していたジーファンは観念したかのように目を閉じた。
「もうないですよ。子供たちも全員、収穫しました」
「……どうして?」
ジーファンはゴホッと血を吐いた。呼吸の度にヒューヒューと音が鳴る。
「……納期が差し迫って、いましてね。今から育てても間に……合いません……」
「どういう事? 納期って何? 何が目的で魔剣を作ってたの?」
もう長くはもたない。そう思ったマインは矢継ぎ早に質問する。だがジーファンにはそれに応えるだけの時間は残っていなかった。
「答えて!」
「……じき分かり、ます……よ」
ジーファンの呼吸が止まった。マインがジーファンの名前を呼ぶが、いつまで経っても反応はなかった。
「怪我とかないか、マイン」
頃合いを見計らってザンが声をかけた。マインが振り向く。
「大丈夫よ。……でも、少し疲れちゃった」
「肩貸すか? 治癒院まで送るぜ」
「……いや、それよりも」
マインは工房を見回した。壁には大量の魔剣。
「ここ鍛冶場か? すげえ沢山剣があるな」
「これ、全部魔剣よ」
「え!? これ全部?」
ザンは近くにあった一本をまじまじと見た。
「……ん? じゃあこいつは……?」
ザンがジーファンの死体を見る。マインはザンが知らない事に気づき説明する。
「こいつがジーファンよ」
「そうだったのか! じゃあマインの復讐はもう終わったのか?」
「ええ。でももう少し付き合って。この子たちをこのままにはしておきたくないの」
「この子たち? そうか……どうするんだ?」
「砕いて埋めるのが一番無難だと思う。墓に埋葬して、土に還るように」
「分かった。手伝うぜ」
「……ありがと」
マインはレイピアを見た。付いた血をぬぐうと、透き通るような青い刀身が姿を現した。テオの長い髪を思い出し、マインの目じりが熱くなる。
「さようなら。テオ」
マインはレイピアを抱き、別れを告げたのだった。
「ねえザン!」
「なんだ?」
「ありがとう」
「……? さっき聞いたぜ?」
後日。剣士連盟本部にて。
「では盗賊団討伐の特別報酬として剣聖だったシリュウ様に剣王の称号を与えます」
受付の女性職員がシリュウに金属製のタグを渡した。連盟が認めた剣王の証である。シリュウはそれを左手で受け取る。
「やったな! シリュウ!」
「うむ。だがこれは某一人で手に入れたものでは無い。お主らが助けに来てくれなければ某はレジーナに殺されていた。改めて、礼を言う」
「いい心掛けにゃ! みゃーに感謝するにゃ!」
「マオ様は既に剣王ですので特別報酬のランクアップは対象外となります」
「にゃ!?」
マオは膝から崩れ落ちた。
「剣士のマイン様には剣聖の称号を与えます」
「……どうも」
マインはそっけなくタグを受け取った。そそくさとザン達の元へと戻ってくる。
「おめでとう! マイン!」
「ありがと。ほら、次はザンの番よ」
「おう! これで俺も剣王だぜ!」
ザンは意気揚々と受付に立ったのだった。
「えー……、剣聖であるザン様には剣王の称号は与えません」
「……ええ!? な、なんでだよ!」
職員の発言にザンだけでなくマイン達もどよめいた。マオと違いザンはランクアップの対象である。それも、討伐作戦においてはトップと言える戦果を挙げた張本人だ。特別報酬を受け取れないはずがない。
「すみません、語弊がありましたね。正確には、ザン様は剣王に昇格はしたものの、剣王のタグはお渡ししません」
「どういうことだ?」
「ザン様はソルドンの大会で剣王シラフを撃破、そして今回の討伐で剣王級賞金首スモークを撃破されました。また手配はされていないものの剣帝級の犯罪者を他の剣士と共に討伐したため、これも剣王撃破に匹敵する功績とみなされました」
「お、そうか。……で?」
「これにより剣王のザン様は剣王を三回撃破および剣気の発動を達成したため、更に昇格の条件を満たされました」
「え? それって……」
「よってザン様には剣帝の称号を与えます。おめでとうございます」
「う、うおおおおおおおお!」
万歳。ザン、思わず万歳! そして雄たけび!
「やったあああああああ!」
「なんと!」
「剣……帝……っ!」
「ぬ、抜かされたのにゃ!?」
「これで剣神にまた一歩近づいたぞおおおお!」
「ごほんっ、ロビーでは静かにお願いいたします」
「あ、わりい。嬉しくってつい」
「こちらが剣帝のタグになります。紛失しないよう気を付けてください」
「おう、ありがと!」
職員からタグを受け取るザン。すぐ近くにいる仲間の元へと全力ダッシュで戻った。
「おめでとう、ザン」
「やったな。だが某もすぐに追いついて見せよう」
「みゃーがすぐに追い返すにゃ!」
「お、じゃあ誰が一番に剣神になれるか勝負しようぜ!」
「いや、剣神は無理だと思う」
「百年間誰もなってないのにゃ」
「あれは形として存在するランクだ。剣技の始祖クラウス・モーガン以外をそのランクに据える気は連盟にはあるまい」
「なんだよ夢がないな。俺はこの剣に誓って剣神になって見せるぜ! 絶対に諦めねえ!」
ザンが剣を掲げる。よく磨かれた刀身が光を反射した。
こうしてザンは剣帝に昇格したのだった。




