第33話 討伐準備
マインの話を聞いたシリュウが勢いよく頭を下げた。
「すまない。某はお前の事を犯人だと決めつけていた」
怒りに満ちていた先ほどまでとは打って変わり殊勝な態度のシリュウ。いつまでも頭を下げたままのシリュウにマインが声をかける。
「別にいい。疑われても仕方がない事だし」
「言いたくないであろう過去の事まで言わせてしまった。なんと詫びればよいか……」
「気にしてないから。それに魔剣を追っていれば、いつか仲間に打ち明ける必要はあったかもしれないし」
マインがちらりと横目でザンを見る。ザンは、怒っていた。
「ジーファンってやつ許せねえ! 人間を剣の材料にするとか頭おかしいだろ! 絶対に見つけ出そうな! マイン!」
「なんでザンが怒ってるのよ」
「当たり前だろ! マインも酷い事されたんだろ? そんなんあれだ! えっと……とにかく許せねえ!」
怒りが先行して語彙が消えたザン。マインはそんなザンを見てクスリと笑った。
「ねえザン」
「なんだ!?」
「ありがと」
「おう! ……なにが?」
首をかしげるザン。マインはザンに秘密とだけ返した。
「一つ頼みがあるのだがいいだろうか?」
ザンとマインのやり取りが終わったのを見計らってシリュウが口を開いた。
「なに?」
「お前たちはジーファンとやらを追っているのだろう? もしよければ某も同行させてくれないか? お前たちといれば師匠の敵であるレジーナにもたどり着けるかもしれん」
「私はいいけど……」
マインがザンを見る。ザンは頷いて口を開いた。
「マインに任せる! 俺はマインを手伝うって事で!」
「じゃあマオ……私のもう一人の仲間にも確認して問題なければ、って事で」
「かたじけない。某も微力ながら力を尽くそう。改めて、某の名はシリュウ。ランクは剣士だ」
「よろしくなシリュウ! 俺はザン。ランクは剣聖だ」
ザンが握手をしようと右手を出した。それを見たマインがザンをどつく。
「馬鹿ザン! 左手!」
「左手?」
ザンはシリュウの右肩を見てようやくマインの意図に気付いた。慌てて左手を差し出す。
「わりい。右手がない人に右手で握手求めたら失礼だよな」
「口に出さなくていいから!」
ザンとマインのやり取りを見ていたシリュウは初めて笑い、ザンと握手をした。
「お前たちは仲がいいんだな」
「おう! 友達だからな」
「いや……まあそうね。ザンとは友達よ」
次いでシリュウとマインも握手を交わした。後はマオの帰還を待つのみである。待つ間、ザンとマインは途中だった手合わせを再開した。ザンは剣技を封印したままマインの攻略を目指したが最後までマインの防御を抜くことができず、手こずっている隙にマインに顎先を殴られ失神した。手合わせはマインの勝利に終わったのだった。
そして夜。連盟本部にマオが無事帰ってきた。休憩所で待っていたマイン達を見つけ駆け寄って来る。マインがシリュウを紹介し、マオはシリュウの仲間入りを承諾した。こうしてシリュウが正式に仲間に加わった。
そしてマオは突き止めた盗賊のアジトについて報告を始める。
「敵の数はテントの数からして六十くらいと思われるにゃ」
「それって多いのか?」
「予想よりもだいぶ多いにゃ。多分、今まで別のグループと思われていた盗賊団が実は一つのグループだったのにゃ」
「問題は敵の質よ。敵側に賞金首は居た?」
「剣士らしい気配は三つあったにゃ。それ以外は魔剣を持っているだけの雑魚にゃ」
マインは顎に手を当てしばし考え込んだ。
「……多分、もう一人くらいは剣士が居ると思ったほうがいいわね」
「同感にゃ。この規模ならありえるにゃ。みゃーが探った時には出かけてたのが居てもおかしくないのにゃ」
「勝てるか?」
「敵の剣士の内一人は剣王級賞金首のスモークとして、他に剣王クラスが居ればきついと思う」
賞金が掛けられた盗賊はどれも長年討伐から逃れてきた強者ばかりである。中にはスモークのような剣王クラスも居る。それがもう一人敵側に居ないとは、とても断言できなかった。
「俺たちだけじゃ手に余るって事か」
「ええ。連盟に報告して、討伐隊を組んだほうがいいと思う」
「みゃーも同意見にゃ。敵は六十人にゃ。討ち漏らしが無いようにするにはこちらも人数が必要にゃ」
「某も賛成だ。連盟に報告すべきだろう」
四人とも意見が一致し、マイン達は盗賊の情報を連盟に報告した。盗賊の拠点を突き止めたマオが剣王であり信ぴょう性が高いと判断された事もあり、すぐさま討伐隊員の募集がかけられた。連盟は敵の規模から討伐隊の最低人数を三十人と設定。さらにマオ以外に剣王がもう一人参加し指揮を執ることを絶対条件に定めた。その剣王については連盟が選出して参加を依頼するらしい。連盟は一気に慌しくなった。
マイン達は当然、討伐に参加する。マイン達四人は今、連盟の休憩所で討伐隊のメンバーがそろうのを待っていた。
「なんか、大事になったな」
ザンが連盟を見渡してそうつぶやく。窓口の奥では職員が書類片手に忙しそうに走り回っていた。討伐隊を組むだけで、何をそんなに準備しないといけないのかザンには想像がつかなかった。
「連盟もそれだけ盗賊を煩わしく思ってたということにゃ。剣技犯罪が増えて連盟への風当たりも強くなってるにゃ。威信を取り戻すには絶好の機会なのにゃ」
「ふーん。でも剣技犯罪って別に、連盟に所属してる剣士が犯罪してる訳じゃないだろ? なんで連盟の風当たりが強くなるんだ?」
「剣技犯罪を犯すのはほとんどが未登録の剣士にゃ。でも世間は剣士に登録未登録なんで区別はつけてないのにゃ。だから連盟には剣士の管理が不十分だと不満が向けられるのにゃ」
「その話なら某も師匠から聞いたぞ。今国の上の方では、剣技が使える者は連盟への登録を義務化するという法の制定について議論しているという」
「無駄じゃない? そんな法律作っても、犯罪者が登録しに来るはずないでしょ」
「そんな事無いにゃ。その法律が施行されれば未登録の剣士はイコール犯罪者にゃ。連盟は剣士の管理努力を怠ってないと主張出来るにゃ。それに国も今まで以上に剣士の実態を把握できるにゃ」
「国からすれば未登録の剣士が多い今の状況は、誰が武力を所持しているか分からないという事だからな。無理もない。国とは国民を管理したがるものだ。今後剣士を縛る法は増えていくのではないか?」
「あり得るにゃ。その内剣技の内容まで調べられる日が来るかもしれないにゃ」
「それは嫌ね。あんまり自分の剣技の事は知られたくないし」
次第に難しくなっていく話にザンは頭が追い付かなくなった。ふと連盟内を見渡しても、討伐隊員はまだそれほど集まっていない。既に夜も遅くなって来たのだから仕方ない事ではある。討伐隊の結成は明日になるだろうとザンは予想した。
結局その日はザンの予想通り、討伐隊員は半分ほどしか集まらなかった。連盟が閉じたため、ザン達は明日に備えて解散することにしたのだった。




