第4話 目指す理由
ガルンの振るった丸太をザンは剣で受けた。衝撃がザンの体を突き抜け全身が悲鳴を上げる。
だがザンは、かろうじて丸太を止める事に成功していた。
「ばかな!? 止めやがった!」
「俺は、剣神を目指す! こんなとこで躓いてる暇はねえんだ!」
ザンがガルンを見据えた。これまでに受けたダメージは軽いものでは無い。だがザンからは闘志が失われてはいなかった。
「世間を知らねえガキが! 大言壮語を吐くんじゃねえよ!」
ガルンが連撃を放つ。その攻撃を、ザンは全て剣で受け止め命を繋いでいた。
「剣一本で丸太を受け続けらるわけがねえだろ! 折れろ! 折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ!!」
ガルンの振り上げた丸太がザンのあごを打ち上げた。ザンの体が宙を舞う。上を見上げたザンが目を細める。そこにあるはずの太陽は見えず、視界が霞んでいった。
ザンの目に二人の少年が映った。片方は血を流し、もう片方は泣きながらそれを支えている。周囲の家は焼け崩れており、道にはよく知る村人たちが倒れ伏していた。ザンにとっては忘れられない光景だ。
泣いている少年は、かつてのザンだった。
「なんで……なんで俺を庇ったんだよ! アルト!」
過去のザンがアルトと呼んだ少年は、ザンの腕の中で弱々しくも笑って見せた。
「親友を助けるのは、当然だろ? ザンが無事でよかったよ……」
「それでお前が死んでどうするんだよ! 俺を一人にしないでくれ! 死ぬな!」
「それは……無理かな。血が、止まらないんだ」
アルトの体がみるみる冷たくなっていく。もういつ死んでもおかしくなかった。
「ごめん! 俺が弱かったから、俺が弱いせいでアルトが……」
「最初から、強いやつなんていないさ。僕だって父さんに剣を教えてもらえなければ弱いままだったよ。ザンが気に病むことない……よ」
「約束するよアルト! 俺は絶対に強くなるから! 大事な物を守れるくらい強くなるから!」
少年のザンの顔はいつのまにか涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた。ザンは顔をぬぐい鼻をすする。真っ赤に腫れ上がった目じりはまたすぐに涙で濡れていった。
「なれるさ。ザンなら……」
アルトはそう言い微笑むと、そのまま動かなくなった。ザンの手にかかる重さがふっと重くなる。アルトが死んだのだと、少年のザンは直感した。
過去の自分を離れて見ていたザンは、自分の背後に誰かが居るのを感じた。振り返るとそこには成長したアルトが居た。もしアルトが生きていれば、今頃こんな姿になっていただろうとザンは思った。
「アルト……」
「ねえ、ザン。一つ聞いていいかな?」
「……なんだ?」
「どうして剣神を目指そうと思ったの? 僕はてっきり、剣士になって悪人を倒すとか、そういう事だと思ってたんだけど」
アルトの問いかけにザンはふっと笑った。
「馬鹿だなぁ、アルトは。もしその悪人が世界一強かったらどうするんだよ。俺が世界一強くなるしかねえだろ? つまり剣神を目指すって事じゃん!」
アルトは少し目を丸くした後、ザンにつられて笑った。
「……ザンは相変わらずだね。馬鹿で世間知らずで向こう見ず。でも、ザンらしいって思うよ」
「見てろよ! 俺の剣士の道はここから始まるんだ!」
「まだ剣士にもなれてないけどね」
「おまっ、それを言うなよ!」
「無茶はしないでって言いたいけど、ザンには言っても無駄だろうね」
「ああ、もう誓ったからな。だから俺は……」
ザンは空中で体をよじり体勢を整え着地した。親友の形見を握る手に再び力が入る。手になじんだその剣は鋭く光を反射した。
「俺は、絶対に折れねえ!」
ザンの気迫がガルンの殺気を凌駕した。気合で負けたことにガルンがたじろぐ。
「この! いい加減くたばっちまえ! エレクタイル・ブースト!」
ガルンの丸太がさらに倍近く巨大化した。樹齢千年の神木に匹敵する太さの丸太をガルンが振り下ろす。
「潰れろ! 必殺! 征服する俺の世界樹!」
「おりゃあああああああ!!」
ザンが迫る丸太を迎え討つように剣を振るった。丸太と剣が打ち合わされ拮抗する。
「なに!? 互角だと!?」
「俺は負けねえっ!」
「折れろぉ!」
音が鳴り響き、剣が折れた。
折れたのはガルンの木剣だった。
「ば、馬鹿な!! 丸太がへし折られただとっ!?」
「今度は俺の番だ!」
「ま、待て! 話せば分かる!」
ガルンが両手の平をザンに向けた。折れた木剣は元の大きさになってガルンの足元に散らばっている。すでにガルンの戦意は失われていた。
「問答無用!」
ザンは剣の側面を、ガルンの頭頂部に思いっきり叩き込んだのだった。
「勝負あり!」
審判のシラフがそう宣言する。ガルンは白目を剥いて気絶し倒れ、ザンもまた全身の痛みから仰向けに転がり意識を手放したのだった。
「まさか少年が勝つとはな~。こりゃ大番狂わせだぜ。それに木剣を破壊したあの攻撃、不完全だが剣技だったな。土壇場で剣技を発現させるとは、くくっ、中々の逸材じゃねえか」
シラフは一人つぶやくと、酒の瓶をぐいっと煽ったのだった。
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次回、第5話:謎の少女