第46話 暴走
両腕が剣に変貌したレジーナ。
縮地を使いザンの背後を取る。
ザンは回りながら攻撃を避けた。そして反撃しようとし、レジーナが相打ちを狙っていることを察知し距離を取った。
マインドアイを発動した今、ザンの目には、レジーナの体内の剣気の動きが鮮明に映っていた。そして、レジーナの次の動きも。
「……これが剣気の感知か」
思わずそう漏らすザン。まるで今まで自分は目を閉じて生きて来たのではないかと思えるほど、目に入る情報すべてが新鮮だった。
剣気は、どこまでも雄弁であった。
「余裕ぶっこいてんじゃないわよ!」
斬撃を飛ばすレジーナ。ザンはそれを間一髪斬り落とした。
以前のザンであれば、同じことはできなかっただろう。恐らく斬撃が飛んできたことにも気づかずに死んでいたはずだ。それほどまでに本気のレジーナの斬撃は速かった。
正面戦闘が専門ではない暗殺者といえど、やはり剣帝クラス。その実力は並の剣士とは比べ物にならないものであった。ザンが対抗できているのは、剣気の動きからレジーナの動きを予測しているからである。
それでやっとスタート地点。レジーナと最低限渡り合える段階であった。今のザンでも、一人ではかなり分が悪かっただろう。
「零閃!」
シリュウが居合を放った。レジーナは放たれる前に間合いから逃れる事でそれを躱した。
「くそっ! あと一歩届かん!」
レジーナの反撃を警戒しながらシリュウが歯噛みした。動きを予測できるのはレジーナも同様。戦いは互いの手の読みあいと化していた。
そして剣気を読むことにおいて、レジーナはザン達とは経験の厚みが違う。
「もう終わらせるわ!」
レジーナがシリュウに突進した。シリュウが居合の構えでそれを迎える。そして剣気の動きから、レジーナが右に避けると察知し零閃を放った。
空を切る刀。
レジーナは左に避けていた。
「フェイントか!?」
動揺を隠せないシリュウ。
レジーナは剣気の動きを操作し右に動くと偽った。そして実際には左へ。剣気による行動予測を逆手に取ったのである。
隙をさらしたシリュウへと手刀が迫る。
「全力気合スイング!」
ザンが横から介入した。ザンの剣を受け止めたレジーナの足が止まる。そこへシリュウが斬鉄剣を放った。レジーナは下がって避ける。
「ああもう! うっとおしい!」
「おばさん、何を焦ってるんだ?」
「おばっ!? 私は四捨五入したらまだ二十歳よ!」
「ししゃごにゅうってなんだ?」
「サバを読めはニ十歳という意味であろう」
「なるほど!」
無駄口を叩きながらも動きを読みあう三人。猛攻の気配を見せるレジーナに対して、ザンとシリュウは互いをフォローしながら守りの構えを取っていた。
シリュウがフェイントにかかった。僅かに隙ができる。反射的にレジーナが踏み込んだ。そして最速で貫手を放つ。
「来ると思ったぜ!」
ザンが割って入り貫手を弾いた。そのままレジーナの前を通りすぎる。レジーナには、通り過ぎたザンの陰からシリュウがいきなり現れたように見えた。
「フェイントのわりに動きが単調だぜ!」
「零閃!」
「がぁっ!?」
ガキィン、と鈍い金属音がして、レジーナが逆袈裟に斬られた。鋼化を正面から破る一撃。
だが前よりも浅い。剣気の過剰供給によって鋼化が暴走しているため、防御力も跳ね上がっているのである。
「ちっ、剣気の差か。出力が違いすぎる」
「でも効果ありだぜ! 傷のせいで剣気が乱れてるぞ!」
「うむ、それにやはり焦っているな。奴の方が強いのは変わらんだろうに、一体何を急いでいる?」
「いい加減に、死んで!」
レジーナが無闇やたらに斬撃を飛ばしまくった。視界を埋め尽くすほどの物量攻撃。だが遠距離な分威力は大したことはなかった。ザン達は冷静に斬撃を撃ち落としていく。
斬撃が晴れた時、レジーナは同じ場所に佇んでいるように見えた。
レジーナの居場所に、彼女の剣気がない。
「残像!?」
「遅い!」
死角に回り込んでいたレジーナがシリュウを斬り付けた。レジーナが気配を隠していたためシリュウは反応が遅れもろにそれを食らってしまう。
背中から血を流すシリュウ。
「こんにゃろ!」
「くっ、斬鉄剣!」
二人が反撃する。総力戦だ。三人は入れ代わり立ち代わり斬り結ぶ。手の読みあい。それはもはや詰将棋の様相を呈していた。一手でも先に間違えた者から脱落していく綱渡り。
そんな中で、刻々と、レジーナにタイムリミットが近づいていた。
電撃を受け膝をついたマイン。そんなマインの髪を掴み、ジーファンが笑みをこぼした。
体がしびれ抵抗できないマイン。声を出すこともできず、ただジーファンを睨むことしかできなかった。怨嗟のこもった視線はしかし、ジーファンには何の意味もない。
「やっとおとなしくなりましたか。結構魔剣を消費してしまいましたね。赤字にならなければいいのですが」
そう言いながらマインを値踏みするジーファン。マインから何本の魔剣を生み出せるか試算しているのだろう。ジーファンは満足げに頷いた。
「では早速、収穫させてもらいましょうか」
レジーナの両手は鋼化の暴走により剣と化している。そして暴走が進むにつれ徐々にその刃渡りを伸ばしていた。さらにその効果が関節にまで広がり始める。動きが固くなる。
レジーナは限界が近い事に気付いていた。そして決着がつかない事に焦りが募る。その結果、動きが直線的になり動きを読まれやすくなっていた。
「零閃!」
「ぐっ!」
三度受けてしまった傷。それにより剣気のコントロールがさらに乱れていく。剣技がさらに暴走する。
これ以上暴走させてしまったら、取り返しがつかない。
全身を蝕んでいく鋼化。
限界を超えてしまえば、待つのは破滅だけ。
レジーナから緊張の汗が流れた。
「全力気合スイング!」
斬り合いの中、ザンの攻撃がかすめた。撒き散らされるザンの剣気がレジーナの剣気に干渉し、ギリギリのところで保っていた鋼化の制御を崩壊させた。
「――っ!」
その瞬間、レジーナは一線を超えた。
「剣技、オーバーブースト」
ジーファンがマインに対して剣技を発動した。
他の剣技を強化するのがオーバーブースト。魔剣に対して使用できたように、その強化は他人に対しても有効である。
そして強化しすぎると、剣技は暴走を始める。
ジーファンの投擲した魔剣の場合は自爆した。魔剣の効果が爆発だったからである。
ジーファンはそれを、マインの鋼化にかけた。
収穫とは――
「う、嘘よ! この私が……!」
鋼化が暴走する。必死にコントロールを試みるレジーナを嘲笑うかのように、鋼化は彼女の体を侵食していった。
「何が起こってるんだ!?」
「剣気が荒ぶっているぞ!」
状況を把握しきれないザンとシリュウ。レジーナはもはや戦いどころではなくなっていた。
「ああああああああぁぁaaaaaAAAAAAAAAAAAh!」
レジーナの全身に鋼化が広がる。腕が、足が、胴体が、そして終いには頭までもが。
レジーナの動きが止まった。
全身が鋼鉄と化し、動けなくなったのである。
否、生き物ですらなくなっていた。
そこに残ったのは
恐怖に顔を歪ませた、鉄製の女性の像であった。
魔剣は、人間を材料に作られている。




