第37話 思わぬ邂逅
盗賊側の剣士は数人のみ。一人一人はそれなりに強い。当然である。賞金をかけられながら今まで生き残ってきたのだ。弱い訳がない。
現にディンスやハッチは討伐隊相手に無双していた。並の剣士では分が悪い。もし彼らを自由にさせていれば、討伐隊が壊滅する可能性も十分ある。この討伐作戦のカギは、賞金首を倒せるかどうかにかかっていた。
そして現在、ディンスはマオと、スモークはザンと戦闘中である。これは非常に大きい。敵の大半を占める雑兵には問題なく勝てる。敵の剣士を足止めするだけで戦況は討伐隊側へと傾いていくのだ。
そして今、シリュウは敵地奥まで一人で乗り込んでいた。そして盗賊に囲まれ一進一退の攻防を繰り広げていた。
剣聖、それがシリュウのランクである。剣聖は討伐隊に六人しかいない。それはシリュウが討伐隊の中では比較的上位の実力者である事を意味していた。魔剣を持っているとはいえ、盗賊相手では一対多でもさほど苦戦することはない、はずだった。
「くっ!」
盗賊の剣技を刀で受け、シリュウは歯噛みした。利き手を失った事でシリュウは実力が出せないのである。
得意の居合も、そして剣技すらも今のシリュウには使えない。本来の実力が出せればシリュウを囲む盗賊くらい一瞬で片づけられる。それだけに、シリュウは右腕があればと思わずにはいられなかった。
「だが負けられん! 某は師匠の仇を討たねばならんのだ!」
シリュウが自身を鼓舞し殺気を放つ。その殺気に煽られ盗賊たちが僅かに仰け反ったのをシリュウは見逃さなかった。一気に距離を詰め刀を振るう。
「ぎゃああああ!」
シリュウに斬られた盗賊が狂乱する。そしてシリュウも焦っていた。胴を両断するつもりが、背骨に刃が引っ掛かり抜けなくなってしまったのだ。
「チャンスだ! やれ!」
背後から盗賊二人が斬りかかってくる。防御が間に合わない。
「トリプルアクセル!」
そこに何者かが乱入した。空中で独楽のように回転しながら剣を振りまわす。そうして盗賊たちの攻撃を弾きシリュウを庇った。
「大丈夫か? 片腕の」
「お前は、ウォン!」
それは討伐隊リーダーの剣王ウォンだった。
「かたじけない! しかしどうしてここに?」
「突入班に片腕の奴がいるなと思ってな、念のためいつでもフォローできるようしていたって訳だ」
ウォンはドヤ顔でそう言った。そのウォンに背後から盗賊が斬りかかる。
「剣技! 一本背負いスイング!」
一本背負いの動きで剣を袈裟に振る盗賊。柔よく剛を制すことで重い大剣を高速で繰り出す剣技である。地面に叩き付けられる大剣。その美しい背負い投げにシリュウは思わず心の中で一本と右手を上げる。
「当たらねえぜ」
だがいつの間にか盗賊の背後に回り込んでいたウォン。なぜかタップダンスを踊っていた。
「なぜタップダンスを!?」
思わず疑問を口にするシリュウ。ウォンはニヤリと笑った。
「プロのタップダンサーは重心をブラすことなくタップを踏める。つまり戦闘中にタップダンスを踊れば重心を安定させたまま移動できるという事だ!」
「なるほど分からん!」
自慢げに解説するウォンに再度斬りかかる盗賊。ウォンはまたしても一瞬でその背後を取った。
タップダンスは一秒に十五回も地面を蹴ることが出来る。ウォンはそれを移動の踏み込みに応用することで高速移動を可能にしていた。
「タップステップバックアタック!」
ウォンに背を斬られ盗賊が倒れた。シリュウは助けられたことになる。シリュウは内心歯噛みした。他人の手を煩わせてしまった自分に腹が立ったのである。
一方ウォンは戦況を見極めるため周囲を見回していた。
「ん? あれは皆殺しハッチか。他の隊員じゃあ手に余るみてーだな」
遠目に飛び回るハッチを目視したウォン。空中の敵に討伐隊員は苦戦しているようだった。ウォンは自分がハッチに対処する事にする。
「剣技! カリスマ引力!」
ウォンが剣技を発動した。人を惹きつけるカリスマで敵を引き寄せる剣技である。
「な、なんだぁ!? この引力は!」
ウォンに引っ張られハッチの高度が下がる。ハッチは引力から逃れようと羽ばたき上空を目指した。だが引力を振り切れず徐々にウォンに近づいていく。
「てめえの仕業か! 放しやがれ!」
ウォンが犯人であると気づいたハッチが叫ぶ。その高度はウォンの剣が届きそうなほどに下がっていた。ウォンが剣を振りかぶる。
「俺は剣王ウォン! てめーを討伐する男だ! その名をよく覚えておくがいい! そして地獄で俺の武勇を語り継げ!」
ウォンが間合いまで引きずりおろされたハッチへと剣を振るう。ハッチは逃げることが出来ず叫んだ。
「ちくしょおおおお!」
空中を血が舞った。首を両断されたことで頸動脈から血が噴水のように噴き出る。
「なっ!?」
シリュウは目を見開いた。そしてそれは、ハッチも同様であった。
ドスンと音を立ててウォンの体が倒れた。なおも噴き出る血が地面に染みを作る。首を斬られたのはウォンだった。そしてその生首を掴み微笑む女が一人。
「ねえ、そこの剣士さん。剣王ってことはこいつがあなた達のリーダーかしら?」
女がシリュウに問いかけた。そしてシリュウを見て目を丸くする。
「あら? あなたカミカゼの弟子じゃない。右手を斬り落としたのに、まだ引退してなかったのね」
ウォンの首を斬ったにもかかわらず、その女は剣を持っていなかった。その手にはウォンの血。そして赤く濡れていて分かりにくかったが、肌が銀色に変化していた。鋼化である。
「……貴様の手がかりが一つでもあればと思っていたのだが、まさか本人にたどり着けるとはな」
シリュウが低い声でつぶやく。刀を握る手は力が入りすぎて震えていた。
「来る日も来る日も、貴様を殺す事ばかり考えていた。師匠が死んだときのことを、今でも忘れられない。あの時からずっと、無力な自分に腹が煮えくり返っていた!」
シリュウから殺気があふれ出た。女を見据え、そして切っ先を向ける。
「探したぞ! レジーナぁ!」
「……なんで私の名前を知ってるのよ」
先ほどまでの笑みとは打って変わって顔をしかめるレジーナ。暗殺者という職業上、自分の正体を知られる事には敏感なのだろう。
「某が答えると思うか」
「……まあいいわ。それよりいい事思いついたわ。ハッチ!」
レジーナがウォンの首をハッチに投げ渡した。両手が塞がっているハッチはそれを足で挟んでキャッチする。
「首持って戦場一周してきなさい! 剣王が死んだと知れば敵も動揺するわ。せいぜい派手に宣伝することね!」
「ヨッシャ!」
ハッチが飛び去る。レジーナと戦うつもりだったシリュウはさすがにそれを見過ごせずハッチを追う。
「待て! 仲間の亡骸をそんな事に使うなど許せん!」
「おっと、あなたの相手は私よ」
シリュウの前に回り込み足止めをするレジーナ。シリュウは歯ぎしりした。
「どうして私の名前を知っているのか、無理やりにでも話してもらうわ。他にも私の事知ってるかもしれないしね」
レジーナにシリュウを見逃すつもりはなさそうだ。シリュウはしかたなく先にレジーナに挑むことにする。そしてレジーナへと突進した。
「師匠の仇、今ここでとらせてもらうぞ!」
「うるさいわね。一方的な男は嫌われるわよ?」
シリュウの刀とレジーナの手刀が交わる。シリュウの仇討ちが、始まった。




